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ガイア戦記 ― 歪められた世界の選択  作者: マロン
第二章 選ばれない者たち

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第二章 第三節 第五話 変えた選択

レミアの件が、

フィリアの頭から離れなくなっていた。


答えを与えるたびに、

安心した顔をする。

それと引き換えに、

自分で考える気配が薄れていく。


助けているはずなのに。

間違っていないはずなのに。


胸の奥に、

小さな違和感が残り続けていた。


その数日後、

フィリアのもとに、

別の相談者が現れた。


名前は、

セイラという女性だった。


年は若く、

服装も質素だが、

目にはまだ力が残っている。


「……少し、

話を聞いてもらえますか」


声は控えめだったが、

逃げるような響きではなかった。


話の内容は、

レミアとよく似ていた。


仕事がうまくいかない。

判断に自信が持てない。

このままでいいのか、

分からなくなっている。


フィリアは、

自然と口を開きかけた。


これまでと同じように、

選択肢を並べ、

安全な道を示そうとする。


だが、

言葉が喉で止まった。


――考える余地を、残してやる。


ライナスの声が、

頭の奥でよみがえる。


フィリアは、

一度だけ息を整えた。


「……どうして、

そう思ったの?」


セイラは、

少し驚いた顔をした。


「え?」


「うまくいっていないと感じた理由。

そこを、もう少し聞かせて」


フィリアは、

答えを出さなかった。


判断を先に示さず、

問いだけを投げる。


セイラは、

しばらく黙り込んだ。


「……失敗したからです」


「どんな?」


「任された仕事で、

判断を間違えて……怒られました」


「それで、

もうダメだと思ったの?」


セイラは、

視線を落とす。


「……はい。

私には向いていないのかと」


フィリアは、

その言葉を否定しなかった。


慰めもしない。

代わりの道も示さない。


「じゃあ、

どうしたいの?」


「……分かりません」


セイラの声は、

震えていた。


フィリアは、

その揺れを受け止める。


すぐに答えを与えれば、

楽になる。

それは分かっていた。


けれど、

それをしてしまえば、

また同じになる。


「考えてみて。

正解じゃなくていい」


「……考える?」


「ええ。

自分で」


セイラは、

戸惑ったまま立ち尽くした。


「今日は、

ここまでにしましょう」


フィリアはそう言って、

無理に引き留めなかった。


セイラは、

何度か振り返りながら、

その場を離れていく。


フィリアの胸は、

ざわついていた。


冷たいことをしたのではないか。

突き放したのではないか。


「……これで、

よかったの?」


自分に問いかけても、

答えは返ってこない。


その様子を、

ライナスは少し離れた場所から見ていた。


何も言わない。

近づきもしない。


ただ、

フィリアが自分で選ぶのを、

待っている。


数日後、

街の通りで、

フィリアはセイラを見かけた。


荷を抱え、

慣れない様子で歩いている。

足取りは不安定だが、

逃げるようではなかった。


フィリアは、

声をかけずに見守った。


セイラは途中で立ち止まり、

誰かに頭を下げる。


短い会話。

ぎこちないが、

自分の言葉で話している。


「……できた」


小さく、

そうつぶやく声が聞こえた。


後日、

セイラは再びフィリアのもとを訪れた。


「……うまくはいきませんでした」


最初の言葉は、

それだった。


「でも、

少しだけ、

前より分かりました」


フィリアは、

何も言わずにうなずく。


「間違えた理由も、

次に気をつけることも」


セイラは、

少し照れたように続ける。


「答えをもらえなかったのは、

怖かったです」


「……そう」


「でも、

考えたのは、

初めてでした」


フィリアの胸に、

小さな衝撃が走る。


それは、

成功の手応えではなかった。


むしろ、

今までの自分を

否定されたような感覚だった。


「私は……」


言いかけて、

言葉を飲み込む。


助けなかったわけじゃない。

でも、

助け方を変えた。


それが、

正しかったのかどうか。


「ありがとうございました」


セイラは、

深く頭を下げた。


依存するような仕草ではない。

それでも、

確かな感謝だった。


フィリアは、

その背中を見送りながら、

胸の奥が締めつけられるのを感じていた。


うまくいった。

それは分かる。


けれど、

心は軽くならなかった。


与えてきた優しさが、

間違っていたように思えてしまう。


「……私は」


その日の夜、

フィリアは一人、

窓辺に立っていた。


街の灯りが、

静かに揺れている。


レミアの顔が浮かぶ。

セイラの言葉が重なる。


与えるだけの優しさ。

残すという選択。


どちらも、

自分が選んだ道だった。


正解は、

まだ見えない。


ただ一つ、

はっきりしたことがある。


このやり方は、

楽ではない。


それでも、

戻る気にはなれなかった。

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