第三章 第三節 第三話 王都の静かな時間
王都に着いたその日は、
驚くほど静かだった。
人は多い。
通りは広く、
建物は高い。
港町とは比べものにならない規模なのに、
空気は整いすぎている。
騒がしさはある。
活気もある。
だが、
どこか「荒さ」がない。
「……思ってたより、
普通だな」
ライナスが、
通りを眺めながら言った。
「王都って聞くと、
もっとピリピリしてるかと思ってた」
「あなたの想像、
だいぶ偏ってるわね」
リシアが肩をすくめる。
「陰謀が渦巻いてて、
歩くだけで刺客に狙われる、
みたいな?」
「否定しきれないのが怖い」
フィリアが、
小さく笑った。
王都の通りには、
露店が並び、
焼き物の香りや、
甘い菓子の匂いが混じっている。
ドゥリアは、
すでに屋台の前で足を止めていた。
「ねえ、
これなに?」
丸い焼き菓子が、
串に刺さっている。
「王都名物だな」
ネレウスが答える。
「麦と油と、
あと……説明しにくい何か」
「説明放棄しないで!」
結局、
全員で一本ずつ買うことになった。
「……あ、
おいしい」
ドゥリアが目を丸くする。
「でしょ」
ネレウスが、
どこか得意げに言う。
「魚人の国にも、
こういう屋台があればいいのに」
フィリアのその言葉に、
一瞬だけ空気が揺れた。
だが、
リシアがすぐに言う。
「今はまだ、
時間が必要なだけよ」
誰も、
否定しなかった。
ーーー
宿に戻ると、
フロントの男が声をかけてきた。
「冒険者の皆さん」
「港町のギルドから、
伝言を預かっています」
ライナスが眉を上げる。
「伝言?」
「今夜、
よろしければ食事を共にしたい、と」
場所と時刻を聞き、
全員で顔を見合わせた。
「……来たな」
リシアが、
静かに言った。
ーーー
夜。
宿の食堂の一角。
少し奥まった席。
そこに、
港町のギルド長が座っていた。
「来たか」
立ち上がりはしない。
だが、
視線は真剣だった。
「王都まで、
ご苦労だったな」
「合流は、
ここだったんだな」
ライナスが言う。
「ギルドで会うより、
こっちの方が都合がいい」
ギルド長は、
そう言って席を示した。
料理が運ばれ、
一拍置いてから、
本題に入る。
「謁見の日程が決まった」
その一言で、
空気が引き締まる。
「三日後だ」
ドゥリアが、
ぱちっと瞬きをした。
「三日後?
遅くない?」
「むしろ、
早すぎるくらいだ」
ギルド長は言う。
「普通なら、
一週間後でもおかしくない」
「それだけ、
今回の件が重く見られている」
「魚人の国の件と、
ベルクの件、
両方だ」
ライナスは、
小さく息を吐いた。
「……ろくな話にならなそうだな」
「覚悟しておけ」
それ以上、
ギルド長は多くを語らなかった。
ーーー
食事の後、
それぞれが部屋へ戻る。
廊下は静かで、
王都の夜は穏やかだった。
ライナスは、
窓から外を見下ろす。
整った街並み。
規則正しい灯り。
「……平和だな」
「そう見えるだけかも」
隣で、
リシアが言った。
「王都は、
見せたいものしか
見せない街よ」
「なるほどな」
フィリアは、
ベッドに腰掛けながら言う。
「だから、
何も起きない時間が
一番怖いこともある」
ネレウスは、
黙って頷いた。
ドゥリアは、
ベッドに転がりながら言う。
「でもさ」
「三日もあるなら、
王都、
もうちょっと見たい」
「買い物もしたいし」
「観光気分ね」
リシアは言うが、
声は柔らかい。
「いいんじゃない?」
フィリアが微笑む。
「こういう時間、
必要だと思う」
「嵐の前の、
静けさかもしれないけど」
ライナスは、
天井を見上げた。
三日後、
王に会う。
それが何を意味するのか、
まだ分からない。
だが、
確実に何かが動き始めている。
王都の夜は、
静かだった。
あまりにも、
静かすぎるほどに。




