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第一章 第一節 第一話 まっすぐな気持ち

はじめて投稿します。

拙い文かもしれませんが、あたたかく見守っていただけると助かります。

魔物は、突然現れる。

だから油断しない。

だから考えすぎない。


ライナスは剣を構え、獣の形をした黒い影を正面から見据えた。

森の中で魔物と相対するのは、これが初めてじゃない。


――落ち着け。


一歩、踏み込む。

影が跳ねた。

刃を横に振る。


手応えは軽く、次の瞬間には黒い霧が弾けた。

魔物は悲鳴も上げずに崩れ落ち、地面に黒い石だけを残す。

魔石。


ライナスはそれを拾い、腰の袋に入れた。

袋の中で、石が小さく音を立てる。


これがあるから、村は灯りをともせる。

これがあるから、冬を越えられる。

魔物を狩る理由は、それで十分だった。

「……帰るか」

そう呟いて背を向けた、その時だった。


――視線。


誰かに、見られている。

魔物じゃない。

もっと静かで、もっと冷たい気配。


ライナスは反射的に身を低くした。

木々の隙間。

一瞬だけ、黒い外套が揺れた気がする。


……気のせいか?

いや、違う。

胸の奥が、嫌な熱を帯びていた。

その色を見た瞬間、思い出してしまった。

忘れたつもりで、忘れられなかった日を。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


あの頃の自分は、今よりずっと若くて、ずっと愚かだった。


依頼書に書かれていたのは、魔物一体討伐。

それだけだった。


「余裕だろ。前にも同じのやったし」

先頭を歩いていたのは、ガルドだった。

年上で、剣の腕も確かで、

いつも「まあ何とかなる」が口癖の男。


「油断すんなよ」

後ろからミーナが言った。

小柄で、回復役を任されていた女だ。


ライナスは笑って返した。

「分かってるって」


……分かっていなかった。


森の奥で、空気が変わった。

嫌な静けさ。

鳥の声が消え、風も止む。


「……止まれ」

ガルドがそう言った瞬間だった。

影が、跳ねた。


「――ガルド!」

叫ぶ暇はなかった。

黒い塊がガルドの横腹をえぐり、

血が、信じられない量で噴き出した。

「が……っ」

ガルドは膝をつき、剣を落とす。

それでも立ち上がろうとして、倒れた。


「うそ……」

ミーナが駆け寄ろうとした。

その背中に、別の影が迫る。


「やめろ!」

ライナスは叫び、剣を振った。

届かない。

間に合わない。


ミーナの身体が弾かれ、

木に叩きつけられる。

「……ライ、ナス……」

その声は、途中で途切れた。


足が、動かなかった。

剣を握っているのに、

振るう理由が分からなくなった。

守れなかった。

間違えた。

全部、自分のせいだ。

魔物が、こちらを向く。


――次は、俺だ。

喉がひきつり、息が吸えない。

視界が狭まり、音が遠のく。


その時だった。

黒い外套の女が、現れた。

細身で、静かな立ち姿。

年は、当時のライナスより少し上だろうか。


女は無言で、腰に差した剣を抜いた。

構えは低く、力みがない。

けれど、隙が一切なかった。

一歩、踏み込む。


次の瞬間――

刃が閃いた。

魔物は、抵抗する暇もなかった。

女の剣が通り過ぎた直後、身体がずれ、霧のように崩れ落ちる。

音すら、遅れて届いた。


ライナスは、その場に膝をついた。

「……助けて、くれた……?」

女は剣を収め、こちらを見た。

冷たい目だったが、突き放すような色ではなかった。

「生きてる?」

それが、最初の言葉だった。

「あなたは……誰なんですか」

必死に尋ねると、女は小さく笑った。

「名乗るほどの者じゃないよ」

嘘だ、と直感した。

この人は、明らかに“普通”じゃない。


倒れた仲間たちを見て、ライナスの胸が締めつけられる。

「俺……弱くて……」

女は首を振った。

「弱いのは、悪くない」

「でも、そのまま終わったら……きっと後悔する」

そして、少しだけ声を柔らかくした。

「そのまま、まっすぐな気持ちを忘れないでね」

「……まっすぐ?」

「悔しいって思うこと。

守りたいって思うこと」


女は背を向ける。

「強くなりたいなら、強くなりな」

「でも、理由を捨てたら……戻れなくなる」

意味は分からなかった。

ただ、その背中と、剣の軌跡が焼き付いた。


「ま、待って! 次に会えたら――」

女は振り返らなかった。

森に溶けるように、消えていった。


ライナスは、仲間の亡骸の前で誓った。

――あの人みたいな強さが欲しい。

――次は、守る側でいたい。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


現在に戻る。


ライナスは荒く息を吐き、森を見回した。

……同じ気配。

黒い外套が、木々の間を遠ざかっていく。

「……あんた……?」

考えるより先に、足が動いた。

追いかける。

枝を払い、地面を蹴る。

だが、角を曲がった先には、誰もいなかった。

森だけが、静かに広がっている。


「……くそ」

地面に、布切れが落ちていた。

黒い布。

そして、見覚えのない印。

嫌な予感が、胸に広がる。

あの人は、何者なのか。

なぜ、今ここにいたのか。

答えはない。


だが、答えが集まる場所なら知っている。

ライナスは布切れを袋に入れ、町の方角を見た。

ギルドだ。

噂も、依頼も、人も集まる場所。

あそこなら――何か分かるかもしれない。


剣を背負い直し、歩き出す。

忘れない。

あの剣と、あの言葉だけは。

――そのまま、まっすぐな気持ちを。

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