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ガイア戦記 ― 歪められた世界の選択  作者: マロン
第二章 選ばれない者たち

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第二章 第二節 第一話 屋根の下で

服の裾が、くい、と引かれる。


足が止まる。

振り返ると、

ドゥリアが立っていた。


何も言わない。

ただ、おろおろとした目で、こちらを見上げている。

小さな手は、しっかりと服を掴んだままだ。


ライナスは、しばらくそのまま動けずにいた。


夜の港町は、静かだった。

昼間の騒ぎが嘘のように、潮の音だけが響いている。


「……」

言葉が出ない。


離れたばかりだ。

もう会うことはないと思った。

それで終わりにするつもりだった。

それでも、ドゥリアはそこにいる。

行くあてもなさそうな顔で、

それでも離れない。


ライナスは、軽く息を吐いた。

「……泊まるとこ、あるのか」


ドゥリアは、ゆっくり首を横に振った。

「……」

相変わらず、何も言わない。


「そうか」

それだけ言って、歩き出す。


服を引く力が、少しだけ強くなった。


ーーー


宿屋は、港から少し離れた場所にあった。

木造で古いが、明かりは暖かい。


「一部屋、空いてるか」

ライナスが声をかけると、

宿の主人はちらりとドゥリアを見て、何も言わずに鍵を渡した。


「同じ部屋でいいな」

ドゥリアは、こくんと頷く。


部屋に入ると、簡素な造りだった。

ベッドが二つ。

小さな机と、窓。


ドゥリアは、部屋を見回してから、ぽつりと言った。

「……屋根、ある」


ライナスは、思わず鼻で笑った。

「当たり前だろ」


「……よかった」

それだけで、ドゥリアは少し安心したように見えた。


荷物を置き、ベッドに腰を下ろす。

部屋の中は、静かだった。

しばらく、言葉がない。


ドゥリアが、足をぶらぶらさせながら、視線を落とす。

「……今日は」

小さな声。

「……迷惑、かけた」


ライナスは、すぐには答えなかった。

迷惑。

正しい判断。

間違いだったかもしれない選択。

どれも、まだ整理できていない。


「迷惑は、かかってねぇよ」

そう言ってから、少し間を置く。


「……正直な話な」

ドゥリアが、顔を上げる。

「何が正しかったかなんて、分かんねぇ」


追っていれば、違う結果があったかもしれない。

追っていれば、もっと酷いことになったかもしれない。


「だからさ」

ライナスは、頭をかく。

「お前がどうこうって話じゃない」


ドゥリアは、じっと聞いている。

「今日は、疲れたろ。もう寝ろ」

そう言って、立ち上がる。


灯りを落とすと、部屋は暗くなった。


ベッドに横になる。

少しして、ドゥリアの声が聞こえた。

「……ライナス」

「ん?」

「……ありがとう」

小さな声だった。


ライナスは、天井を見たまま答える。

「礼言われるようなこと、してねぇよ」

それきり、会話は途切れた。


外では、潮の音が静かに続いている。

同じ屋根の下で、

二人はまだ、何も決めていない。


けれど――


一人ではなかった。

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