第二章 第五節 第二話 同じものを追う者。
屋敷を出ると、
空気が少しだけ変わった。
重たいものが、
一段落ちた感覚。
だが、
気分が晴れるわけではない。
誰も、
すぐには口を開かなかった。
歩きながら、
床に残っていた傷跡や、
魔力の歪みが、
それぞれの頭に残っている。
「……あれさ」
最初に口を開いたのは、
ドゥリアだった。
「結局、
なにが起きた場所なんだろ」
ライナスは、
すぐには答えなかった。
「魔物の痕跡じゃない」
「戦闘の形でもなかった」
「でも、
魔族の反応があった」
ネレウスが、
低く唸る。
「つまり、
途中で止まった」
「もしくは、
途中で捨てられた」
フィリアが、
静かに続ける。
「痕跡が、
不自然に多すぎます」
「隠すつもりなら、
もっと消せたはずです」
「……わざと、
残してる?」
ドゥリアの言葉に、
全員が黙る。
「つくった人、
いるよね」
一話で出たその言葉が、
今度は推測として形になる。
「偶然じゃない」
「誰かが、
段階を踏んでやってる」
ライナスは、
その場で足を止めた。
「だから、
倒しても終わらない」
言葉にすると、
少しだけ輪郭が見える。
「結果だけ消しても、
同じことが繰り返される」
その時だった。
「……やっぱり」
背後から、
落ち着いた声がした。
振り返ると、
リシアが立っていた。
すでにフードを外し、
屋敷の方を一瞥している。
「失敗例の匂い」
「研究途中で、
処理しきれなかった場所ね」
ドゥリアが、
眉をひそめる。
「ここ、
見ただけで分かるの?」
「分かるわ」
リシアは、
淡々と答える。
「隠す気がない。
記録を取ってる」
「……実験か」
ネレウスが、
低く言う。
「そう」
リシアは、
視線を屋敷に戻す。
「こういうのは、
深入りすると危ない」
「途中でやめる人間ほど、
一番面倒なところを見ることになる」
ライナスは、
リシアを見る。
「だから、
止めた」
「ええ」
リシアは、
はっきりとうなずいた。
「忠告よ」
「これ以上、
首を突っ込まないほうがいい」
「ひどい目に遭う」
それは脅しではなく、
経験に裏打ちされた言葉だった。
「……でも」
ライナスは、
一度視線を外す。
「放っといたら、
また同じことが起きる」
まだ、
強くは言わない。
だが、
引く気もない。
リシアは、
一瞬だけ黙った。
「……余計なお世話ね」
そう言い残し、
路地の奥へ歩き出す。
止めはしない。
だが、
並びもしない。
距離だけが、
はっきりと残った。
「同じものを、
追ってるのに」
ドゥリアが、
小さく言う。
「進み方が、
違うんだね」
ライナスは、
答えなかった。
ただ、
屋敷の方をもう一度見る。
倒しても、
終わらない。
その感覚だけが、
はっきりと残っていた。




