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ガイア戦記 ― 歪められた世界の選択  作者: マロン
第一章 それぞれの理由

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第一章 第四節 第二話 理論と裏切り

違和感は、些細なところから始まった。


研究棟の廊下を歩くたび、空気が、微かに重い。


魔力の流れが、いつもより遅い。


「……?」

リシアは足を止め、壁に刻まれた魔法陣に指を当てた。

反応は正常。

だが、どこか噛み合っていない。


「数値は、合ってるのに……」

理論上、問題はない。

それでも胸の奥がざわついた。


―――――


午後になっても、ヴァルディオスは研究室に現れなかった。


机の上には、未整理の羊皮紙。

計算式。

魔力波形。

負の力の干渉率。


その中に、見覚えのある名前があった。


「……弟……?」

文字の横に、小さく記された一文。


――魔族化段階。


視界が、揺れた。


―――――


リシアは治療棟へ駆け込んだ。


扉の向こうから、苦しげな息遣いが聞こえる。


「……っ」

中には、魔法陣に拘束された弟の姿があった。

身体は確かに強くなっている。


だが、魔力が制御を失いかけ、皮膚の下で脈打っていた。


「姉さん……?」

その声に、胸が締め付けられる。


「……どうして……こんな……」

背後から、落ち着いた声が響いた。


「来てしまったか」

ヴァルディオスだった。


「説明しよう」

講義のような口調で、彼は言った。


「君の弟は、生存率が極端に低かった」

「従来の治療では、いずれ確実に死ぬ」

「だから、肉体そのものを作り替えた」


「……魔族化……」

「合理的だ」

「魔族は、病に負けない」


弟の身体が、痙攣する。


魔法陣の光が、不安定に揺れた。


「……先生、これ……まだ実験中ですよね……?」

「そうだ」

ヴァルディオスは頷いた。


「最終調整段階だ」

「……じゃあ、止めて……!」


考えるより先に、身体が動いた。

リシアは、魔法陣に手を伸ばした。


制御式を書き換える。

「待て!」

だが、遅かった。


魔力が逆流し、一気に暴走する。


「――ッ!!」

弟の身体が、悲鳴を上げた。


理性が、削れていく。

「……姉さん……」


声が、揺れる。

「……だめ……頭が……」

「……姉さん……お願い……」


必死に、意識を繋ぎ止めるように。

「……このままじゃ……人じゃ……なくなる……」


視線が、リシアを捉えた。

「……姉さん……」

「……殺して……」


その言葉に、世界が止まった。

「……できない……」


リシアの手は、杖を握れなかった。

震えが、止まらない。


「……ごめん……」

弟は、かすかに笑った。


「……いいよ……」

「……姉さん……優しいから……」


その瞬間。

ヴァルディオスが、静かに前に出た。

「……やはり、無理か」


短い詠唱。

光が走り、弟の身体が、静かに崩れ落ちた。

苦痛は、一瞬だった。

完全な停止。


「……これが最善だ」

ヴァルディオスは、淡々と言った。


「君には、できなかった」

「感情が、判断を鈍らせた」


リシアは、その場に崩れ落ちた。


「……違う……」

震える声。

「それは……救いじゃない……」


ヴァルディオスは、何も答えなかった。


沈黙だけが、そこに残った。

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