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ガイア戦記 ― 歪められた世界の選択  作者: マロン
第三章 疑念の世界

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第三章 第三節 第一話 王都に呼ばれる理由

ギルドの朝は、

いつもと変わらない音で始まっていた。


木の床を踏む靴音。

掲示板の前で立ち止まる冒険者たち。

依頼書をめくる紙の音。


その中で、

ライナスたちは珍しく、

何もしていなかった。


「……暇だな」


ライナスが、

椅子に深く腰かけたまま言う。


「港の件も一区切りついたし」

「しばらくは細かい依頼かな」


ドゥリアが、

机の上で足をぶらぶらさせる。


「しばらく、

ゆっくりできるってこと?」


「そうとも限らないわ」


リシアが、

帳簿を閉じながら答えた。


「目立つことをしたあとほど、

呼び出しは来るものよ」


その言葉を待っていたかのように、

ギルドの扉が開いた。


入ってきたのは、

ギルド長だった。


いつもより歩幅が大きく、

顔は険しい。


「ライナス」


名を呼ばれ、

全員が顔を上げる。


「王都に呼ばれてるぞ」


一瞬、

空気が止まった。


「……は?」


ライナスが、

間の抜けた声を出す。


「なんでだよ」


ギルド長は、

顎に手をやり、

少しだけ考えてから言った。


「理由は二つある」


「いい理由と、

悪い理由だ」


「どっちから聞きたい?」


ライナスは、

即答した。


「どっちも聞きたくねぇな」


ドゥリアが、

くすっと笑う。


「それ、

選択肢ある意味ないじゃん」


「どうせ、

ろくな話じゃない」


ライナスは、

ため息をついた。


ギルド長は、

笑わなかった。


「いい理由は、

魚人の国の件だ」


その言葉に、

空気が引き締まる。


フィリアが、

静かに姿勢を正した。


「正式な報告?」


「ああ」


ギルド長はうなずく。


「王都としても、

無視できない規模になった」


「国境を越えた問題だ」


「……悪い理由は?」


リシアが問う。


ギルド長は、

視線を落とし、

一拍置いてから答えた。


「貴族ベルクの件だ」


ライナスの眉が、

わずかに動く。


「あいつか」


「向こうは、

お前たちが貴族を裁いた、

そう主張している」


「裁いた覚えはねぇぞ」


「事実がどうであれ、

そう受け取る連中もいる」


ギルド長は、

淡々と続けた。


「その両方を含めて、

王都へ来いということだ」


沈黙。


ドゥリアが、

小さく首を傾げる。


「……怒られに行くの?」


「褒められに行く可能性もある」


ギルド長は、

そう言ってから、

わずかに言葉を濁した。


「ただし……」


ライナスが、

じっと見つめる。


「ただし?」


「普通なら、

もう少し時間がかかる」


「調査だの、

貴族間の調整だのがな」


「それが、

やけに早い」


リシアが、

目を細めた。


「決定が、

すでに整っていたみたいに?」


「……ああ」


ギルド長は、

小さく息を吐いた。


「それが、

気になっている」


フィリアが、

静かに言う。


「早いこと自体が、

問題なのですね」


「問題というより……」


ギルド長は、

言葉を探した。


「違和感だ」


その言葉に、

ライナスは苦笑する。


「俺たちが、

王都に呼ばれるなんて」


「違和感だらけだろ」


「それとは少し違う」


ギルド長は、

真っ直ぐにライナスを見る。


「お前たちが呼ばれるのは、

分かる」


「だが、

周囲の反応が静かすぎる」


「……静か?」


「ベルクの件で、

文句を言う貴族が

もっと出てもおかしくない」


「魚人の件で、

功績を争う声が

上がってもいい」


「だが、

どちらもない」


ドゥリアが、

不思議そうに聞く。


「それって、

いいことじゃないの?」


「場合による」


リシアが、

即座に返した。


「議論がない正しさは、

危うい」


ギルド長は、

小さくうなずいた。


「王都に行けば、

分かる」


「……分からなくても、

行かなきゃならねぇんだろ」


ライナスは、

立ち上がった。


「準備するか」


その背中を見て、

ギルド長が言う。


「一つだけ言っておく」


「王都では、

言葉に気をつけろ」


「正しいことを言うな、

という意味じゃない」


「正しいことが、

どこまで許されるか」


「それを、

よく見てこい」


ライナスは、

振り返らずに答えた。


「面倒くせぇな」


「王都ってのは、

そういう場所だ」


その一言が、

やけに重く響いた。


こうして、

ライナスたちは

王都へ向かうことになった。


まだ誰も知らない。


そこが、

“正しさ”の中心であることを。


そして、

その正しさが、

あまりにも整いすぎていることを。

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