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ガイア戦記 ― 歪められた世界の選択  作者: マロン
第三章 疑念の世界

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第三章 第三節 第四話 王都に流れる、揃いすぎた声

王都での二日目は、

静かに始まった。


昨日歩いた通りを、

もう一度なぞるように進む。


露店の配置。

人の流れ。

衛兵の巡回。


どれも、

昨日とほとんど変わらない。


「……整ってるな」


ライナスが、

ぽつりと言った。


「整いすぎてる」


リシアが、

すぐに言い換える。


「人の流れも、

話し声も、

反応も」


「全部、

想定通りみたい」


フィリアは、

通りを行き交う人々を見つめる。


笑っている。

話している。

買い物をしている。


平和そのものだ。


「でも、

不安とか、

不満とか」


「そういうのが、

見えないね」


ドゥリアが、

首をかしげる。


「王都なんて、

もっとゴチャゴチャしてるもんだと思ってた」


ネレウスは、

腕を組んだまま言う。


「魚人の国とは、

別の意味で閉じている」


「外を拒む閉鎖ではなく、

内を揃える閉鎖だ」


「……息苦しい?」


「気づきにくいだけで、

そうだ」


ーーー


昼前。


広場に近づくと、

人だかりができていた。


「なんだ?」


近づくと、

即席の演壇が設けられている。


貴族の服を着た男が、

声を張り上げていた。


「王のご英断により、

王都の治安は保たれている!」


「余計な混乱を生む者は、

排されねばならない!」


拍手が起こる。


だが、

まばらだ。


視線を合わせて、

叩いている者もいる。


「……あれ」


ドゥリアが、

小さく言う。


「本当に、

拍手したい感じじゃないね」


「でも、

止めてる人もいない」


フィリアが言う。


「反対も、

質問も」


「全部、

出てこない」


リシアは、

貴族の背後に立つ者たちを見た。


「……王に近い家の紋章ね」


「ベルクの件で、

文句が出てもおかしくないのに」


「誰も、

声を上げない」


ライナスは、

眉をひそめた。


「俺たちが、

あいつを捕まえたんだよな?」


「貴族にとっては、

面白くない話のはずだ」


「……なのに、

誰も触れない」


そのときだった。


「触れさせない、

が正しいかな」


いつの間にか、

横に人影があった。


「……ムルア」


フードを深くかぶった男。


気配が、

まるでなかった。


「王都はね、

声を揃えるのが上手い」


「揃えられない声は、

出る前に飲み込まれる」


「それって……」


ドゥリアが、

不安げに聞く。


「悪いこと?」


ムルアは、

肩をすくめた。


「さあ」


「秩序って言えば、

聞こえはいい」


「でも、

都合の悪い音が消える場所は、

だいたい危ない」


「……勇者像も、

そんな感じだな」


ライナスが言う。


「立派だけど、

なんか、

生きてない」


ムルアは、

一瞬だけ口角を上げた。


「鋭い」


「王都の勇者像は、

“今の王都”に都合のいい勇者だ」


「……どういう意味だ?」


「さあね」


ムルアは、

いつものように答えを濁す。


「全部を知るには、

まだ早い」


「ただ――」


一歩引いて、

背を向けながら言った。


「歴史が一つの形で

語られている場所は、

大体どこか歪んでる」


それだけ言って、

人混みに溶けた。


ーーー


宿へ戻る道。


誰も、

すぐには口を開かなかった。


「……あいつ」


ドゥリアが言う。


「毎回、

気になることだけ言って消えるよね」


「情報屋気取り」


「でも、

間違ったことは言ってない」


リシアが答える。


「王都は、

静かすぎる」


「反発も、

混乱も、

全部無い」


「それが、

一番の違和感だ」


フィリアは、

小さく頷いた。


「平和って、

もっと揺れるものだと思う」


ネレウスは、

低く言った。


「揺れない水は、

澱む」


その言葉が、

妙に胸に残った。


三日後、

王に会う。


そこで、

何が語られるのか。


あるいは、

何が語られないのか。


王都の空は、

今日も穏やかだった。


だが、

揃いすぎた静けさの下で、

確かに何かが息を潜めている。


誰もが、

それを感じ始めていた。

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