表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イケメンになった俺、中学でフッた女の子が美少女になって隣の席から睨んでくるんだが!?  作者: なぐもん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/80

76話 隣の彼女は見栄っ張り

 ナンパ騒ぎが一段落したあと、俺――神崎翼と麗は、ビーチの端に並んで腰を下ろしていた。


 海は相変わらず騒がしく、楽しげな声と波音が途切れなく流れている。


 正確には、それを眺めているのは、俺だけだった。


 麗は、さっきから巻きタオルを頭まで引き上げて、完全に中に閉じこもっている。

砂浜にちょこんと置かれたその姿は、まるで巻き貝――いや、動かない様子はフジツボか……。


 って、そんな呑気なことを考えてる場合じゃない。


 今はこの状況をなんとかしないといけないのだ。


 着替えた直後から、麗は様子がおかしかった。

笑顔はあった。でも、どこか無理をしていて、俺の視線を避けるみたいに早足で歩いていた。


 麗の水着姿が見られるかもしれないと、はしゃいでいた自分を全力でぶん殴ってやりたい。


 ……情けないな。


 何か言わなきゃ、と思うのに、言葉が喉で引っかかる。


 俺たちは恋人なのに、こういう時ほど、何を言えばいいのか分からなくなる。


「……翼君」


 タオルの中から、麗のかすれた声が聞こえた。


「そこにいる?」


「いるよ」


「……さっきはごめんね」


「麗が謝ることなんか――」


「違うの」


 麗はタオルから顔だけだして、俺の言葉を遮った。


「……私さ……水着……翼君に見せるの、恥ずかしくて……だから、ずっとタオル巻いてたの」


「それは、高瀬や澪ちゃんと一緒だったから?」

 

「うん。だって、愛も澪ちゃんも……すごく素敵だし……胸だって、びっくりするくらい大きいんだよ……どうしても比べちゃって……」


 なんとも、思った通りの女子的な悩みである。

でも、麗だって素晴らしいものを持ってる。

およそ、平均以上の立派なものを……。


「翼君がさ、二人のことをさらっとフォローしてるの見てたら……私、なにやってるんだろって……せっかく海まで来たのに、一人で座ってるのが、急につらくなっちゃって……」


 麗の声は波の音に負けそうなくらい、小さくて弱々しい。


 だから俺は、はっきりと届くように、しっかりと麗の目を見る。


「麗は、そんなこと気にしなくていいんだよ」


「でも……」


「俺……麗がタオルを外さない理由は、なんとなく分かってたんだ」


「へっ?」


 麗は間の抜けた声を出すと、目を丸くした。


「俺にとって、麗は誰かと比べることができないくらい、特別な存在なんだ」


「……特別?」


「う、うん」


 面と向かって言葉にするのは、どうしてこうも難しいのだろう。

だから俺は一度、視線を外して、海を見ながら言った。


「誰かと比べる必要なんか全くないし、見栄なんか張らなくていいんだよ」


 俺は、勢いに任せて続けた。


「俺にとっては、麗が……その……一番、魅力的だから」


 なんでこんな簡単なことが、こんなにも恥ずかしいんだ。

それでも、俺は最後まで言わなければならない。

隣の彼女のために――。


「麗が一番かわいいって、本気で思ってる」


 言い切ったあと、心臓がやたらとうるさい。

自分の鼓動しか聞こえないんじゃないかってくらい。


 しばらく、波の音だけが流れた。


「……翼君は」


 麗が、ぽつりと言った。


「どんどん変わっていくね」


「えっ?」


「クラスでも、学校でも……みんなが気づき始めてる。翼君の周りにはどんどん人が集まってくる……」


 タオルの影から覗いた麗の瞳が、揺れている。

次の瞬間、ぽたっと雫が落ちて、砂に吸い込まれた。


「私みたいなのが……隣にいていいのかな……」


 胸が、強く殴られたみたいに痛んだ。


「私はいつも、翼君に頼ってばっかりで……泣いてばっかりで……」


 声が震え、堰を切ったように涙が溢れ出す。


「ナンパされてるときも、怖くて何も言えなかった……」


「……」


「そんな私が、翼君の隣に立つ資格、あるのかな……」


  泣きながら絞り出したその言葉に、迷いはなかった。

 ずっと抱えてきた疑問なんだと、分かってしまう。


 でも、その問いにだけは、俺は即答できた。


「麗が変えてくれたんだよ」


「……私が?」


「中学のあの日から、ずっと思ってた。麗の隣に立てる自分になりたいって……。いっぱい頑張ったつもりだし、色んな人にも助けてもらった」


 俺は、少しだけ隣の麗に近づいた。


「でも、まだ足りないんだ。今だって、麗を安心させたかったのに……泣かせてる」

 

 拳が、自然と握りしめられる。

守るつもりでいたくせに、何ひとつ守れていない感覚が、指先に残っていた。


「だから俺は、もっと強くなりたい。麗が、何も不安にならずに、隣で笑っていられるように」


 それは決意というより、今の自分に言い聞かせる言葉だった。


「そ、そんなの……」


 そう言って麗は立ち上がった。

隣で俯きながら見せる、表情に、俺は一瞬ドキリとする。


「私もだよー!」


 麗は完全に号泣していた。

やばい。本気で泣かせてしまった。


「私だって、……翼君の隣にいられるように、強くなりたい」


 涙を拭いもせず、麗は続ける。


「……私、すぐ見栄張っちゃうし、やきもち焼くし、めんどくさい女だけど……」


「れ、麗はそのままでも十分――」


「このままじゃダメなんだよ!」


 顔を上げて、涙だらけのまま叫んだ。


「だって私、翼君の恋人なんだよ? 好きだから、やきもちも焼いちゃうし、好きでいてもらいたいから、見栄だって張っちゃうんだもん!」


 麗の言葉と一緒に潮の匂いが混ざった風がブワッと吹いた。


 まさかの逆ギレに俺は言葉をなくすが、同時に麗の強さを感じた。


 麗は、深く息を吸って、意を決したように、巻きタオルに手をかける。


「み、みみみみ見てて、タオルとるから」


「そ、そんなに無理しなくても……」


「してないもん!」


 ためらいは、一瞬だけ。


 タオルが外れ、砂の上に落ちた。


 水着姿の麗は、顔を真っ赤にして、俺を睨んでいる。

無理しているのが、一発でわかるくらいに小刻みに震えていた。


 これが麗の見せる精一杯の勇気……。

俺は感想を伝えることを忘れ、目の前にいる彼女に対して、思わず手を合わせてしまいそうになる。


 だが、グッとこらえて、息を呑んだ。


「ど、どう? 惚れ直しちゃった?」


 麗は俺のことを睨み続けながら、小さく胸を張る。


 だから、俺は――、


「めちゃくちゃ可愛い……」


 と、なんとか言葉を発した。


「エッチ……」


 えぇ……。それは理不尽だろ……。


「私、決めたよ」


「な、なにを?」


「たとえこれから先、どんなに美人で素敵な人が現れても」


 麗は一歩、こちらに近づいて俺の胸の辺りをトンと指をさす。


「翼君のこと、放さないからね」


 イタズラっぽく笑う麗の笑顔は、さっきまでの不安なんて、嘘みたいに晴れていた。


「翼君! 海、行くよ!」


「う、うん」


 ――麗に手を引かれながら、俺は思った。


 ああ。

この人の隣に立ち続けるためなら、俺はまだまだ、いくらでも強くなれる。


「みんなー! 私も海に入るー」


 麗の元気な言葉が夏のビーチに響き渡った。

会社員のため、執筆・投稿は週末が中心となります。感想・ブックマーク・評価が大きな励みになりますので、応援いただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
フジツボ系女子、寡聞にして存じ上げず…… 今回の根本的な原因として 月城さんはここまでどちらかというと受け身のスタンスでいたから 関係を進める決定的なムーブはいつも翼からで 翼と比較した時、精神面で…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ