第二章 第四節 第七話 選び直した道と、光る目
夜明けの港は、
昨日までとは違って見えた。
潮の匂いは同じだ。
人の声も、
船の軋む音も変わらない。
それでも、
ネレウスの胸の内は、
確かに変わっていた。
集団の件は、
その日のうちに片がついた。
ライナスが連絡を入れ、
憲兵が動いた。
密漁と禁制区域侵入。
余罪も多く、
言い逃れはできなかった。
ネレウスは、
証言台に立った。
逃げなかった。
隠さなかった。
自分が見張りとして関わっていたことも、
知らずに加担していたことも、
すべて話した。
視線は冷たかった。
疑いも向けられた。
それでも、
目は逸らさなかった。
結果として、
罪は明確に切り分けられた。
主導した者たちは拘束され、
ネレウスは協力者として扱われる。
「……助かったな」
憲兵の一人が、
そう言った。
助かった。
確かにそうだ。
だが、
胸の奥に残るものは、
それだけではなかった。
正式な謝礼が、
支払われた。
革袋に詰められた金貨。
久しぶりに見る、
正当な報酬だった。
「おお……」
ドゥリアが、
目を輝かせる。
袋を両手で持ち上げ、
振る。
「ちゃりちゃりって、
いい音……」
中身を数えようとして、
途中で混乱する。
「えっと……これ、
ぜんぶ……」
首をかしげ、
真剣な顔で言う。
「……たべられる?」
「食えねえよ」
ライナスが、
淡々と突っ込む。
ドゥリアは、
少し考えてから、
「そっか」とうなずいた。
その様子に、
ネレウスは思わず笑った。
短く、
苦笑いのような笑いだった。
「……こいつ、
面白いな」
ドゥリアが、
誇らしげに胸を張る。
緊張していた空気が、
少しだけ緩む。
港の風が、
心地よかった。
手続きが終わり、
外へ出る。
ネレウスは、
立ち止まった。
「……礼は言わない」
ライナスを見て、
そう告げる。
ドゥリアが、
驚いた顔をする。
ライナスは、
気にした様子もなく、
肩をすくめた。
「知ってる」
ネレウスは、
少しだけ視線を逸らす。
「俺は、
間違っていた」
「だが、
誇りは捨てない」
それは、
言い訳ではない。
これから先も、
自分で選ぶための宣言だった。
「並んで歩くなら、
同じ方向を選ぶ」
ライナスは、
短くうなずく。
「それでいい」
それ以上の言葉は、
いらなかった。
四人で、
港の通りを歩き出す。
人の流れに、
自然と溶け込む。
ネレウスは、
一歩遅れて歩きながら、
周囲を見渡した。
人間の街。
相変わらず、
居心地がいいとは言えない。
それでも、
もう逃げない。
無知だった自分も、
誤った選択も、
すべて背負って進む。
それが、
誇りだ。
ドゥリアが、
前を歩きながら振り返る。
「ネレウス、
これからどうするの?」
ネレウスは、
少し考えてから答える。
「……選び直す」
それだけだった。
だが、
十分だった。
ドゥリアは、
よく分からないまま、
うなずく。
ライナスは、
何も言わない。
その背中を見て、
ネレウスは思う。
正しさを押しつけない。
だが、
迎えに来る。
そういうやつだ。
通りの先で、
新しい依頼の掲示板が見えた。
次に進む場所は、
まだ決まっていない。
それでも、
足取りは確かだった。
選び直した道の先で、
ネレウスの目は、
静かに、
しかし確かに光っていた。




