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ガイア戦記 ― 歪められた世界の選択  作者: マロン
第三章 疑念の世界

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第三章 第一節 第八話 刃が届かない場所

水路に、激しい水音が響いた。


魚型の魔物が、

二本の脚で地を蹴り、

濁った水を跳ね上げる。


紫結晶が埋め込まれた体が、

不自然に膨れ、

筋肉が脈打つ。


「来るぞ!」


ライナスが叫び、

一歩前に出た。


魔物の腕が振り下ろされる。


「ごろすけ!」


ドゥリアの声と同時に、

床に散らばった石と金属の部品が、

魔力に引かれるように組み上がる。


厚い装甲。

太い脚。

盾のような両腕。


ごろすけは、

真正面から魔物の一撃を受け止めた。


鈍い衝撃音。


水路の壁が揺れ、

装甲が大きく軋む。


「……重い」


ドゥリアが歯を食いしばる。


だが、

ごろすけは退かない。


ライナスは、

その横をすり抜けた。


剣を構え、

紫結晶を狙う。


「――っ!」


刃が走る。


手応えは、

異様に硬かった。


火花が散り、

刃が弾かれる。


「……効かない?」


魔物が、

低く嗤った。


「……そんな刃で……」


言葉は途切れ、

すぐに攻撃へと変わる。


「くっ……!」


ライナスは跳び退き、

次の一撃をかわす。


普通の魔物なら、

ここで怯む。


だが、

こいつは違う。


「……ネレウス!」


「分かってる!」


ネレウスが前に出た。


水の魔力が集まり、

淡い光を帯びる。


魚人の浄化。


毒や呪いを洗い流し、

流れを正す力。


戦闘の最中、

その水が魔物を包み込んだ。


その瞬間。


「――ギィッ!」


魔物が激しく身をよじった。


悲鳴に近い音。


だが、

そこに後悔はない。


嫌悪。

拒絶。


光そのものを、

拒む反応だった。


水が、

体表で弾かれる。


「……違う」


ネレウスの声が沈む。


「これは……

浄化を嫌がっている」


それでも、

ネレウスは水を送り続ける。


流れを探るように、

慎重に。


「体の中には……ある」


「でも……

外に出ない」


紫結晶が、

体内で脈打つ。


「……取り込まれてる」


その言葉に、

ライナスの視線が揺れた。


なり損ないの時。


あの時は、

黒い毒のようなものが、

外に吐き出された。


「……違うのか」


リシアが、

はっきりと言う。


「違う」


「これは、

もう異物じゃない」


「闇を、

自分の一部としている」


魔物が、

大きく踏み込む。


ごろすけの装甲に、

亀裂が走った。


「ごろすけ!」


ドゥリアが叫ぶ。


ごろすけは、

崩れかけながらも、

魔物の攻撃を受け止め続ける。


「……まだ!」


フィリアが回復魔法を流す。


装甲の崩壊が、

わずかに遅れる。


「……限界が近いわ!」


ライナスは、

歯を食いしばった。


再び、

剣を振るう。


今度は、

紫結晶の根元を狙う。


刃が食い込み、

一瞬だけ手応えがあった。


だが。


「……っ!」


紫結晶が光り、

衝撃が返ってくる。


ライナスの体が、

弾き飛ばされた。


水路の壁に叩きつけられ、

息が詰まる。


「ライナス!」


フィリアの声。


それでも、

ライナスは立ち上がった。


剣を、

強く握り直す。


「……分かった」


「これは……」


「斬ってどうにかなる相手じゃない」


魔物が、

再び迫る。


今度は、

フィリアの方角。


「させるか!」


ライナスが割って入る。


剣で受け止め、

衝撃を体で受ける。


腕が痺れ、

足が沈む。


それでも、

退かない。


「……ここで止める」


「止めないと、

次が出る」


ネレウスが、

はっきり言った。


「水では、

戻せない」


「救う段階じゃない」


その言葉を、

ライナスは受け止めた。


否定はしなかった。


「……終わらせる」


「ここで」


その声に、

誰も反対しなかった。


ドゥリアが叫ぶ。


「ごろすけ、

全部受けて!」


ごろすけが前に出る。


魔物の攻撃を、

真正面から引き受ける。


装甲が砕け、

火花が散る。


フィリアが、

必死に回復を重ねる。


「崩壊を、

遅らせるだけ……!」


「それでいい」


ライナスが答える。


「一瞬あれば、

足りる」


ネレウスが、

水の流れを最大まで引き絞る。


完全ではない。


だが、

動きを鈍らせるには十分だった。


「今だ!」


ライナスが踏み込む。


リシアが、

一歩前に出た。


「……焼き切る」


炎が、

紫結晶を包み込む。


闇ごと、

断つための炎。


魔物は、

最後まで抵抗した。


だが。


紫結晶に走った亀裂が、

決定的だった。


轟音。


紫結晶が砕け、

闇が霧散する。


二体の魚型魔物は、

水路に崩れ落ち、

完全に沈黙した。


水音だけが、

残った。


誰も、

すぐには口を開かなかった。


ライナスは、

剣を下ろす。


腕が、

まだ震えていた。


「……救えなかった」


リシアが、

静かに言う。


「ええ」


「これは、

戻れない段階」


ネレウスは、

砕けた紫結晶を見つめた。


「……これを、

水に適応させるには」


言葉を、

そこで切る。


「俺と同等か、

それ以上に

水の流れを理解している者でなければ、

無理だ」


沈黙が落ちた。


誰も、

すぐには否定しなかった。


「……候補は、

限られるな」


ライナスが、

低く言う。


確証はない。


だが、

疑いは消えなかった。


これは、

終わりではない。


次の疑問へ向かうための、

戦いだった。

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