54話 隣の美少女たちとハーレムランチ
店に入ると、昼どきということもあって、店内はかなり賑わっていた。
家族連れ、学生グループ――いかにも週末のチェーン店らしい雑多な空気だ。
皿とフォークの音、注文を取る店員の声、どこかで子どもが笑う声が混じり合っている。
「いらっしゃいませー」
入口に立っていた店員が、慣れた調子で声をかけてくる。
奥のボックス席に案内され、俺の隣に月城さん、正面には澪ちゃん。
そして月城さんの向かい側に、高瀬がどっかりと座った。
三人の美少女を冷静に見渡すと、これはなかなか視線を集める面子だ。
やかましいが、見た目は文句なしの金髪ギャルに、クール系美少女、そして清楚が顕現したような美の女神――。
そんな三人に囲まれている俺って、周りからどう見られてるんだろう。
背筋が自然と伸びる。
「翼、よかったね。美少女三人に囲まれてランチなんてハーレムじゃん」
高瀬が茶化すように言ってくる。
事実だから俺も正直に返した。
「正直ちょっと緊張してる。みんな可愛いからな。俺、浮いてないか?」
「か、かわ……」
澪ちゃんが言いかけて言葉を詰まらせた。
一瞬だけ視線が泳ぎ、頬がほんのり赤くなる。けれど、すぐにコホンと咳払いをして表情を引き締める。
「……師匠は浮いてなどおりません。こうして同じ席につかせてもらえるのは光栄です」
一瞬だけ見せた反応は、背伸びをやめた瞬間みたいで、年相応の女の子なんだな、と思えた。
「そうそう。翼だってモテモテなんだから、堂々としてればいいんだよ」
高瀬の言葉に、月城さんは隣で「うん、うん」と頷く。
その仕草が嬉しくて、ここにいても大丈夫だと安心できた。
……そうか。変に意識する必要はないんだ。
「ねぇねぇ、ハーレム王、なに食べる? ウチはこれ!」
誰がハーレム王だ。
高瀬がメニュー表を指差したのは、ステーキランチだ。
「あと、これとこれと……あ、これも」
「……頼みすぎじゃないか?」
「いっぱい食べないと勉強できないじゃん! 今日はガッツリだー!」
迷う様子はまったくない。
澪ちゃんもそれにならうように、静かにメニューをめくっている。
「えっと……俺はこれで」
俺が頼んだのは、海藻サラダとローストチキン。
外食のメニューを見ると、どうしてもカロリーに目がいってしまう。
トレーニーとしては、もはや職業病だ。
「私は……ドリアにしようかな……あ、でもパスタも捨てがたい……」
月城さんはメニューを見つめ、「うーん」と小さく唸る。
──しばらくして、料理が運ばれてきた。
高瀬と澪ちゃんの前には、ステーキを中心にトッピングやサイドメニューが並ぶ。
見ているだけでカロリー計算が止まらない。
ポテトやピザも加わり、皿の数もカロリーも、昼食にかける気迫が違う。
「いただきまーす!」
「……いただきます」
高瀬は勢いよく、澪ちゃんは丁寧に。
見た目の印象に反して、二人とも本当によく食べる。
月城さんは、ドリアを小さな口で少しずつ運んでいた。
⸻
食事が一段落すると、高瀬が当然のように言い出す。
「で、デザートはどれにする?」
「え。まだ食べるのか?」
「食べるに決まってるでしょ!? なにしに来たの!」
勉強じゃないのか!?
そんな信じられないものを見る目で睨むな。
「……私は、食べたい、かな」
月城さんまで控えめに手を挙げる。
「……俺はいい」
「翼、女の子はデザートを楽しむ生き物なんだよ?
デザートがないと死んじゃうんだよ?
それでいいの? 麗が遠慮しちゃうじゃん!
アンタもなんか頼みなよ!」
くっ……。
確かに女の子は砂糖でできている――
どこかのラノベで読んだ気がする。
糖分が足りないと機嫌が悪くなるとか、スイーツは別腹とか、最終的に「男は黙って奢れ」理論だったはずだ。
理不尽だとは思うが、月城さんが遠慮するのは嫌だ。
「じゃあ、コーヒーゼリーで……」
今日のトレーニングメニューは追加だな。
──料理が来るまでの、ほんの少しの時間。
「はいはい! じゃあその間に!」
高瀬はカバンから、くしゃっとしたプリントを取り出して机に広げる。
「ここ! このへん全然わかんない!」
「……まずは公式からだな」
俺と月城さんで、挟み込むように説明を始める。
高瀬はぶつぶつ文句を言いながらも、なんとかペンを動かしていた。
そのとき、不意に澪ちゃんが顔を上げた。
「……師匠」
「ん? どうしたの澪ちゃん?」
少し間を置いて、澪ちゃんは言った。
「あの……お二人は……お付き合い、しているんですか?」
空気が、一瞬だけ止まったように感じる。
俺も馬鹿じゃない。
澪ちゃんが俺に向けている好意には、なんとなく気付いている。
だから、曖昧な言葉で期待を持たせるわけにはいかなかった。
「うん。最近なんだけどね」
俺は頭をかきながら、正直に答えた。
「この前のバーベキューも、父さんからのお祝いみたいなものだからさ」
「……そう、ですか」
澪ちゃんはそれ以上何も言わなかった。
けれど、さっきまで背筋を伸ばしていた姿勢が、ほんの少しだけ小さくなったのがわかった。
「すみません……私、そんな時に……お邪魔、したんですね」
「いや、いいんだよ」
慌てて否定する。
「気にしなくていいよ。父さんも、澪ちゃんが来てくれて喜んでたし、俺たちも楽しかったよ」
俺がそう言っても、澪ちゃんの表情は晴れなかった。
「すいません。私、お手洗いに行ってきます」
澪ちゃんがそっと立ち上がる。
「……神崎君」
「ん?」
「私もちょっと、お手洗い行ってくるね。神崎君は愛のことお願い」
月城さんが席を立つ理由は、聞くまでもなかった。
だから俺は、引き止めなかった。
「わかった」
月城さんは、早足で澪ちゃんの後を追っていく。
……俺は、その背中を見送ることしかできなかった。
「翼! これわかんない〜」
俺は小さく息をつき、心の中で決めた。
澪ちゃんのことは月城さんに任せる。
まずは目の前の高瀬に集中しよう。
「はいはい、ここから順番にいくぞ」
会社員のため、執筆・投稿は週末が中心となります。感想・ブックマーク・評価が大きな励みになりますので、応援いただけますと幸いです。




