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ガイア戦記 ― 歪められた世界の選択  作者: マロン
第三章 疑念の世界

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第三章 第一節 第九話 欲望の行き着く先

夜。


ベルクは、

縄をかけられたまま、

ギルドの裏口へ連行された。


灯りは最小限。

人目を避けた動き。


「……ここまで、

される覚えはないぞ……」


弱々しい声。


だが、

誰も答えない。


ギルド長は、

無言で歩を進めていた。


「牢に入れる」


「……いや」


ギルド長は、

立ち止まる。


「今すぐだ」


「今回は、

待たない」


ライナスたちは、

その言葉の意味を理解した。


前回の反省。


「何かあってから」では、

遅い。


「尋問を始める」


ーーー


尋問室。


机を挟み、

ベルクが座らされる。


背後には、

見張り二名。


正面に、

ギルド長。


壁際には、

ライナスたち五人。


逃げ場は、

ない。


「ベルク」


ギルド長が、

低く呼びかける。


「紫結晶は、

どこから手に入れた」


ベルクは、

視線を落としたまま、

黙っていた。


指先が、

小刻みに震えている。


「……最初は……」


ようやく、

声が出る。


「……ただ……」


「少し、

困らせてやるだけの、

つもりだった……」


ドゥリアが、

小さく首を傾げる。


「……誰を?」


「……漁師どもだ」


ベルクは、

歯を食いしばった。


「……あいつらに、

恥をかかされた……」


「漁師頭の娘が、

気に入っていた……」


「だが、

断られた」


「……笑われた」


「港の連中に……」


空気が、

重く沈む。


「だから……」


「少し、

漁ができなくなれば……」


「困れば……」


「税も払えず……」


「いずれ……」


言葉が、

濁る。


「……娘を、

差し出すと思った……」


誰も、

すぐには口を開かなかった。


あまりに、

身勝手で。


あまりに、

小さな欲望。


「……その時だ」


ベルクが、

震える声で続ける。


「……あの男が……」


ライナスの視線が、

鋭くなる。


「男?」


「……夜の港で……」


「……突然、

現れた……」


「『これを海に流せば、

望みは叶う』と……」


「……紫の結晶を、

渡された……」


ギルド長が、

一歩身を乗り出す。


「その男の、

特徴を話せ」


ベルクは、

必死に記憶を探るように、

目を閉じた。


「……魚……」


言いかけて、

言葉が止まる。


一瞬の沈黙。


「……魚人だ」


低く、

吐き出すように言った。


「若い……」


「年は、

二十前後に見えた……」


「最初は……」


ベルクは、

唇を噛む。


「信じなかった……」


「そんな話、

あるはずがないと……」


「だが……」


視線が、

揺れた。


「目を見て……」


「……赤かった……」


「魔物みたいな、

赤い目だった……」


空気が、

張りつめる。


「冗談だと思った……」


「脅しかとも……」


「だが……」


「話しているうちに……」


「……妙に、

納得してしまった……」


声が、

かすれる。


「潮の流れ……」


「港の深さ……」


「海の底で、

何が起きているか……」


「……全部、

知っているような話し方で……」


「……気づいたら……」


「信じていた……」


リシアが、

静かに問う。


「……その男は、

魚人だったと?」


ベルクは、

小さくうなずいた。


「……そうだ……」


「人間じゃない……」


「魚人だった……」


「……少なくとも、

俺はそう思った……」


そこまで言った瞬間。


ベルクの身体が、

大きく跳ねた。


「……ぐ……っ!」


喉を押さえ、

椅子の上で身をよじる。


「……っ、あ……」


声が、

途切れる。


フィリアが、

即座に前へ出る。


「回復を――」


光が、

ベルクの身体を包む。


肉体は、

確かに癒えた。


だが。


ベルクの目は、

虚空を映したままだった。


口は動く。


だが、

意味のある言葉は、

もう出てこない。


「……呪いね」


リシアが、

低く言う。


「話しすぎた」


「それだけで、

発動するタイプ……」


ギルド長が、

歯を食いしばる。


「……監視役か」


ベルクは、

生きている。


だが、

もう何も語れなかった。


ーーー


地下を出たあと、

五人は廊下で足を止めた。


夜の空気が、

重くのしかかる。


「……魚人だった」


ライナスが、

静かに言う。


「ベルクは、

そう言った」


リシアが、

腕を組む。


「断定はできない」


「でも、

紫結晶を扱い、

水に適応させ、

呪いまで仕込める存在……」


ネレウスが、

ゆっくりと口を開いた。


「……魚人であることは、

否定できない」


「少なくとも、

水の流れを

感覚で理解している」


「俺と、

同じか……」


「それ以上だ」


沈黙が、

落ちる。


「水に詳しいだけじゃ足りない」


ライナスが、

続ける。


「長期間、

研究できる環境」


「紫結晶を扱える立場」


「そして、

魚人であること」


誰も、

すぐには否定しなかった。


ネレウスが、

低く言う。


「……俺の国だ」


「魚人の国しか、

条件に当てはまらない」


結論ではない。


だが、

行き先は定まった。


次に調べるべき場所は、

もう一つしか残っていなかった。


魚人の国。


それは、

選択ではなく。


積み上げた事実が、

導いた先だった。

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