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ガイア戦記 ― 歪められた世界の選択  作者: マロン
第三章 疑念の世界

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第三章 第三節 第二話 刻まれた正史

王都は、

やはり別格だった。


道幅は広く、

建物は高い。


石畳は磨かれ、

人の流れは多いのに、

どこか整然としている。


「……すげぇな」


ドゥリアが、

素直に声を上げた。


「全部、

きらきらしてる」


「観光地みたいね」


リシアが、

周囲を見回しながら言う。


「でも、

ちゃんと“生きてる街”」


「ただの飾りじゃない」


露店の呼び声。

馬車の音。

鎧の擦れる金属音。


王都は、

機能している。


「魚人の国とは、

まるで違うな」


ライナスが言う。


「閉じてない」


「開いてる」


ネレウスは、

少し距離を置いて歩いていた。


視線は低く、

人の動きを観察している。


「……視線が多い」


「注目されてる?」


ドゥリアが、

首を傾げる。


「目立つ組み合わせだから」


フィリアが答える。


「人間と、

エルフと、

ドワーフと、

魚人」


「王都でも、

珍しい」


ライナスは、

肩をすくめた。


「今さらだな」


「もう慣れた」


だが、

慣れていないのは、

周囲の方だった。


好奇の目。

警戒の目。

称賛とも、

蔑みともつかない視線。


「……気分、

よくはないわね」


リシアが、

小さく言った。


「でも、

悪くもない」


その言葉通りだった。


王都は、

拒んではいない。


だが、

完全に受け入れてもいない。


「王都って、

こういう場所なんだろ」


ライナスが言う。


「全部が、

混ざってる」


歩いていくうちに、

広場が見えてきた。


中央に、

巨大な像が立っている。


「……あれ」


ドゥリアが、

足を止めた。


「勇者像だ」


王都の中心。


ひときわ大きく、

ひときわ立派な像。


剣を掲げ、

堂々と前を見据えている。


「でか……」


「ギルドの街のより、

ずっと大きい」


「王都だからね」


リシアが言う。


「“世界を救った勇者”の、

本家本元」


ライナスは、

像を見上げながら言った。


「……俺たち、

こんな立派なもんじゃねーけど」


「でも、

あやかりたいな」


フィリアが、

少し考えてから答える。


「立派かどうかは、

分からない」


「語られ方次第」


ネレウスは、

腕を組む。


「魚人の伝承では、

勇者は誇りを壊した存在だ」


ドゥリアが、

すぐに言う。


「ドワーフの話だと、

勇者は技術を認めた人だよ」


「エルフでは?」


リシアが聞く。


フィリアは、

静かに答えた。


「運命を、

否定した人」


ライナスは、

苦笑した。


「……みんな、

違うな」


「伝説なんて、

そんなもんか」


リシアが、

像の台座に視線を落とす。


「……文字がある」


「碑文ね」


「読む?」


ライナスは、

少しだけ迷ってから言った。


「読むか」


「王都の“公式”を、

聞いとこう」


リシアが、

刻まれた文字を目で追い、

ゆっくりと声に出す。


―――


『太古、

世界に魔王が現れしとき』


『人は恐れ、

種族は分かたれ』


『絶望は大地を覆い、

終焉は目前にあった』


『されど、

神の導きにより

一人の勇者が現れる』


『勇者は人の身にして

神意を受け』


『剣を取り、

魔王に挑む』


『勇者は数多の戦いを越え』


『人の力のみをもって

魔王を討ち果たす』


『魔王は滅び、

世界は救われ』


『勇者は使命を終え』


『神の国へと

旅立った』


『その後、

勇者の意志を継ぎし王が立ち』


『人の国は繁栄し』


『秩序は守られ』


『世界は安寧の時代を迎えた』


―――


読み終えた後、

しばらく沈黙が落ちた。


「……すごく、

きれいな話だね」


ドゥリアが言う。


「削ぎ落とされてる」


リシアが続ける。


「伝えたい部分だけ」


ネレウスは、

像と碑文を見比べた。


「魚人の伝承とは、

一致しない」


フィリアも言う。


「エルフの話とも」


ドゥリアが、

ぽつりと付け足す。


「ドワーフの話とも、

全然ちがう」


ライナスは、

碑文を見つめたまま言った。


「……“人の力のみをもって”か」


「ずいぶん、

言い切るな」


誰も、

否定しなかった。


「王都では、

これが正史よ」


リシアは、

淡々としていた。


「疑うものじゃない」


「学ぶもの」


「……まあな」


ライナスは、

軽く息を吐いた。


「今はいい」


「王都の話は、

王都の話だ」


そのときだった。


「――全員、

正しいし」


声がした。


いつの間にか、

すぐ隣に立っている男。


フードを被り、

気配が薄い。


「……間違ってもいる」


ドゥリアが、

飛び上がる。


「うわっ!?」


「いつからいたのよ」


リシアが、

鋭く睨む。


男は、

気にした様子もなく、

像を見上げた。


「語られた歴史は、

正史」


「語られなかった歴史も、

また真実」


ライナスは、

眉をひそめる。


「……誰だ、お前」


男は、

肩をすくめた。


「通りすがり」


「あるいは、

情報屋」


ネレウスが、

一歩前に出る。


「名を名乗れ」


男は、

一瞬だけ笑った。


「名は……」


「今は、

ムルアでいい」


リシアが、

即座に反応する。


「“今は”?」


ムルアは、

意味ありげに答えなかった。


代わりに、

碑文を指差す。


「それを信じるかどうかは、

君たち次第だ」


「でもね」


視線が、

ライナスに向く。


「違和感を覚えたなら、

それは正しい」


「世界は、

そんなに単純じゃない」


そう言って、

背を向ける。


「……待て」


ライナスが呼ぶ。


ムルアは、

振り返らない。


「王都は、

嘘をつくのが上手い」


「気をつけな」


次の瞬間、

人混みに紛れて消えた。


「……消えた」


ドゥリアが、

呆然と呟く。


「ただの情報屋じゃ、

なさそうね」


リシアが言う。


ネレウスは、

像を見つめたまま言った。


「……嫌な予感がする」


ライナスは、

小さく笑った。


「だろうな」


「でも、

面白くなってきた」


勇者像は、

何も語らない。


だが、

刻まれた正史の裏に、

別の物語がある。


そんな予感だけが、

胸に残っていた。

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