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第一章 第二節 第一話 世界樹の違和感

世界樹は、静かに息づいていた。

エルフの里の中央にそびえるその巨木は、

森そのものだった。


空へと伸びる枝。

大地へと広がる根。


世界がどれほど変わろうと、世界樹だけは変わらない。

――そう、信じられてきた。


「……でも」

フィリアは、世界樹の幹にそっと手を当てた。


ざらり、とした感触。

その奥に、微かな違和感がある。

冷たい。


「……気のせいじゃ、ない」

風が吹き、

葉が揺れる。

だが、その音が、どこか鈍い。


フィリアは視線を下げ、地表に露出した根へと目を向けた。

淡く光る小さな芽が、いくつも芽吹いている。

世界樹の新芽。

次の時代へと繋がる、

大切な命だ。


だが、その中の一つが――

わずかに、濁っていた。


「……え……?」

近づいて、しゃがみ込む。


緑色のはずの芽に、

黒い筋が、細く走っている。


触れようとした瞬間、ひやり、とした感覚が指先を刺した。

フィリアは、思わず手を引く。


「……闇……?」

こんなことは、

今まで一度もなかった。


新芽は、世界樹に守られている。

結界の内側で、穢れを受けることなど、ありえない。


「……長老に、伝えないと」

フィリアは立ち上がり、里の奥へと足を向けた。

集会所では、すでに数人の長老が集まっていた。


「フィリア」

白髪の長老が、彼女の表情を見て、静かに名を呼ぶ。


「お前も、気づいたか」

「はい。世界樹の新芽に、異変があります」


長老たちは、重く頷いた。

「結界は破られていない」

「外部からの侵入も、確認されておらん」

「……それでも、確かに“闇”が入り込んでいる」


その言葉に、フィリアは唇を噛む。

「どうして……?」

「分からん」

長老は、正直に首を振った。

「だが、新芽が闇に飲まれ続ければ、いずれ世界樹そのものが弱る」

里に、重い沈黙が落ちた。


世界樹が弱る――

それは、エルフの未来が失われるということだ。


「フィリア」

長老の視線が、まっすぐ向けられる。


「まずは、新芽の様子を詳しく調べてほしい」

「……私が、ですか」

「お前は、森の変化に最も敏感だ」


フィリアは、小さく息を吸い、頷いた。

「分かりました」

まだ、旅立つ時ではない。


だが――

このまま、何も起きないはずもない。

フィリアは、再び世界樹を見上げた。


枝の隙間から差し込む光が、どこか弱々しく見えた。


「……世界が、おかしい」

その言葉が、胸の奥に、静かに残った。

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