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イケメンになった俺、中学でフッた女の子が美少女になって隣の席から睨んでくるんだが!?  作者: なぐもん


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72話 隣の彼女はお菓子で生き残るらしい

――数日後。


 今日は高瀬家の別荘へ向かう日だ。

別荘へは高瀬の家から車で送ってもらえるらしい。


 麗が高瀬の家までは二人で行こうと言うので、俺は朝から月城家を訪れていた。


「神崎君、麗ちゃんのことお願いね」


 玄関先で出迎えてくれた志保さんは、いつも通り柔らかな笑顔だ。


「はい。任せてください」


 ――と答えた直後。


 志保さんの隣から、突き刺さるような視線を感じた。


「……いいか。約束を忘れるなよ」


 和史さんだ。

 庭仕事の途中だったのか、手には小さな鎌を握っている。


「も、もちろんです」


「それとだな! 海で変な虫が麗ちゃんにまとわりつかないように、しっかり守れよ」


 言葉に詰まった、その瞬間。


「お父さん!」


 麗がすっと前に出た。


「脅迫するのはやめて!」


「麗ちゃん、これは脅迫じゃないよ。男同士の確認みたいなもんで――」


「鎌持って言うことじゃないよ」


 ばっさりだった。


 麗はちらりと俺を見る。


「……ね?」


「うん。でも、なにがあっても、絶対守るよ」


 俺がそう言うと、麗は一瞬だけ目を丸くして――すぐに頬を赤らめた。


「あ、ありがと」


「あらあら」


 志保さんが楽しそうに微笑む。


「まるで新婚さんみたいね」


 その一言で、和史さんは膝から崩れ落ちた。


「……結婚はまだ早すぎる……!」


「も、もう行こう。翼君」


 麗が恥ずかしそうに、俺の腕を引っ張った。


「か、和史さんはあのままでいいの?」


「いいよ。ほっとこ……」


 怒っているのか、恥ずかしいのか。

たぶん、両方なんだろう。


「じゃあ、お母さん。いってきます」


「いってらっしゃ〜い。気をつけてね〜」


 志保さんの声に見送られ、俺たちは月城家を後にした。


 


「水着、持った?」


「持ったよ」


「着替えは?」


「ある」


「歯ブラシ!」


「あるって」


「お菓子!」


「……それはない」


「ええー!!」


 高瀬家へ向かう道中、俺は麗から執拗な持ち物チェックを受けていた。


 麗は小さなスーツケースとは別に、ビニール袋いっぱいにお菓子を詰め込んでいる。


「海で遭難したらどうするの? お菓子があれば、助かるかもしれないんだよ!?」


 いや……山にチョコを持っていくのは聞いたことがあるけど。


「そもそも、お菓子持ちながら海に入らないよね?」


「あ、そっか。でもさ」


 麗は俺の顔を覗き込みながら続ける。


「もし本当に二人で遭難しちゃったらどうする?」


「どうするって……」


「浮き輪で流されて、無人島に着いて、二人だけで生き残らなくちゃいけなくて――」


 麗の妄想は止まらない。


「それで、子どもが十人くらいになって、みんなで楽しく暮らすの……ってもう! 何言わせるの!」


 バシッと肩を叩かれた。


 痛い。


 完全に浮かれている。

楽しみにしていたんだろうけど、油断してたら本当に流されそうだ。


「そういえば、麗は泳げるの?」


「あっ! もしかして泳げないって思ってる? 残念〜。小学生の頃、水泳習ってたから泳げるんだよ」


 得意げに胸を張る姿は可愛らしいが――なぜだろう。すごく不安だ。


「どれくらい?」


「プールなら五メートル! すごいでしょ?」


「うん……すごいね」


 ダメだ。この子、絶対溺れる。


 俺は密かに、目を離さないことを誓った。


「翼君は泳ぎも得意そう。バレーも、バスケもすっごく上手だったもんね」


「あ、いや……」


 『実は沈む』なんて言えるわけがない。

 本当のことを隠した後味の悪さと、それでもこの時間を壊したくない気持ちが、胸の中でせめぎ合う。


「泳げるけど、大したことないよ」


「そんなこと言って……どうせ船みたいに速いんでしょ」


 間違ってはいないけど、その船、潜水艦なんだよ……。

俺が落ち込んでいると、不意に麗が一言――。


「でも、楽しみだね」


「うん」


 海も花火も、俺には縁のない世界だった。

けど、今年は違う。


 麗がいて、高瀬がいて、澪ちゃんがいて、駿がいる。


 例え潜水艦だろうが、きっと楽しい思い出になるはずだ――。


 


 そうしているうちに、高瀬の家が見えてきた。

相変わらずの大豪邸だ。


 白い門の前には見覚えのある大きな黒い車が停まっていて、高瀬と澪ちゃんがトランクに荷物を積んでいた。


「おはよー! 翼、麗!」


「今日は来てくださってありがとうございます」


「二人ともおはよう。筋トレと課題ばっかりだったから助かるよ。それより――」


「?」


 俺と麗は顔を見合わせ、息を合わせる。


「「澪ちゃん、全国制覇おめでとう」」


 麗がラッピングされた袋を差し出した。


「わ、私にですか?」


「うん。使ってくれたら嬉しいな」


「あ、ありがとうございます。開けてもいいですか?」


「どうぞ」


 中から出てきたのは、ネイビーのシューズ袋。


「これ……イニシャルですか?」


 端に、小さく刺繍された『M.T』。


「翼君が選んで、私が刺繍したの」


 既製品で十分だったはずなのに、麗は譲らなかった。


「頑張った記念だから。ちゃんと、澪ちゃんのものって分かるようにしたくて」


 澪ちゃんは黙って見つめ――そして。


「……嬉しいです」


 ぎゅっと袋を抱きしめた。


「大事に使います。絶対」


 その言葉に、麗はようやく安心したように微笑んだ。


「ところで、駿は?」


 俺が尋ねると、高瀬は頬を膨らませてトランクの方を見た。


「まだ。なにしてるんだろ」


 その直後だった。


「……おはよ」


 気の抜けた声と一緒に、眠そうな顔の駿が門の外から現れた。


「ちょっと、駿。遅い!」


 真っ先に声を上げたのは高瀬だ。


「悪い。昨日まで地獄の合宿だったんだよ……」


 頭を掻きながら言い訳する駿に、俺は苦笑する。


「じゃあ、今日は来ないのか?」


「行くに決まってるだろ!」


 駿は即座に顔を上げた。


「水着の女の子たちが俺を待ってる!」


「……澪」


 高瀬が、にこりともせずに澪ちゃんの肩に手を置く。


「駿には、絶対に近づいちゃダメだよ?」


「はい、姉様」


 澪ちゃんは即答だった。


 駿は深くため息をつく。


「おかしくない? この扱い」


 駿の反応が面白くて、みんなが吹き出してしまった。


「よーし! じゃあ、みんなそろったし、出発!」


「「「おー!」」」


 勢いよく車のドアが閉まり、エンジンがかかる。


 駿だけが、ほんの一瞬きょとんとした顔をして――

慌てて車に滑り込んだ。


 こうして、俺たちの夏が走り出した。

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>「浮き輪で流されて、無人島に着いて、二人だけで生き残らなくちゃいけなくて――」 >「それで、子どもが十人くらいになって、みんなで楽しく暮らすの……ってもう! 何言わせるの!」 青い珊瑚礁っていう昔…
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