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イケメンになった俺、中学でフッた女の子が美少女になって隣の席から睨んでくるんだが!?  作者: なぐもん


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39話 球技大会⑥

 俺――立花駿――は体育館への道を急いでいた。


 必死に逃げるように、自分の弱さから背を向けるように――。


 気付いたときには買ったばかりの惣菜パンが手の中でグチャっと潰れていた。どうやら無意識に強く握っていたようだ。


 体育館に戻ると、愛がふざけてるのか本気なのかはわからないが、シクシクと泣いていた。


「えーん。麗の介護してたらお昼遅れちゃったよー。お腹空いたー」


「ご、ごめん愛。今から学食行ってたら神崎君たちの試合間に合わないし、購買行こ? ね?」


 月城さんがあたふたしながら愛を慰めている。


「こんな時間に行っても、もう全部売り切れてるよー。

 お腹空いたー」


 お前はいつからそんな食いしん坊キャラになったんだよ。


 しょうがない……。


「愛、月城さん。良かったらこのパン食う?」


 愛は目を星みたいに輝かせながら飛んでくる。


「えっ!? 駿いいの? サンキュー!」


 お礼言う前に食ってんじゃねぇよ。


「げぇっ!? このパン潰れてんじゃん。ちょっと駿ー、なにこれ?」


「すまん。さっきそこで転んで潰れた」


「潰れたパンをウチらに押しつけたの? まぁ美味しいからいいけど」


 愛はそう言ってリスみたいに黙々とパンにかじりついた。やっと、静かになったな。


 「立花君、ありがとう。でも、試合前だからしっかり栄養補給した方いいんじゃないかな?」


「俺は戻ってくる途中に食べたからいいよ。あんまり食べ過ぎると試合で動けなくなるし」


 月城さんは最初は遠慮していたが、愛のご機嫌が戻ったことに安心したようで、パンを受け取ってくれた。


 俺は自分のクラスの応援席に座り込み、タオルを顔にかけて、昔のことを思い出していた。

 



 ――中学一年の春。


 ボールの弾む音。体育館に響くバスケットシューズの擦れる音が響いている。


 新入生の俺は、胸を高鳴らせていた。


 よし……やれる。絶対このチームで強くなって、全国へいく!


 そう思っていた。


 俺は一年ながらレギュラーに選ばれた。先輩たちから見れば、生意気に映ったかもしれない。


「立花ー、またお前だけかよ」


「一年のくせに調子乗ってんな」


 陰口や、わざとキツい練習を押しつけられることが増えていった。“いじめ”と言って差し支えない。


 でも……負けたくない。


 そんなとき、必ず助けてくれたのが――


「おい、やめとけよ。後輩いじめて楽しいか?」


 水嶋先輩だった。


 常に周りを見てくれて、俺が潰れないように守ってくれた。


「駿、お前は気にすんな。一緒に全国目指そう!」


「はい、水嶋先輩!」


 俺は、先輩を心の底から尊敬していた。

 “この人みたいになりたい”と思っていた。


 そして、県大会の決勝。


 点差はわずか。残り時間は少ない。


 絶対勝つ。あと一つ勝てば全国へいける。俺が……先輩を全国に連れて行くんだ。


 そう思って飛び込んだリバウンドの瞬間だった。


 ――ガンッ。


「っ……!」


 俺の肘が、空中でバランスを崩した水嶋先輩の顔面に当たった。


 先輩は床に倒れ、動かなかった。


 あ……あれ……? なんで……?


 体育館がざわついているのも、味方が駆け寄る足音も、なにも聞こえない。先輩が担架で運ばれる姿を、ただ黙って見ていることしかできなかった。


「立花! 何やってんだ!」


「わざとじゃねぇよな!」


 誰かの怒鳴り声で我にかえる。心臓が握り潰されたように痛かった。


 俺が……やっちまった……先輩の……大事な試合が……。


 先輩は骨折と軽い脳震盪で、コートには戻れなかった。


 試合は負けた。俺のせいだ。


 いつも助けてくれた先輩に……恩を……仇で返したんだ……。


 それから卒業まで、俺は先輩に謝れなかった。


 怖くて。情けなくて。顔向けできなくて。


 それから必死になって練習した。もうあんな思いはしたくない。先輩と一緒に行きたかった全国大会にも三年生のときにやっと行けた。俺の中学三年間は全部バスケに捧げたと言っても過言ではない。


 ただ……先輩に謝れなかったのが、俺の唯一の心残りだった。


 でも、高校に入って、バスケ部の見学に行くと、そこには水嶋先輩がいた。


 どの面下げて……今さら先輩の前でバスケなんてできるんだよ……。


 結局、バスケ部には入れなかった。


 

*  *  *



 水嶋先輩の話を聞き、俺――神崎翼――は思わず息を飲んだ。


「俺は全然気にしてないんだよ。むしろ感謝してるぐらいだ。あいつがいたから、中学最後の年は楽しかったし、俺も駿に負けたくなくて頑張れたんだ。」


「水嶋先輩……」


 先輩は少し寂しそうに笑った。


「駿、入学してすぐバスケ部の見学に来てたんだけど、結局入部してこなかったんだよね……また一緒にできると思ったんだけどな」


「あいつは見た目よりずっと真面目なんで、きっと先輩に謝りたいと思ってるはずです」


「そ、そうなのかな? 俺のこと恨んでるとかじゃない?」


「絶対にそんなことありません。駿は今もバスケがやりたいはずです」


 水嶋先輩はぱあっと笑顔になった。


「……そっか。俺も駿をバスケ部に誘ってみるよ。ありがとね。神崎君」


 その笑顔は、どこか子どもみたいに嬉しそうだった。


「あぁ。それと、神崎君」


「はい?」


「君も……バスケ部、待ってるからね。さっきの試合、すごかったよ。決勝で戦いたいなー!」


「えっ……水嶋先輩、決勝出るんですか?」


「うん。三年生で優勝したからね。さすがに一年生や二年生に負けるつもりはないよ」


 水嶋先輩は軽く手を振ると、体育館へ戻っていった。


 先輩の背中が見えなくなるまで見送りながら、胸の奥が少し熱くなった。


 ――言わなきゃ伝わらない。


 さっき駿が言った言葉が、今になってやけに重く響く。


 駿も言えなかった。俺も言えなかった。


 けれど、水嶋先輩と駿がもう一度繋がれるなら、今度は俺が背中を押す番だ。


「負けられないな」


 思わず、小さくつぶやいた。


 その言葉は、どこか自分自身にも向けたみたいで。


 月城さんのことも、駿のことも、逃げてばかりじゃ何も変わらない。


 校舎から鳴り響くチャイムの音が、やけに大きく聞こえた。


「……よし。俺も、行くか」


 そう言って立ち上がったとき、風が少しだけ背中を押してくれた気がした。

ここまでお読みくださりありがとうございます。

次話で球技大会も終わりになります。長々と書いて申し訳ありませんでした。バスケのシーンって初めて書いたけど難しいですね。精進します。

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― 新着の感想 ―
やっと駿の事情が出てきた。 何かあるとはわかっていたけど、周りのことが少しづつ出てきた感じ。 もう少し早い段階で出てきていたら、物語がふくらでいたと思います
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