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ガイア戦記 ― 歪められた世界の選択  作者: マロン
第二章 選ばれない者たち

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第二章 第五節 第七話 正しさの、その先へ

夜は、

いつの間にか深くなっていた。


港町の灯りが、

遠くで揺れている。


路地の奥には、

まだ湿った空気が残っていたが、

先ほどまでの緊張は、

嘘のように消えていた。


レインは、

毛布に包まれ、

壁際に座っている。


呼吸は安定している。

意識も、はっきりしていた。


「……ありがとう」


か細い声だったが、

確かに届いた。


「生きてるなら、

それでいい」


ライナスは、

短くそう返す。


「後は、

ギルドに引き渡す」


「治療と保護は、

そっちの方が確実だ」


レインは、

小さくうなずいた。


「……はい」


それだけで、

十分だった。


しばらく、

誰も口を開かなかった。


夜の音だけが、

静かに流れていく。


「……なぁ」


ドゥリアが、

空気を崩すように言った。


「これ、

一人じゃ無理だったよね」


ネレウスが、

静かにうなずく。


「確実に、

どこかで破綻していた」


フィリアは、

自分の手を見つめながら言う。


「支えるだけじゃ、

足りなかった」


「皆がいなければ、

あの人は持たなかった」


ライナスは、

その言葉を否定しない。


「一人でやる話じゃない」


それだけだった。


少し離れた場所で、

リシアは立っていた。


指先を握りしめ、

視線を落とす。


――弟の顔が、

脳裏をよぎる。


あの時。


私は、

一人で決めた。


正しさを、

優先したつもりだった。


「……」


小さく、

息を吐く。


そして、

一歩踏み出した。


「……ねえ」


全員の視線が、

リシアに向く。


「さっきの判断」


「後悔してない?」


ライナスは、

少し考えてから答えた。


「してない」


「怖くはあったけどな」


リシアは、

小さく苦笑する。


「……やっぱり」


間を置いて、

続けた。


「私ね」


「今まで、

正しさは考えるものだと思ってた」


「間違えないために、

切り捨てるものだと」


フィリアが、

黙って聞いている。


「でも、

現場に立って」


「……初めて分かった」


リシアは、

レインを見る。


「考えるだけじゃ、

間に合わない瞬間がある」


「踏み込まなきゃ、

救えない人がいる」


声が、

少し震える。


「弟の時」


「私が選ばなかった道を、

あんたたちは選んだ」


「それを、

否定できない」


ライナスは、

何も言わなかった。


ただ、

視線を逸らさなかった。


「……だから」


リシアは、

一歩近づく。


「これからは、

私が考える」


「調べる」


「判断する」


「同じ被害を、

二度と出さないために」


それは、

宣言というより、

誓いだった。


少し間を置いて、

ライナスが言う。


「頼んだぜ」


軽い口調で。


「パーティーの頭脳さん」


一瞬、

リシアは呆れたように目を細める。


「……勝手な人」


でも、

口元はわずかに緩んでいた。


ーーー


翌日。


ギルドの一室で、

レインは椅子に座っていた。


今度は、

鎖も拘束もない。


向かいにいるのは、

ギルド長。


ライナスたちは、

少し離れた位置で立っている。


「無理に思い出さなくていい」


ギルド長は、

静かに言った。


「分かる範囲でいい」


レインは、

しばらく俯いていたが、

やがて、

ゆっくりと口を開いた。


「……顔は、

よく覚えていません」


「でも……」


指先が、

わずかに震える。


「白衣を着ていました」


「魔法使い……だと思います」


「口調は、

穏やかで」


「怒鳴ったりは、

しませんでした」


フィリアが、

小さく息を呑む。


「実験のときも、

『大丈夫だ』って」


「『これは必要なことだ』って……」


レインは、

言葉を選ぶように続ける。


「感情的じゃなくて」


「むしろ、

正しいことをしている、

って感じでした」


ギルド長が、

静かに促す。


「他に、

覚えていることは?」


レインは、

しばらく黙り込んだあと、

ぽつりと口を開いた。


「……手が」


「手が、

すごく綺麗でした」


室内の空気が、

わずかに張る。


「傷一つなくて」


「研究者というより……

学者みたいな」


首を振り、

言い直す。


「それから……」


「左の手首に、

古い火傷の痕がありました」


「隠しているみたいで、

袖を下ろしていましたけど」


「動いたときに、

少しだけ見えて……」


リシアの呼吸が、

止まる。


「……髪は?」


ギルド長が尋ねる。


「淡い色です」


「光に当たると、

白っぽく見えました」


「年齢は、

分かりません」


「でも……

目が、冷たかった」


「感情がない、

って意味じゃなくて」


「感情を、

抑え込んでいる感じでした」


沈黙。


ライナスは、

横目でリシアを見る。


リシアは、

視線を伏せたまま動かない。


「……その人は」


レインは、

最後に言った。


「自分のことを、

“導く側”だと」


「そう言っていました」


ギルド長は、

ゆっくりと息を吐く。


「……分かった」


「今日は、

もう休ませよう」


レインが連れ出され、

部屋に残ったのは、

ライナスたちだけになった。


誰も、

すぐには口を開かなかった。


やがて、

リシアが小さく、

呟く。


「……師匠……?」


その一言だけが、

静かに落ちた。

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