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ガイア戦記 ― 歪められた世界の選択  作者: マロン
第三章 疑念の世界

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第三章 第三節 第五話 交わらない視線

王都の朝は、

静かに始まった。


宿の窓を開けると、

通りにはすでに人がいる。


商人。

職人。

衛兵。


それぞれが、

それぞれの役割を淡々とこなしている。


「……よく出来てる」


ライナスが、

小さく呟いた。


昨日も感じたことだが、

今日になると、

さらに強くなる。


この街は、

“流れ”が決まっている。


「自由に動いてるようで、

全部、

決まった場所に戻っていく感じね」


リシアが言う。


「人も、

話題も」


「噂すら、

予定調和みたい」


ドゥリアは、

朝食のパンをかじりながら言った。


「でもさ、

普通に暮らす分には

楽そうじゃない?」


「危なくないし、

争いもなさそうだし」


「……それが問題なのよ」


リシアは、

視線を通りへ向けた。


「王都なのに、

意見のぶつかり合いが無さすぎる」


「誰も、

誰とも揉めてない」


「それって、

変?」


ドゥリアが首を傾げる。


フィリアが、

優しく答えた。


「揉めない街は、

理想に見える」


「でも、

人が多ければ、

考えも増える」


「増えた考えが、

見えないのは……」


言葉を、

そこで止めた。


ーーー


昼前。


王都の冒険者ギルド前。


巨大な建物だが、

中の空気はどこか違った。


活気はある。

依頼も多い。


だが、

張り詰めた感じがない。


「……港町の方が、

よっぽど緊張感あったな」


ライナスが言う。


「命が近い場所ほど、

本音が出る」


ネレウスが答える。


ギルドの掲示板の前では、

数組の冒険者が話していた。


「最近、

混成パーティーが増えてるらしいぞ」


「人間と、

他種族?」


「治安が悪くなるって、

貴族連中が嫌がってるらしい」


「でも、

王は何も言わないんだと」


その言葉に、

リシアが目を細める。


「……何も言わない、

ね」


「止めないのか、

止められないのか」


「どっちだと思う?」


ライナスが聞く。


「どっちも、

あり得るのが嫌ね」


ーーー


ギルドを出ると、

視線を感じた。


好奇の目。

羨望。

警戒。


混ざり合わない。


「あ……」


ドゥリアが、

小さく声を上げる。


少し離れた場所で、

若い冒険者がこちらを見ていた。


人間の少年。

まだ装備も新しい。


「……あの」


意を決したように、

声をかけてくる。


「もしかして、

魚人の国を助けたっていう……」


ライナスは、

一瞬戸惑い、

頷いた。


「……ああ」


少年の顔が、

ぱっと明るくなる。


「すごいです!」


「他種族と一緒に戦うなんて、

憧れます!」


その言葉に、

周囲の空気がわずかに揺れた。


別の視線。

冷たいもの。


「……やめとけ」


横から、

低い声が飛ぶ。


年嵩の冒険者。


傷の多い鎧。

長年の経験がにじむ顔。


「混成なんて、

トラブルの元だ」


「王都じゃ、

余計に目をつけられる」


少年は、

口をつぐむ。


「でも……」


「英雄ごっこは、

ほどほどにしとけ」


その視線は、

明らかにライナスたちを見ていた。


敵意というより、

諦めに近い。


「……すみません」


少年は、

深く頭を下げて去っていった。


残ったのは、

重い沈黙。


「……見た?」


リシアが、

低く言う。


「憧れと、

拒絶」


「同じ場所に、

同時にある」


フィリアは、

胸元で手を組んだ。


「世界が、

動き始めてる証拠かも」


「良い方向かは、

まだ分からないけど」


ーーー


午後。


王城近くの通り。


貴族の屋敷が並ぶ区域。


空気が、

また変わる。


視線が、

露骨だった。


「……あれ」


ドゥリアが、

小声で言う。


「完全に、

見下されてる」


「冒険者風情、

って顔だな」


ライナスは、

肩をすくめた。


だが、

一つ違う点があった。


貴族たちの不満は、

言葉にならない。


「普通なら、

文句の一つや二つ、

聞こえてきてもいい」


リシアが言う。


「ベルクの件だって、

貴族側からすれば

大問題のはず」


「なのに、

誰も口にしない」


ネレウスは、

城の方角を見た。


「……王の意志か」


「それとも、

王の意志を借りた誰かか」


誰も、

否定しなかった。


ーーー


夕方。


宿へ戻る道すがら。


王都の街は、

今日も平穏だった。


だが、

その平穏は、

どこか不自然だ。


「……分断されてる」


ライナスが言った。


「冒険者。

貴族。

市民」


「それぞれ、

同じ街にいるのに、

同じ話をしてない」


「交わらないように、

されてる感じがする」


リシアは、

静かに頷く。


「誰かが、

意図してね」


フィリアは、

空を見上げた。


「魚人の国では、

ぶつかって、

痛みを知った」


「ここでは……」


言葉を選び、

続ける。


「痛みそのものが、

表に出てこない」


ドゥリアは、

小さく拳を握る。


「なんか、

やだな」


「静かなのに、

落ち着かない」


ネレウスが、

低く言った。


「澱んだ水は、

気づかぬうちに

毒になる」


「王都は、

その手前だ」


三日後、

王に会う。


この街の中心に立つ存在。


そこに、

すべてが集まっている。


違和感は、

もう隠れなくなっていた。


それでも、

まだ確信はない。


だが、

確実に言えることが一つある。


王都は、

何かを隠している。


そして、

それは偶然ではない。

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