66話 隣の彼女は本気らしい
神崎家のリビングでは、俺、月城さん、父さんの三人による緊急家族会議が開かれていた。
三人掛けのソファーに俺と父さんが月城さんを挟むような形でそれぞれ席につく。
「どうして、家出なんてしたの?」
「……怒鳴られた訳じゃないんだよ」
月城さんは膝の上で、家出用に持ってきたリュックを抱えたまま、静かに話し始めた。
「お父さんね、ずっと同じこと言ってたの、『一度逃げた人は、また逃げる。麗ちゃんにまた傷ついてほしくない』って、……だから私は家出したの。あの家にいたら、神崎君のことを諦めたみたいになる気がしたから」
「なるほどな」
父さんは腕を組みながらウンウンと頷いている。
えっ!? 今のでわかる!?
それじゃ、月城さんもお父さんから逃げたってことになるんじゃ……。
「翼、お前、分かってないな」
完全に混乱していた俺を見かねて、父さんがいぶかしむような目を俺に向ける。
「翼、『逃げる』ってどんな言葉だと思う?」
「えっと……向き合わなきゃいけないことから、目を逸らすこと?」
「そうだ。だから月城さんは家を出たんだ」
つまりどういうことだ?
まだ分かっていない俺に対して、父さんは特大なため息をつく。
「つまり、反対されているのに、何も言わずに家に居続けること。それが月城さんにとっての『逃げてる』ってことになるんだ」
「そうなんです!」
月城さんが、ぎゅっとリュックを抱きしめて顔を上げる。
「な、なるほど?」
「俺、すごいだろ? がっはっはっは」
高らかに笑う父さんと、胸を張る月城さんには言い出せなかったが、それでも――向き合い続けることから逃げない、っていう選択もあるんじゃないだろうか。
俺の考えだけど。
「というわけで、ここに私を置いて下さい」
月城さんが仰々しく頭を下げる。
「いや、いくらなんでもそれはまずいよ。志保さんも和史さんも心配するよ」
「和史?」
父さんの目が一瞬、ギロリと光る。
「月城さんのお父さんの名前だよ」
「……そうか」
なんだ今の……。
父さんはまた腕を組んで、月城さんを見ながらなにかを考えている。
「お母さんには、ここにいることを連絡したんだよ」
「帰ってこいって言ってたでしょ?」
「ううん。これ見て」
月城さんが差し出したスマホの画面には、
『お父さんのことはお母さんに任せなさい。神崎君によろしくね〜』とあった。
志保さんはもっと娘を心配した方がいいと思う……。
いや、でもさすがにうちの父さんは許さないだろう。
父さんは見た目通り、硬派な男だ。
年頃の女の子をこんな筋肉空間に置いておくなんてできるわけが――。
「いいぞ! 好きなだけいてくれ!」
父さんは一度、俺を見てからにやりと笑った。
「寝るところは翼の部屋でいいか?」
なんでだ、父さん!? しかもわざと俺の部屋で寝るように仕向けてきてる!?
「はい! ありがとうございます! お父さま」
月城さん、なんで満面の笑みで了承してんの!?
それに今、お父さまって言ったよな!?
いつも「剛十郎さん」って呼んでるのに……。
「よぉーし、そうとなれば風呂を沸かしてくる」
父さんはそう言うと、風呂場へ向かって行く。
去り際に俺にVサインしながら、「孫」と口パクをしていった。
あの筋肉ダルマめ……。
「あの……月城さん、さすがにまずいんじゃないかな? 本気なの?」
「神崎君、言ったよね! 『困ったことがあったら頼って欲しい』って、私、今、とても、困ってます!」
――ああ、言った。確かに言った。
俺は自分の言葉に後悔しつつ、どこかワクワクしていた。
「……わかったよ」
「ふふ。ありがとう! なんだか楽しくなってきたね」
「ああ。そうだね」
えっ……、これ……月城さん本当にうちに泊まるのか?
今夜……俺の部屋で寝るの?
やばい……どうしよう……。
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