第一章 第二節 第三話 森の外へ
世界樹の根元を離れ、フィリアは里へと戻った。
足取りは、重い。
新芽が砕けた瞬間の感触が、まだ手に残っている。
守るためとはいえ、壊した事実は消えない。
集会所には、すでに長老たちが集まっていた。
フィリアの顔を見るなり、
一人が静かに口を開く。
「……起きたのだな」
「はい」
フィリアは、見たこと、感じたことを
すべて話した。
闇に飲まれた新芽。
形をなして襲ってきたこと。
一つを倒しても、他にも残っていること。
そして――
結界の向こうに感じた“視線”。
話し終えたあと、集会所はしばらく沈黙に包まれた。
「……最悪だな」
誰かが、低く呟いた。
「新芽が闇に侵されれば、
世界樹は徐々に弱る」
「それが続けば……やがて、枯れる」
フィリアは、拳を握りしめた。
「私一人では、止められません」
その言葉は、悔しさから出たものだった。
だが、長老たちは否定しなかった。
「分かっておる」
白髪の長老が、ゆっくりと頷く。
「これは、里だけの問題ではない」
「世界樹の異変は、世界そのものの歪みだ」
フィリアは、顔を上げた。
「……森の外に、原因があると?」
「可能性は高い」
長老は、杖を握り直す。
「この里は、世界樹を守るために閉じてきた」
「だが――守るだけでは、もう足りない」
視線が、フィリアに向けられる。
「お前に、頼みたい」
その一言で、覚悟は固まった。
「……森を、出ろということですね」
長老は、静かに頷いた。
「世界を見てこい」
「世界が、なぜ歪み始めたのか」
「その答えを、持ち帰ってほしい」
フィリアは、一度だけ世界樹の方角を見る。
巨大な幹。
無数の枝。
そして――
まだ無事な、新芽たち。
「必ず、戻ります」
それは誓いだった。
「世界樹を、このまま枯らせはしません」
長老たちは、何も言わず、ただ見送った。
翌朝。
フィリアは、最低限の装備だけを整え、里の外へと向かった。
結界を越える瞬間、胸が、わずかに締めつけられる。
エルフにとって、森の外は未知の世界だ。
だが――
足は止まらなかった。
「……待ってて」
誰に向けた言葉かは、分からない。
世界樹か。
新芽か。
それとも、まだ見ぬ誰かか。
森を抜け、視界が開ける。
遠くに見えるのは、人の町へ続く道。
そこに、答えがあるとは限らない。
それでも――
探すしかない。
世界の歪みを。
闇の正体を。
そして、世界樹を救うための道を。
フィリアは、一歩を踏み出した。




