45話 隣の美少女に告白したい
「はい、あーん……」
信じられないことを言いながら、そのスプーンを俺に差し出してきた。
つ、月城さん、それを食べると間接キスになってしまうんだけど……。
彼女の笑顔が眩しすぎる。おそらく月城さんは単に美味しいものを共有したいだけなのだろう。意識してるの俺だけなのか?
「い……いただきます」
断ることなど出来ない。断ったらせっかくの彼女のご厚意が……。そう! これは彼女の笑顔を守るためだ。下心なんかまるでないのだ!
俺がスプーンを口に含んだ瞬間。
「あ……」
月城さんのまつげが、ふるっと揺れた。
スプーンを持つ指先がぴたりと止まる。
そして、ゆっくりと、自分の手元のスプーンを見つめ、その視線が俺の口元に移った瞬間、顔にじわじわと赤みが広がっていった。
「………………っ」
耳まで真っ赤だ。湯気が出そうなほど熱を帯びているように見える。
「い、いまの……えっと……」
言葉を選びあぐねて、喉が小さく鳴る。
「わたし……神崎君にあーん……しちゃった、んだよね……?」
自分でも耐え切れなくなったのか、テーブルの上のスプーンをそっと見つめて、小さく息をのんだ。
「…………間接キス、になっちゃったね……」
声は小さく、震えていて、消えてしまいそうなのに――その一言は胸に突き刺さった。
言ったあと、月城さんは慌てて両手で頬を覆い隠した。
「ち、ちがうの! いや、違わないんだけど……! そ、そういうつもりじゃなくて……! 美味しくて、その……」
机の下で足をばたつかせながら、必死に言い訳している。ただただ可愛い。
そんな反応されたら……こっちだって恥ずかしくなる。
「えっと……その……スプーン、もう一個もらおうか?
ほら、気になるだろうし……」
俺が気を遣ったつもりで言うと。
「――い、いいのっ!!」
月城さんが、勢いよく顔を上げた。目の端まで真っ赤にして、ぷるぷる震えながら言う。
「こ、これでいいの! このスプーンで……食べるから……っ」
「え、でも――」
「わ……わわ、私、気にしてないから!」
――いや、その顔はめちゃくちゃ気にしてるだろ。
「そ、そっか……なら、うん」
それから月城さんは一口食べる度にスプーンをギッと睨んで食べていた。
パフェを食べ終えた俺たちは会計を済ませて店を出た。レジをしてくれた高瀬からは「間接キス良かったね」と茶化されてしまったけど……。
見られていた……。恥ずかしい。
外はすっかり暗くなっていた。スマホの時刻を見ると19時だ。
「ごめんね。食べるの遅くて……」
「大丈夫だよ。全然気にしてないから、もう遅いから家まで送るよ」
「い、いいのかな? 私、一人でも大丈夫だよ? 神崎君も帰り遅くなっちゃうし……」
「こんな時間に月城さんを一人で歩かせる方が心配だよ。俺は帰りにトレーニングがてら走って帰るから大丈夫」
「じゃあ……お願いしようかな?」
「うん、行こう」
俺たちは並んで歩き出した。
「神崎君、今日は急だったのに一緒に勉強してくれてありがとう。とっても楽しかった」
隣で月城さんが笑いながら一緒に歩いている。ずっと願っていた光景が目の前にある。
「俺も月城さんと一緒に勉強できて助かるし、楽しかったよ。特にパフェを食べているところとか」
「それは忘れて下さい……」
照れたように頬を押さえて、月城さんがつい目をそらす。その横顔が、歩道の街灯に照らされてほんのり赤く見えた。
「私ね、学校が好き。お友達もいっぱいできたし、こうやって神崎君とも一緒に過ごせるし……変わってよかったって思うの」
ひと呼吸置いて、月城さんはまっすぐ前を見た。言葉を選ぶように、ゆっくり、でも確かに気持ちを込めて話しているのが分かる。
歩調が自然と俺の速度に合わされていて、その距離がやけに近く感じた。
「神崎君にフラれたのは悲しかったけど、また笑って隣にいられるのがすごく嬉しい」
その一言で、歩く足が一瞬止まりそうになる。
――ああ、もうだめだ。こんなの聞いたら、気持ちを抑えられるわけがない。
横で歩く月城さんは、普段と変わらないように見えて、どこか不安げに小さく笑っていた。
中学の図書室で、俺の隣で本を読んでいたあの頃の面影が、そのまま重なる。
「また隣にいられるのが嬉しい」
その言葉が、何度も胸の奥で繰り返された。
「……月城さん」
気づいたら、名前を呼んでいた。心臓がうるさくて、息も浅い。でも――今しかないんだ。
「俺……月城さんに大事な話があるんだ」
俺はこの一年の想いを全てぶつけようとしていた――。
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