第二章 第四節 第二話 止める者、突き放す者
港の外れは、
昼でも薄暗かった。
倉庫が並び、
潮と油の匂いが混ざっている。
人通りは少なく、
声が響きやすい。
ライナスは、
物陰から様子を見ていた。
複数人の冒険者が、
倉庫の裏へ入っていく。
動きは慣れている。
正規の仕事ではない。
その中に、
見覚えのある姿があった。
青い髪。
水色の肌。
背にした槍。
ネレウスだった。
「……やっぱり、あいつか」
小さく息を吐く。
ネレウスは、
先頭には立っていない。
だが、
離れてもいない。
見張り役。
そんな立ち位置だった。
ほどなくして、
倉庫の中から物音がする。
金属が擦れる音。
箱を運ぶ音。
密漁だ。
あるいは、
禁制区域の物資。
どちらにせよ、
正規の仕事ではない。
ライナスは、
迷わなかった。
物陰から出て、
倉庫の前に立つ。
「そこまでだ」
低く、
はっきりした声。
冒険者たちが振り返る。
一瞬の沈黙。
「……なんだ、お前」
「通報する気か?」
ライナスは、
視線をネレウスに向けた。
「ネレウス。
やめろ」
その名を呼ばれ、
ネレウスは一瞬だけ動きを止めた。
だが、
すぐに視線を逸らす。
「……関係ない」
「関係ある」
ライナスは、
一歩前に出る。
「それは、
正しい仕事じゃない」
冒険者の一人が、
苛立った声を上げる。
「うるせえな。
他人は黙ってろって言ってんだろ」
ネレウスの肩が、
わずかに揺れた。
「俺は、
戦っているだけだ」
低い声だった。
「言われた役割を、
果たしているだけだ」
「それが、
間違ってる」
「間違ってない」
即答だった。
ネレウスは、
ライナスを睨む。
「お前は、
もう仲間じゃない」
その言葉に、
ライナスは表情を変えなかった。
「今の仲間を、
信じている」
図星だった。
ネレウス自身が、
それを分かっていた。
信じたい。
せっかく、
受け入れてくれた相手だから。
「……どけ」
ネレウスは、
槍を握る。
戦うつもりではない。
だが、
引く気もなかった。
ライナスは、
剣に手をかけない。
「危ない」
それだけ言う。
「この先は、
戻れなくなる」
ネレウスは、
一瞬だけ言葉を失った。
だが、
すぐに首を振る。
「余計なお世話だ」
冒険者たちが、
笑う。
「ほら見ろ。
分かってるじゃねえか」
「魚人は、
俺たちの仲間だ」
その言葉に、
ネレウスの胸が、
わずかに軽くなる。
ライナスは、
それ以上何も言わなかった。
剣も抜かない。
無理に止めもしない。
ただ、
背を向ける。
「……気をつけろ」
それだけ残して、
歩き出した。
ネレウスは、
その背中を見た。
追いかけなかった。
呼び止めもしなかった。
だが、
胸の奥に、
小さな違和感が残る。
本当に、
関係ないのか。
本当に、
正しいのか。
答えは出ない。
冒険者の一人が、
ネレウスの肩を叩く。
「行くぞ」
「……ああ」
ネレウスは、
そう答えて歩き出す。
ライナスの背中は、
もう見えなかった。
それでも、
あの言葉だけが、
頭から離れなかった。
危ない。
その意味を、
まだ理解できないまま。




