表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガイア戦記 ― 歪められた世界の選択  作者: マロン
第二章 選ばれない者たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/77

第二章 第一節 第一話 港町と伝説

港町の中心には、広場があった。


潮風が抜け、荷運びの声が交差する場所。


その真ん中に、石像が立っている。

剣を掲げた勇者の像だ。


風雨にさらされ、角は少し欠けているが、

その姿は堂々としていた。


像の台座には、文字が刻まれている。

――勇者は神に選ばれ、

――闇を討ち、

――世界に平和をもたらした。

――その後、天へと帰還した。


ライナスは、像の前で足を止めた。

「……ああ、あれか」


子どもの頃、何度も聞かされた話だ。

絵本にも、歌にもなっていた。


英雄譚としては、よく出来ている。

それ以上の感想はなかった。


少し離れた場所で、小柄なドワーフの少女が像を見上げていた。


背伸びをして、刻まれた文字を追っている。

「えっと……ゆうしゃ、は……」

途中で諦めたのか、首を傾げる。

「……すごい人、なんだよね」

誰に言うでもなく、呟いた。


黒衣の魔法使いは、石像を一瞥しただけで通り過ぎた。

伝説の内容など、知っている。

今さら読み返す必要もない。


魚人の青年は、像よりも広場の人の流れを見ていた。

人間の街に立つ英雄像は、どこも似たようなものだ。


エルフの少女も、足を止めはしなかった。

長い時を生きてきた種族にとって、

こうした伝説は「定説」でしかない。


――誰にとっても、当たり前の話。


その石像の影で、男が一人、壁にもたれていた。

派手な装いではない。


だが、指先で弄ぶ金貨だけはやけに目立つ。

男は、勇者の像を見上げているようで、実際には、まったく違うものを見ていた。


「……人間って、つくづく愚かだな」

独り言のような声。


誰も反応しない。

男は肩をすくめ、金貨をしまうと、興味を失ったようにその場を離れた。


勇者の石像は、何も語らない。


―――――


ギルドは、広場から少し外れた場所にあった。


無骨な石造りの建物。

看板には、簡素な文字で《ギルド》とある。

中に入ると、空気が変わる。


酒の匂い。

血の匂い。

魔石の焦げた匂い。


「依頼は金次第だ」

「死んでも文句は言うな」


そんな言葉が、当たり前のように飛び交っていた。


ライナスは掲示板の前に立つ。

――魔物討伐

――護衛

――調査

どれも、仕事だ。


小柄なドワーフの少女も、少し遅れて掲示板の前に来た。

だが、紙の位置が高く、うまく読めない。

「……届かない」


黒衣の魔法使いは、受付で短く質問をしていた。

返ってくる答えは、事務的だ。


魚人の青年は、港湾関連の依頼だけを探している。


エルフの少女は、過去の依頼記録を確認していた。


目的は違う。

理由も違う。

だが、全員が同じことを知る。


――単独では、依頼を選べない。


「調査依頼は、複数名推奨だ」

受付の声が、冷たく響く。

「実績のない者は、後回しになる」


選ばれない。

それが、現実だった。


―――――


その日の終わり、掲示板には一枚の依頼が残っていた。

――港湾周辺調査

――魔物異常行動

――詳細は後日


条件は悪い。

情報は少ない。

だが、誰かがやらなければ、放置される。


ギルドの奥で、ギルドマスターが煙草を吹かす。

「……厄介な匂いがする」

それは、予感だった。


この依頼が、偶然では終わらないという予感。

港町は、まだ静かだ。


だが――

それぞれの理由が、同じ場所へ集まり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ