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イケメンになった俺、中学でフッた女の子が美少女になって隣の席から睨んでくるんだが!?  作者: なぐもん


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62話 隣の席は神崎君だけがいい

 ――八月一日。

 

 今日は月城さんと、映画に行く日だ。俺は月城さんを迎えに来て、彼女の家の前で身なりを整えている。


 今まで学校帰りにどこかに寄ったりしたことはあるが、こうやってデートらしいデートは初めてだ。


 俺は、クローゼットの中から一番無難で、一番清潔に見えそうな服を選んだ。


 白のTシャツに、ネイビーのシャツ。

派手さはないけど、洗濯したばかりで、シワもない。


 袖を少しだけまくり、襟元を整えた。

髪型は大丈夫だろうか……。

スマホをインカメラにして確認してみる。

よし、大丈夫だ。


 普段はトレーニングウェアで過ごしているので、

今の俺にできる、精一杯はこのくらいだ。


 よし……押すぞ。


 意を決して、インターホンを押そうとすると、緊張して指が震えた。


 前に来たときはクラスメートとして来たけども、今日の俺は月城さんを迎えにきた彼氏だ。

志保さんとか、お父さんとかに会ったらどんな顔をしたらいいんだ……。


 だが、俺の不安は唐突に玄関が開いたことで終わりを迎えた。


「あら……」


 出てきたのは、月城さんの母――志保さんだった。


「こ、こんにちは」


 俺が挨拶をすると、志保さんは突然、悲鳴をあげた。


「きゃーーーーー!!」


 えっ!? なに!? 俺なんかした?


 志保さんは深く息を吸うと、楽しそうに家の中へ顔を向けた。


「麗ちゃーん! 王子様がお迎えに来てるわよー」


「ちょっと……お母さん!!」


 玄関扉の奥から、月城さんの慌てた声が聞こえた。

お、王子様ってなんだ?

 

 志保さんはそのまま玄関から出てくると、さっと俺に近づいてくる。


「神崎君、お茶飲んでいく? 私とお話しましょう!」


「あ、あの、映画の時間が……」


「えー! お願いよー。恋する乙女(麗ちゃん)のエピソード教えてちょうだい!」


 志保さんは俺の腕を相変わらず、すごいチカラで引っ張る。この細い体のどこにそんなパワーがあるのか……。


 ずいずいと玄関の方へ引っ張られる俺を、家から出てきた月城さんが助けてくれた。


「お母さん!? なにしてるの!?」


 志保さんは片手で俺の腕を掴んだまま、もう片方の手で口元を隠した。


「これは……違うのよ! 家の前にイケメンが転がっていたのよ!」


 俺……拉致されてます。助けて下さい。


「その人、私の恋人だから! さ、さささ触らないで!」


 月城さんは真っ赤になって怒っている。


「ふふ、冗談よ。麗ちゃんったらかわいいんだから」


 月城さんは、完全に志保さんに遊ばれていた……。


 志保さんはイタズラっぽく俺たちに笑うと、ようやく俺の腕を離してくれた。


「それにしてもお似合いのカップルねー。神崎君、今日は麗ちゃんをよろしくお願いします」


「は、はい」


 月城さんは、まだ頬を膨らませながら俺を睨んでいる。

いやいや、俺なにもしてないからね?

 

「神崎君、今日の麗ちゃんはどう? かわいい?」


 はっとしたようにいつもの表情に戻る月城さん。

俺の近くまでトコトコ走ってくると、上目遣いで俺を見てくる。


「ど、どうかな?」


 月城さんは紺のワンピースに、白いショルダーバッグ。

肩にかけた細いストラップが、歩くたびに小さく揺れていた。


 普段は下ろしている髪も、今日は後ろでまとめられていて、首筋がすっと綺麗に見える。

普段よりもずっと大人っぽい印象だ。


 俺は頭の中で言葉を探す前に、目が離せなくなっていた。

だ、だめだ。ちゃんと言わないと……。


「とても……よく似合っています……」


 なんとかそれだけ言えた。


「そ、そう? ありがとう」


 その様子を見ていた志保さんが、月城さんの後ろから両肩に手を添えた。


「良かったわね。準備するのに三時間くらいかかったものね」


 月城さんはぴたりと止まり、またみるみる顔を赤くした。


「お、お母さん! 言わないでよ!」


 志保さんは、にこにこと楽しそうな笑みを浮かべたまま、軽く手を振った。


「はいはい。ごめんなさい。二人とも、楽しんで来てね」


「……はい」


 俺がそう答えると、月城さんはまだ赤い顔のまま、小さく頷いた。


「い、行ってきます」




 俺たちは、並んで歩き出した。

夏の昼下がりの空気が、じっとりと肌にまとわりつく。


 歩幅を合わせると、自然と距離が近くなる。

肩が触れそうで、触れないような距離だ。

月城さんのショルダーバッグが、歩くたびに小さく揺れて、そのたびに白いストラップが目に入った。


 クラスメートでも、隣の席の友達でもない。

俺は今、月城麗の彼氏として、ここに立っている。


 並んで歩くこの距離が、もう当たり前みたいになっていることに、少しだけ戸惑った。





 やってきたのは、ショッピングモールの中にある映画館。


 エスカレーターを上がった先には、ポップコーンの甘い匂いと、人のざわめきが広がっていた。


 夏休みということもあって、ロビーには学生の姿がやたらと多い。制服姿のままのグループや、私服で並んで歩くカップル。


「けっこうすごい人だね……」


 俺がそう言うと、月城さんはきょろきょろと周囲を見回しながら、声を弾ませ、小さく頷く。


「うん。でも、夏休みって感じだね。みんな楽しそう!」


 俺もそう思う。でも、一番楽しそうにしているのは月城さんだ。

さっきから映画のパンフレットを手に持って目を輝かせている。


「ねえねえ、神崎君! なにか飲み物買いに行こう?」


「うん! 行こう」


 売店の前にやって来ると、短い列ができていた。

俺はアイスコーヒーを、月城さんはアイスティーを頼む。

透明なカップの中で、氷がからんと音を立てた。


「甘いのにしなくていいの? あのチョコレートドリンクとか」


「神崎君、もしかして私のこと甘党だと思ってる?」


 月城さんは少し拗ねたようにアイスティーを俺に見せる。


「私は、たまに甘いの食べたくなるだけだからね」


 そう言ってストローを差し込む仕草が、妙に可笑しく、微笑ましい。


 チケット代わりのスマホの画面を係員に読み込んでもらい、薄暗い通路を進む。

足元の小さなライトに導かれるように歩きながら、スクリーンのある空間へ入った。


 中はすでに、かなり席が埋まっていた。

周囲を見渡すと、女性同士やカップルの姿が目につく。

ざわざわとした声の合間に、紙袋を開く音や、ストローを吸う音が混じっていた。


 俺たちの席は、中央ブロックの端。

通路を挟んだ、壁側の二つ並びだ。


 座ってから、ふと気になって月城さんを見る。


「……ここなんだね」


「うん」


「映画館ってさ、真ん中の少し後ろがいいって言うよね。音とか、見やすさとか」


 月城さんは、膝の上にバッグを置き、ストローをくるりと回した。


「一人だったら、そうするかもね」


 そう言ってから、どこか得意気だ。


「でも、神崎君と一緒だから」


「え?」


「隣は神崎君だけがいいもん」


 それだけ言って、視線をスクリーンの方へ戻す。

氷が少し溶けたピーチティーを一口飲み、何事もなかったみたいな顔をしている。


 やばい――幸せ過ぎる。

 

 照明が、ゆっくりと落ちていく。

周囲の話し声が自然と小さくなり、スクリーンに予告映像が映し出された。


 月城さんはもう前を向いている。

肘置きの間隔が、やけに狭く感じられた。


 そして、俺たちの思い出の作品、

『となりのヒロイン計画』は始まった。


 地味で、目立たなくて、自分に自信のなかった女の子が、ヒロイン役に選ばれたことをきっかけに、少しずつ前を向いていく物語。


 月城さんがこの話を好きな理由も、なんとなく分かる。

きっと、主人公の結花ちゃんが好きなんだろうな。


 上映中は月城さんとのことが、次々と思い出された。

遠回りだったのかもしれない。

それでも――今、こうして隣にいる。


 全てはこの作品から始まったんだ。

 

 暗闇の中、隣の月城さんは……やっぱりポロポロ泣いていた。

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― 新着の感想 ―
>準備するのに三時間くらいかかったものね そんなに 月城さん、きっと楽しみ過ぎて昨日の夜寝れなかったに違いない
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