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ガイア戦記 ― 歪められた世界の選択  作者: マロン
第二章 選ばれない者たち

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第二章 第一節 第四話 波の下で

ギルドの掲示板には、同じ依頼書がまだ貼られていた。


紙の端は少し折れ、

何人かが剥がそうとして、やめた痕跡が残っている。


「……まだ残ってるな」

ライナスが言う。

「昨日の続きだからね」


受付の女性は、淡々と帳簿を開いた。

「港湾区域の再調査。

範囲は同じ。内容も同じ。

“異変が起きる前兆の確認”」

「討伐は?」

「想定していません」

即答だった。

「被害は出ていない。

だからこそ、出す依頼です」


ネレウスが一歩前に出る。

「人は、入っているのか」


「最低限だけ」

受付はそう答えた。

「漁は控えめ。倉庫も半分。

町としては“様子見”の判断です」


「……様子見、ね」

リシアが小さく呟く。


「一番落ち着かないやつ」

ライナスは依頼書を手に取った。

「条件は?」


「深追い禁止。

異変を確認したら報告。

危険と判断した場合は撤退してください」


ライナスは一瞬だけ迷い、頷いた。

「受ける」


受付は淡々と手続きを進めた。

「無事を祈ります。

……それと」

少しだけ声を落とす。

「港の人たち、

少し神経質になってます。

刺激しないよう、お願いします」


「分かってる」

ライナスはそう答えた。


だが、その言葉に

自分でも確信はなかった。


港町の朝は、静かだった。

潮の匂いはいつも通り。

船もある。網も干されている。

だが、人の数が少ない。


「動いてはいるな」

ライナスが港を見渡す。

「でも、必要最低限って感じだ」


「無理はしない、ってこと」

リシアが言う。

「霧も出てるし、噂もある。

深入りしない判断ね」


ネレウスは岸壁にしゃがみ込み、海を覗いた。

「魚が、浅い」


「普通じゃないの?」

ドゥリアが首をかしげる。


「港に近づきすぎている」

ネレウスは静かに続ける。

「何かから、離れようとしている動きだ」


フィリアはそっと目を閉じた。

「……水が、落ち着いてない」

その言葉に、空気が少しだけ張りつめる。


「暴れてるわけじゃない」

フィリアは言葉を選びながら言う。

「でも、濁ってる。

何かを、隠してるみたい」


五人は依頼書に記された範囲――

港湾区域の外縁を歩いた。

倉庫街。

船着き場。

使われなくなった古い桟橋。


壊れた跡はない。

争った形跡も、血もない。


「被害は出てないな」

ライナスが言う。

「少なくとも、目に見える形では」


「だからこそ依頼が出た」

リシアが返す。

「“起きる前”に確認したい。

それだけよ」


ドゥリアは足元の木材を見つめた。

「……何もなかったら?」


「それが一番いい」

ネレウスが即答する。

「何も起きていない、

という事実を持ち帰れる」


「“何もない”を調べる仕事か」

ライナスは苦笑した。

「地味だな」


「地味な方が、

町は助かる」

リシアはそう言った。


古い桟橋の先で、フィリアが足を止めた。

「……ここ」

「何かある?」

「風が、戻りたがってる」

全員が周囲を見渡す。


壊れた樽。

苔むした柱。

波に揺れる影。

だが、何も出てこない。


「……気のせい?」

ドゥリアが小さく言う。


フィリアは首を振った。

「“今はまだ”なだけ」


その言葉が、妙に胸に残った。

調査を終え、五人は港の入口に戻った。


大きな異変はない。

だが、誰も安心した顔はしていない。


「はっきりしたことは一つある」

リシアが言う。

「この港、

何かが始まる直前よ」


ネレウスが静かに頷いた。

「兆しは、確かにある」


ライナスは海を見つめ、拳を握った。

「……なら、次は」


「次は、

もっと慎重に」

リシアが遮る。


ライナスは一瞬黙り、息を吐いた。

「……分かってる」


波は穏やかだ。

だが、その下で何が動いているのかは、まだ見えない。


港の調査は、

ようやく本当に始まったばかりだった。

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