表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イケメンになった俺、中学でフッた女の子が美少女になって隣の席から睨んでくるんだが!?  作者: なぐもん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/80

35話 球技大会②

 体育館は朝から球技大会の熱気で盛り上がっていた。


 女子バレーの一年トーナメント、第一試合。


 俺は駿と一緒に、応援席のパイプ椅子に腰を下ろしていた。


 さて……球技大会のルールをざっくり整理すると――。


 一年・二年・三年、それぞれ八クラスのトーナメント形式。

 まずは各学年で優勝チームを決める。


 そのあと——


 一年優勝チーム vs 二年優勝チームの準決勝。


 勝った方が、三年の優勝チームと決勝を戦う。


 三年がシードというのは昔からの伝統らしい。


 体育館中央では、月城さんたち女子チームが円陣を組んでいる。彼女の表情はこわばっていて、緊張で肩が上がっていた。


 さっきは大丈夫そうだったのに、会場の雰囲気にのまれてるな。まぁ普段経験しないから緊張しない方がおかしいのだが――。


 澪ちゃんにみっちり動きを教わったとはいえ、月城さんはもともと運動が苦手だ。それでも、あんなに真剣に練習したんだ。きっと、うまくいく!


「んじゃ麗、レシーブ頼むよ!」


 高瀬の元気な声が聞こえる。


 ホイッスルが鳴った。


 よし、見届けるか……。

 


*  *  *


 

 ホイッスルの音が、体育館の空気を震わせた。


 ……始まっちゃった。


 私――月城麗は手のひらが汗でじっとりしている。


 練習のときとは全然違う。周りの歓声、ボールが床に弾む音、体育館独特の反響。すべてが私の鼓動を早くしていく。たかが、球技大会……でも、私にとってはされど球技大会なのだ。


「麗、無理だったら言いなよー? カバーするから!」


 愛が笑って親指を立ててくれる。その明るさに、少しだけ気持ちが軽くなる。


「……うん。ありがとう」


 相手チームのサーブ。一球目が、まっすぐ私の方へ飛んでくる。


 え、こっち!?


 慌てて身構えるが、腕に当たった瞬間——。


 バシッ!


「きゃっ……!」


 レシーブは大きく後ろへ跳ね上がり、味方の誰も追いつけずに落ちた。


「ドンマイ! 次いこ、次!」


 愛が笑いながら声をかけてくれるけど、胸がぎゅうっと痛い。


 私のせいで……。


 二本目。

 

 今度は違う子が取ってくれたものの、私の足は固いままだった。


 ——だけど。


 楽しんで、だよね……。


 神崎君の声が胸の奥で響く。


 さっき、教室で言われた言葉。練習してたとき、何度も支えてくれた背中。


 ……うん。大丈夫。やれる。


 三本目。

 

 サーブの軌道をしっかり追う。両腕をくっつけて、膝を落として——。


「っ……!」


 今度は、ちゃんと前に返った。


「ナイス麗!」


 愛の声が耳に届いて、安心する。


 できた……! 


 その後は、派手な活躍なんか全然できなかった。

 

 スパイクなんて届かないし、トスも上手く上げられない。


 ——でも。


 レシーブは少しずつ安定してきた。サーブも練習通り、ちゃんと相手コートに入った。ボールの落下点が読めるようになり、足も自然に動く。


 練習……無駄じゃなかった。


 そして、愛はやっぱりすごかった。


 ジャンプ力も、スパイクの鋭さも、声の通り方も全部違う。おまけに、点を取るたびにチームを鼓舞する。


「いっけー! ナイスサーブ決めてこー!」


 そんな愛に引っぱられるように、私たちは一回戦、二回戦と勝ち進んだ。


 そして迎えた一年優勝決定戦。

 相手は強かった。明らかにバレー部が混じっている動き方だ。


 私は相変わらずレシーブだけで精一杯。何度か狙われて、何度も崩されてしまった。


 でも、そのたびに——。


「大丈夫! まだいけるよ!」


「次の一本取ったら流れ変わる!」


 クラスの子たちが声をかけてくれた。


 ああ……頑張らなきゃ。


 最後のラリー。相手の強烈なスパイクが飛んでくる。


 絶対……上げる!


 腕がしびれるほど強い衝撃。床に吸い込まれそうになるボールを、なんとか上へ押し返す。


「麗ナイス!」


 でも、その後の攻撃であっけなく打ち破られてしまった。


 ボールが床に落ち、相手チームの歓声が響いて……試合が終わったことがわかった。


 私たちの挑戦は、ここで終わったのである。


「あーーー負けたぁぁ!! くっそ悔しいー!!」


 愛が床に寝ころびながらわめいている。でも、その表情はどこか晴れやかだった。


「でもさ、楽しかったね。麗が拾ってくれたからここまで来れたんだよ」


「え、そ、そんな……!」


「ほんとだって! 成長しすぎてビビったし!」


 愛が私の肩に腕を回し、ぐりぐりと頬を寄せてくる。


「またいつか一緒にバレーしよ?」


「……うん。ありがとう愛」


 悔しいけど、不思議と胸は軽かった。試合中、何度も聞こえた神崎君の応援にも応えられた気がした。



*  *  *

 


「かぁー! 惜しかった。でも月城さん、すっげぇ頑張ってたな」


 駿が悔しそうに天井を見つめている。


「ああ。なんか……めっちゃ感動した」


 俺――神崎翼――は溢れ出る涙を堪えることができなかった。


「うおっ! なんでお前が泣いてんだよ!」


「いや、すまん。月城さん、ちゃんとサーブ出来てたし、レシーブも頑張ってやってる姿を見るともう……」


「おいおい、次、俺たちの試合だぞ! 月城さんは後でたっぷり褒めてやれ! 今は目の前の試合に集中しろ」


「わがっでる……」


 涙で湿った顔をタオルでゴシゴシと拭いて集中する。


 俺も頑張るんだ。月城さんに恥ずかしい姿は見せられない。


 タオルを顔面から剥がすと、目の前には息を切らした月城さんが立っていた。俺が驚いて目を見開いていると――。


「神崎君、ごめんね……負けちゃった」


 月城さんは悔しそうに歯を食いしばっていたけど、その顔はどこか満足したように笑っていた。


「球技大会は楽しめた?」


「うん。すっごい楽しかったよ!」


 良かった――。笑っている月城さんを見ているだけで、辛かった中学時代の思い出が吹き飛んでいく。今ここで、彼女の笑顔を見られることが本当に幸せだった。彼女は持てる力を全て発揮したのだ。


 責任感が強くて、真面目で、いつでも、なんでも全力で取り組む。


 だから……だからそんなに――輝いて見えるんだね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ