3話 隣のコミュ力モンスター
「……なんか、懐かしいね」
月城さんの呟きが、脳裏に焼き付いて離れない。ほんの一瞬だけ、時間が巻き戻ったみたいに――中学のあの日の俺たちが、教室に重なって見えた。
俺はずっと誤解していたのかもしれない、そんな気がした。
――昼休み。
購買でパンを買うか、学食に食べに行くか……俺は廊下で腕を組んで悩んでいた。
最近、糖質と脂質を摂取しすぎている気がする。気をつけないとまた汗ダルマに逆戻りだ……。
すると、クラスメートの女子が突然、笑顔で声をかけてきた。背後にはさらに、女子数名が控えている。
「神崎君、お昼一緒に食べない?」
「えっ……俺?」
……嘘だろ。
女子からお昼に誘われたぞ!? いつもトイレでぼっち飯だった俺が!?
なんだ……これは罠か? ついて行ったら怖い先輩が現れて「テメェ調子乗ってんじゃねぇ!」ってボコボコにされる未来が見えるんだが!?
俺は断り方がわからず、ワナワナと震えていた。
そんなとき――颯爽とキラキラオーラの救世主が現れた。ツヤツヤの髪をなびかせ、絶対作ったような顔を女子達に向ける。
「駿……!」
同じクラスの立花駿が俺と女子たちの間にスッと入り込むと、自然すぎる声色で言った。
「ごめん! 今日は俺と食う約束してるから、また誘ってやってよ」
両手を顔の前で合わせてごめんなさいのポーズをしている。その笑顔の破壊力は絶大で、女子の頬が一瞬で赤く染まる。
「う、うん……じゃあ、またね」
女子たちは名残惜しそうに手を振って去っていく。
廊下の奥からは、彼女たちの声がひそひそと聞こえてきた。
「神崎君、今日は立花君と食べるんだってー」
「「「えー」」」
――さっきまで暴漢に襲われてた気分だった俺は、白馬に乗った王子様に助けられたような感覚だった。なぜか、駿が王子様に見えるのだ。これがリアル陽キャの立ち振る舞いかと感心してしまう。
「駿、お前……かっこいいな……」
「フフ、惚れるなよ? チョロイン君」
「だ……誰がチョロインだ!」
思わず声を荒げると、駿はニヤリと口角を上げた。
「いやいや、さっきの顔見てたらわかるって。完全に“きゅん”ってなったろ?」
「なってねーよ!?」
「ハイハイ、強がんなよ」
「強がってない!」
ぐぬぬ……否定すればするほど怪しくなるこの感じ、ズルいだろ!
いや、でも――もし俺が女の子だったら間違いなく惚れてたな。こんなラノベの主人公みたいなやついるんだ……。
って、違う! 頭を振って雑念を振り払う。
「ほら翼、行くぞ! ちょっと話あるし、学食行こうぜ」
「お、おう……!」
話!? 話ってなんだ? 告白されんのか俺!?
不安な気持ちを抱えたまま、俺たちは並んで廊下を駆け抜けた。
――――――――――
――食堂。
昼時の学食は、多くの生徒で賑わっていた。ざわめきと食欲をそそる香りに包まれ、席の取り合いでまるで戦場のようだ。
「翼ってそんな見た目なのに女子に慣れてないよな? 男が好きなのか?」
日替わりランチの唐揚げを頬張りながら、駿が気持ち悪いことを言ってくる。
「そんな訳ないだろ。……ただ、女の子と話す機会があまりなかっただけだ」
俺は蕎麦をすすりながら強がってみる。蕎麦は良い。蕎麦にはタンパク質、食物繊維、ビタミンB群、ミネラルが豊富に含まれており、ダイエット中に不足しがちな栄養素を補うことができる。前は麺類といえばラーメン一択だったけどな。
「でさぁ、翼」
駿が口元を拭いながら、突然核心を突いてきた。
「お前、月城さんのこと気になってんの?」
「はぁ!? いやいやいや! なんでそうなる!?」
机に置いた箸がカタカタ震える。話ってそれかよ!
俺の必死の否定をよそに、駿はニヤリと笑った。
「だってさぁ……お前、いつも月城さんのこと見てるじゃん」
「っ……!」
その瞬間、俺の視界の端に動く影。食堂の入口から――月城さんが入ってきた。
「ほらな。また見てんじゃん」
駿のからかいも耳に入らない。
俺の視線は月城さんの隣を歩くもう一人の女生徒に注がれた。
「おっ! 月城さん、今日は高瀬と一緒かぁ。最近あの二人、よく一緒にいるよな」
駿が先に名前を口にする。そう、あの金髪ロングは――。
高瀬愛。
腰まで届くツヤツヤの金髪ロングをポニーテールにして揺らしている。スタイルが規格外に良くて――特に男子としてはどうしても視線が吸い寄せられる一点がある。
……でけぇ。
いや違う、これは俺が悪いんじゃない。もはや生き物としての反射だ。男子としては抗えないんだ。
そして何より――彼女はとんでもないコミュ力を持つ。笑顔一つで場の空気を一瞬で明るくし、誰とでも一瞬で打ち解けてしまう。
だが、俺にとっては高瀬愛は天敵中の天敵、陽キャ最上位種の……ギャルである。
そんな高瀬と月城さんが、まっすぐこちらに歩いてくる。
うわっ、やばい! 近づいてきてる! なんで!?
俺の心臓はドラムロールみたいに暴れ出した。
「――あ、ウチらここ座っていい?」
高瀬が俺たちの隣の席を指さし、ニカッと笑う。
やめてくれ……俺はまだ陽キャ界のテーブルに座るレベルじゃないんだ……!
俺が動揺して返事もできずにいる間に、向かいの駿が即答した。
「もちろん! むしろ大歓迎!」
その瞬間、駿の顔がまぶしく輝いた。まるで生まれたときから友達だったみたいに自然に二人を招き入れてやがる。
俺は心の中で駿に叫んだ。
このコミュ力モンスターが!
* * *
「うわ〜、学食いっぱいだ。どうする麗?」
愛は学食で購入した日替わりランチを持ちながら、席を探してキョロキョロと辺りを見回す。
「あっ! あそこ空いてるよ」
「おぉ〜、ホントだ! ラッキー!」
私――月城麗は、胸をドキドキさせながら愛の後ろを歩く。席に近づけば近づくほど、鼓動が早鐘のように響いてきた。
や、やややややばい。神崎君がいる――! どうしよう、緊張する……!
彼は同じクラスの立花君と一緒に座っている。私が指差したのは……その隣の空席だった。
他に空いてる席はないかと探すけれど、昼休みの喧騒は私の焦りを更に煽っているようだった。
というか――そこの男子たち、食べ終わってるならさっさとどいてよ!
「おっ! あれって同じクラスの神崎君と立花君じゃん。一回、話してみたかったんだよね〜!」
ダメだ……愛は完全にあの二人に興味を持ってしまった。私の心の悲鳴も虚しく、彼女は元気よく声をかける。
「――あ、ウチらここ座っていい?」
私は泣きそうになりながらも、平静を装い、心の中で叫んだ。
このコミュ力モンスター!
会社員のため、執筆・投稿は週末が中心となります。感想・ブックマーク・評価が大きな励みになりますので、応援いただけますと幸いです。




