第一章 第五節 第二話 勝てない才能
翌日。
工房都市の格納庫は、いつも以上に人が集まっていた。
「完成したらしいぞ」
「ドゥルガの新型ゴーレムだ」
「ついに動くのか……」
囁き声が、炉の熱と一緒に膨らんでいく。
巨大な扉が開き、二体のゴーレムが姿を現した。
一体は、ドゥルガのゴーレム。
鋼鉄の外装は無駄がなく、力強い。
見るからに“完成品”だった。
もう一体は――小柄だった。
装甲は簡素で、余計な装飾もない。
関節部分が少し柔らかそうに見える。
「……あれは?」
誰かが首をかしげる。
「ドゥリアのだ」
「妹の?」
ざわめきが広がる。
ドゥリアは、ゴーレムの足元でそわそわしていた。
「えっと……勝負って、なにするの?」
その一言で、周囲が一瞬静まり返る。
「性能試験だ」
ドゥルガが答えた。
「歩行、旋回、耐衝撃。どちらが実戦に向いているかを見る」
「そっか……」
ドゥリアは頷いた。
勝つとか、負けるとか。
そんなことは、やっぱり考えていない。
―――――
最初は、歩行試験だった。
合図と同時に、二体のゴーレムが前進する。
ドゥルガのゴーレムは、堂々とした歩みだった。
一歩一歩が重く、地面が揺れる。
「さすがだ」
「安定してる」
一方、ドゥリアのゴーレムは――静かだった。
足運びは軽く、揺れが少ない。
地面に衝撃を残さないような歩き方。
「……速い?」
誰かが呟いた。
次は旋回。
ドゥルガのゴーレムは、力任せに方向を変える。
問題はないが、少し遅れる。
ドゥリアのゴーレムは、流れるように向きを変えた。
「なんだ、あの動き……」
そして、耐衝撃試験。
巨大な鉄塊が、上空から落とされる。
ドゥルガのゴーレムは、正面から受け止めた。
衝撃で膝をつくが、耐える。
「よし!」
だが――
ドゥリアのゴーレムは、受け流した。
衝撃を殺し、後ろへ逃がす。
一歩も崩れず、立ったままだった。
静寂。
次の瞬間、ざわめきが爆発する。
「……勝ってる」
「いや、圧倒的だ」
「操縦が楽そうだぞ」
誰もが、ドゥリアのゴーレムを見ていた。
―――――
ドゥリアは、操縦席から降りてきた。
「えっと……壊れなくてよかった」
その一言に、周囲が凍る。
「……壊れないのが、すごいんだ」
誰かが、呆然と呟いた。
父も、母も、言葉を失っていた。
「ドゥリア」
ドゥルガが呼ぶ。
「……なんで、こんな動きができる?」
責める声ではなかった。
けれど、どこか震えている。
ドゥリアは首をかしげる。
「えっと……転ばないようにしただけだよ?」
「転ばない、だけで?」
「うん。だって、操縦する人が怖い思いしたら、かわいそうだし」
その言葉が、静かに落ちる。
誰も、反論できなかった。
―――――
その日を境に、空気が変わった。
工房都市の職人たちは、ドゥリアを見る目を変えた。
「ゴーレム向きだ」
「あの子は、特別だ」
「発想が違う」
評価が、積み重なっていく。
ドゥリア自身は気づかない。
ただ、作業台で新しい部品を眺めているだけだ。
「ここ、もう少し丸いほうがいいかな……」
一方で、ドゥルガは――
工房の奥で、一人立ち尽くしていた。
勝ったはずだった。
技術も、理論も、経験も。
それでも、負けた。
「……妹は、勝とうとしていない」
その事実が、胸に刺さる。
なら、自分は何をしていた?
誇りか。
名声か。
天才であり続けることか。
「……まだだ」
ドゥルガは、歯を食いしばる。
「まだ、終わってない」
その視線は、格納庫の奥――
封じられた作業区画へと向いていた。
そこには、ドワーフの間で“禁忌”とされる技術が眠っている。
誰にも見せず、誰にも話さず。
ドゥルガは、一歩踏み出した。




