42話 隣のイケメンは約束してくれた
朝の救出作戦の後、私は神崎君から目を離すことができなかった。
なぜなら――。
「神崎君、連絡先教えてよー」
「放課後、空いてる?」
まただ……休み時間になる度に、女の子がワラワラと集まってくる。正直、かなり……イライラしている。
あれは神崎君の甘い蜜を吸いに来た虫ケラだ。どのように処分てやろうか? そんなことばかり、考えてしまう。
「ねぇ、翼君――」
しかし、処分する訳にもいかないので、美少女清楚オーラ全開で対処したり、適当な理由をつけて、彼を教室から避難させている。
でも――いつまでもこんなことはできない。私が神崎君を好きなように、他の子が彼を好きになるのも当たり前なのだから。
私は神崎君の『彼女』じゃないもんね……。なんだかとても寂しくなった。
お昼休み――。私は神崎君とお昼に行こうといつものランチバックを手に席を立った。
隣の席を見ると、またどこから現れたのか、女子たちが神崎君に言い寄っている……。
やるせない――。絶対、私の方が先に好きになったのに……。
いや……順番なんか関係ない。神崎君が誰と一緒にいるかは彼が決めることだ。私にはそんなこと決める権利ないもんね。
「お弁当食べるって言ってたのに……」
なかなか女の子から解放されない神崎君を見て、モヤモヤした気持ちを抱えていた。私は一人でトボトボと体育倉庫へ向かうしかなかった。
「むぅー」
体育倉庫の裏で、不機嫌にレジャーシートを広げた私は、自分のお弁当箱と誰もいない向かい側に神崎君のお弁当箱を置く。
虚しい。
ぽつん、と並んだ二つのお弁当箱を見ていると、胸の奥がきゅっと締めつけられた。
わかってる。神崎君が悪いわけじゃない。ただ、私が勝手に期待して、勝手に落ち込んで、勝手に寂しがっているだけ。
「……何やってるんだろ、私」
自分で自分が嫌になった、その時――。誰かがこちらに向かって走ってくる足音が聞こえた。靴で砂を蹴り上げる音がどんどん近づいてくる。
だ、誰!? こんなところで一人でお弁当食べてたら、変な噂がたってしまう。
私は物音を立てないようにじっと動かず、走り来る音が遠ざかるのを待った。でも、その足音はわざわざ倉庫の裏に回ってきて――。
「月城さん!」
突然、頭上から聞き慣れた声が降ってきた。驚いて顔を上げると、そこには息を切らした神崎君が立っていた。
「か、神崎君、どうしてここに……?」
私が問いかけるより先に、彼は困ったように笑った。
「やっと抜け出せた……。遅くなって、ごめんね。月城さんが先に行っちゃうから大変だったよ」
その言い方がなんだか可笑しくて、でも少しだけ安心する。でも、私の嫉妬はここで収まらなかった。
「だって……神崎君、来ないからあの子たちと食べるのかと思って……」
違う。
「でも、一緒に食べるって約束したし」
「私はお邪魔かと思って!」
違うのに……こんなことを言いたいわけじゃない。ただ……彼の気持ちが知りたいだけ。私のこと……どう思ってるの?
すると、神崎君は当然のように私の向かい側に座った。さっきまで誰もいなかった場所に、当たり前のように神崎君がいる。
「月城さん、……怒ってる?」
「べつに怒ってない!」
反射的に否定したら、神崎君が「そ、そっか」と困ったように笑った。その顔を見ていると、急にさっきの自分が恥ずかしくなる。
……私、こんなことで拗ねて、どうするの。
神崎君はお弁当箱を開けながら、ふっと嬉しそうに目を細めた。
「月城さんと食べるこの時間が好きだから……大事にしたいんだ」
「っ──!」
心臓が壊れたみたいに暴れて、箸が震えた。彼への想いが溢れ出てそうになるのを、慌ててお茶で流し込む。
……そんなの言われたら、期待しちゃうから……。
「じゃあ、明日もちゃんとお弁当食べてくれる?」
「もちろん」
「明後日も、その先も……ずっとずっと食べてくれる?」
「え、えっと……ずっと……?」
一瞬だけ神崎君の声が裏返った。でも、それでも――。
「も、もちろん」
「や、約束だからね! キャンセルできないからね!」
「約束する」
よし! 言質はとった。これで彼(のお昼)は私のものだ。
あ、あれ? でも、ずっとずっとって……。なんかプロポーズみたいな言い方してない?
や、やってしまった!
バッ!!
私は彼の顔が見れなくなって自分のお弁当箱で顔を隠した。おそらく全く隠れてないとは思うけど……。
お弁当箱を少しずらして、神崎君を見てみる。彼は美味しそうに私が作ったお弁当を頬張っている。
よ、よかった。気にしてない……よね? 全く気にされないのもそれはそれで嫌だけどね……。
「お、美味しい?」
「うん。とっても美味しいよ」
彼はニコッと柔らかい笑顔で答えてくれる。
「そ、そう? よかった」
たとえ神崎君がどれだけモテても。どれだけ女子に囲まれても。こうして向かい合って笑ってくれる限り、私は何度だって彼の隣に戻ってこれる。
――そう信じさせてくれる、そんな笑顔だ。
ひっそりと吹いた風が、レジャーシートの端を揺らした。
今日も、私の昼休みは幸せだ。
会社員のため、執筆・投稿は週末が中心となります。感想・ブックマーク・評価が大きな励みになりますので、応援いただけますと幸いです。




