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第一章 第一節 第二話 ギルドという居場所

町に戻ると、空気が一気に変わった。


人の声。

鉄の匂い。

酒と汗が混じった、むっとする熱。


ライナスは剣を背負ったまま、大通りを進む。

目指す先は一つだった。

ギルド。

魔物を狩る者。

情報を売る者。

命を金に換える者。

そういう連中が集まる場所だ。


扉を押し開けた瞬間、怒号が飛んできた。

「ふざけんな! その依頼は俺が先だ!」

「知るかよ、名前書いたのはこっちだ!」

木製の机が揺れ、酒がこぼれる。

止めに入る者はいない。

ここでは、よくある光景だった。


「……いつも通りだな」

ライナスは小さく呟き、壁際を進む。


掲示板には、びっしりと依頼書が貼られていた。

魔物討伐、護衛、調査。

どれも似たような内容だが、報酬と危険度はまちまちだ。


「最近、多くないか?」

背後から、男の声がした。

振り返ると、同じくらいの年頃の冒険者が立っていた。

軽装で、剣の手入れをしている。


「魔物の依頼」

男は顎で掲示板を示した。


「前はこんなに貼られてなかった」

ライナスは否定も肯定もせず、紙に目を走らせる。

確かに、多い。

しかも、場所が偏っている。


「森の外れ……山沿い……」

どれも、少し前まで安全とされていた場所だ。


「まあ、稼ぎ時だと思えばいいだろ」

男は肩をすくめた。

「死ななきゃ、な」

軽い言い方だった。

でも、冗談には聞こえない。


ギルドでは、命の重さは等価じゃない。

生き残った者の言葉だけが、意味を持つ。


「ライナスじゃねえか」

今度は、別の声。

振り向くと、年配の冒険者が手を振っていた。

顔に傷が多く、片足を引きずっている。


「最近、単独で動いてるって聞いたぞ」

「……まあな」

「気をつけろよ。最近、変なのが多い」

 

変なの。

その言葉に、胸の奥がざわついた。


「魔物か?」

「それもあるが……」

男は声を潜めた。

「黒い外套の奴を見たって話が、いくつか出てる」

ライナスの指が、ぴくりと動いた。

「……どんな?」

「さあな。強いって話と、妙に静かだって話くらいだ」

男は肩をすくめる。


「魔族じゃないかって言う奴もいる」

魔族。

その言葉が、空気を冷やした。

「ただの噂だ。本当なら、もう大騒ぎになってる」

そう言って、男は話を切り上げた。


ライナスは、掲示板に視線を戻す。

噂。

偶然。

勘違い。

そう思いたかった。

だが、森で感じたあの気配が、頭から離れない。


――同じだ。

受付の前に立つと、若い女性が顔を上げた。

「依頼ですか?」

「ああ」

ライナスは、一枚の依頼書を指差す。


森の外れ。

魔物討伐。

単独可。


受付嬢は一瞬、眉をひそめた。

「……最近、その辺り多いですね」

「知ってる」

「無理はしないでください。戻らない人も、増えてますから」

淡々とした声だった。

それでも、事務的すぎない。


ライナスは頷き、名前を書く。

「帰ってきますよ」

それは、受付嬢に向けた言葉でもあり、

自分自身に向けた言葉でもあった。


依頼書を受け取り、踵を返す。

ギルドの喧騒が、背後で続いている。

ここは、居場所だ。

だが、安息の地じゃない。

剣を握り直し、外へ出る。


夕暮れの空が、赤く染まっていた。

ライナスは歩きながら、ふと考える。

あの黒い外套の女は、

本当に、ただの偶然だったのか。

それとも―――


答えは、まだ出ない。

だが、確かめるしかない。

この世界で生きるなら、

剣を振るう理由から、目を逸らさないために。

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