表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イケメンになった俺、中学でフッた女の子が美少女になって隣の席から睨んでくるんだが!?  作者: なぐもん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/80

61話 隣の彼女と夏休み

 ――数日後。


 教室の中は、もう夏休みの空気に満ちていた。


 机を引く音、椅子が床を擦る音。

あちこちで弾む声が交差し、終業式が終わったという事実を、誰もが体全体で感じている。


「夏フェス行くんだってさ」

「いいなー、うちは帰省」

「部活? だる……」


 予定の話ばかりが、教室を行き交う。


 担任の先生も今日はやけにあっさりしていた。

 

「戸締りだけ気をつけろよー」

 

 それだけ言い残して、さっさと職員室へ引き上げていく。


 窓の外では蝉が鳴いている。

開け放たれた窓から風が吹き込み、カーテンが白く膨らんでは、ゆっくりと戻った。


 ――ああ、始まったんだな。


 去年の夏は、こんな雰囲気を感じる余裕なんてなかった。毎日、月城さんの隣に立てる男になりたくて、ただ必死に鍛えていた。


 でも、今年は違う。


 鞄に教科書を放り込み、立ち上がろうとしたとき、隣の席から明るい声が飛んでくる。


「神崎君、帰ろ」


 見ると、俺の恋人――月城麗がこちらを見ていた。

 口元に小さく笑みを浮かべて、目だけが妙に楽しそうだ。


 そのまま俺の腕を掴むと、ぐいっと引っ張ってくる。


「い、行くから……引っ張らないで……」


「だって、遅いんだもん」


 半ば強引に引かれながら、俺たちは教室を出る。


 始まるのだ。夏休みが――。




 

 


 二人で並んで校門を出ると、太陽は容赦なく真上から照りつけていた。


 その眩しさに負けないくらい、月城さんの目も輝いている。


「ついに、始まったね。夏休み!」


 歩きながら、弾むように話しかけてくる。


「そうだね。ずっと楽しみにしてたもんね」


「うん! どこ行く? いつ行く? 明日行く?」


 明日どこに行くんだ? 俺は思わず苦笑する。

こんなに落ち着きのない月城さんは、初めてだ。


「とりあえず……来週は映画だよね?」


 俺がそう口にすると、ふっと記憶が重なる。


 まだ付き合う前。

俺が一方的に「嫌われてる」と思い込んでいた頃の約束。


「あ、そうだ!」


 月城さんは立ち止まり、鞄からスマホを取り出す。


「もうチケット買っちゃったんだよ。ほら」


 月城さんは興奮しながら、画面を突きつけてくる。

そこには『となりのヒロイン計画』のタイトルと、並んだ二人分の座席番号。


「もう買ったの!? 早いね」


「当然でしょ。日付まで決めてたんだから。座席なくなったら嫌だし」


 月城さんは、えへん、と胸を張る。

その仕草が、少し子どもっぽくて、妙に似合っていた。

よほど楽しみなんだろう。


「あ、お金払うよ。いくらだった?」


 俺は鞄から財布を取り出した。


「い、いいよ。私が誘ったんだし。それに……いつも神崎君の家でご飯ご馳走になってるし」


「それ言うなら、俺もずっとお弁当作ってもらってたし。受け取ってよ。お金のことはちゃんとしておきたい」


 俺の言葉を聞いて、月城さんは立ち止まってしまった。


 スマホを胸元に引き寄せて、じっと俺を見る。

視線が、妙に真剣だ。


 一体、なんだ?


「……神崎君」


「な、なに?」


「私がこの映画に誘ったときのこと、覚えてる?」


「覚えてるよ。商店街の本屋さんで……俺が『映画やるんだね』って言ったら、月城さんが誘ってくれた」


「……うん」


 月城さんは、視線を落とす。

指先が絡まり、ほどけて、また絡まる。


「あのときね……私、すっごく勇気出してたんだよ」


 彼女は小さな声で呟く。


「この映画は、私にとって特別で……神崎君と一緒に読んだ本で……。だから、どうしても……一緒に観たかったの」


 一拍、間を置いて。


「だから……これは、私が誘った分のお金なの!」


 顔を真っ赤にして、言い切る。


 ……そんな気を使わなくていいのに。


「批評仲間が欲しいって言ってなかったっけ?」


 わざと軽く言うと、月城さんは一瞬きょとんとしてから、鞄をぶんぶん振り回した。


「もう! それは建前! 意地悪言わないで!」


「ごめん。でもさ……俺も、この映画、月城さんと一緒に観たかったんだ」


 俺は立ち止まり、月城さんの正面に立つ。


「誘ってもらえたときは驚いたけど、すごく嬉しかった」


 月城さんの目が、少しだけ見開かれる。


「だから……ちゃんとお金は出させて。これは連れて行ってもらう映画じゃなくて、二人で行く映画だから」


 しばらく黙っていた月城さんは、やがて息を吐くように笑った。


「……ずるいよ。そんな言い方」


 スマホを胸に抱き、視線を逸らす。


「じゃあ……1,500円……」


「うん。ありがとう」


 差し出したお金を、月城さんが少しだけ迷ってから受け取る。

指先がほんの一瞬、触れ合って……俺たちは並んで、再び歩き出した。

会社員のため、執筆・投稿は週末が中心となります。感想・ブックマーク・評価が大きな励みになりますので、応援いただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あーそんな話もあったような… で該当箇所を読み直してきました13話ですね あれから、月城さんの“表紙”しか見ていなかった翼がページをめくり始めて 月城さんという“物語”に触れたからこそ、こうしてカッ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ