26話 隣のイケメンは絶対に助けを求めている!
神崎君が帰った後、私は自室のベッドの上で放心状態だった。
「神崎君が可愛いって言ってくれた……」
泣いてしまった。告白を断られたあの日から、彼に認めてもらえるように色んなことを頑張ってきた。それがようやく報われたのだ。
でも、これで終わりじゃない。
「今の私なら神崎君の隣に立てるかな……」
彼と同じクラス、隣の席になって毎日顔を合わすようになった。久しぶりにお話したり、一緒に帰ったり、お弁当も一緒に食べて毎日が夢みたいに楽しい。
でも……また「好き」って言って、断られたら一生立ち直れないと思う。私は一度、フラれてるから……この幸せな毎日を壊すようなことはしたくない。
でもいつかはちゃんと言いたい。どちらかと言えば私は当たって砕けたい派だ。後悔するよりはずっといい。
はぁ〜〜〜〜〜〜。
やっぱり、好き……。
……だけど。
今日の神崎君、少しだけ変だった。笑ってたのに、どこか無理してるように見えて。それに――腕、ケガしてた。まるで殴られたみたいなあざ……。
どうして? そんなの、今まで見たことなかったのに。
神崎君が、あんなケガするなんて――やっぱり、お父さんなのかな。
神崎君はトレーニング中にぶつけたと言っていた。でも、私の前では巻き込みたくなくて、強がっていたのかもしれない。
ど、どうしよう!? け、警察!? 児童相談所!? とにかく誰かに相談しないと!
そうだ! お母さん! お母さんに相談しよう! あんなケガ見たら……もう黙っていることなんかできないよ……。わ、私が神崎君を守る!
「麗ちゃん入るわよ? まあ……。電気くらいつけなさい」
私の部屋のドアが急に開いた。母がパチンと部屋の電気をつけると、一瞬だけ視界が真っ白になって、私の意識を現実に引き戻す。
「お、お母さん!? ノックくらいしてよ……」
「何回もしたし、声もかけたのよ」
「えっ!? ごめんなさい。考え事してた。ってお母さん大変! 大変なんだよ!」
「どうしたの? もしかして、神崎君となにか進展でもあった?」
母はイタズラっぽく笑うとベッドの上で、私の隣に腰掛けた。
「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないよ。神崎君、腕ケガしてた。もしかして……お父さんから殴られたのかもしれない」
「えぇっ!? やっぱり家庭内暴力だったの? け、警察? じ、児童相談所かしら?」
取り乱している母を見ていると、私たちはやっぱり親子なんだって思う。私より慌てていて、逆に落ち着いてしまった。
「お母さん、私、神崎君を助けたい。どうしたらいいかな?」
「ど、どうって……やっぱり……神崎君のお父さんをどうにかしないとダメよね……」
「私、行く。神崎君のお父さんに会ってくる」
「そ、それは危険じゃないかしら。大体、人様の家族のことに口を出すのは……」
「嫌! もしかしたら神崎君、苦しんでるのかもしれないんだよ! そんなの耐えられないよ!」
嫌だ嫌だ。神崎君、絶対困ってる。なんで私に相談してくれないの……。私ってそんなに頼りないのかな……。
違う……。彼は優しいから人に迷惑掛けないようにきっと我慢してるんだ……。絶対そうだ!
「わ、わかったわ。こ、怖いけど、お母さんも協力するから神崎君を助けましょう」
「あ、ありがとうお母さん」
「ところで、麗ちゃん……神崎君の家はどこなの?」
あっ……そうだ……私、神崎君の家どこか知らない。
「し、知らないの……」
「じゃあ、まずは調査からね。お母さんに良い作戦があるわ」
そう言って母は目を細めながらニヤリと笑う。絶対変な作戦だ。
――翌日。
私はいつも通り、神崎君と食べるお弁当を作って登校した。
教室の引き戸を開けると、すぐに愛が慌てて駆け寄ってくる。
「麗! もう大丈夫なの? 心配したんだから〜!」
「うん。ごめんね、心配かけて。もうすっかり良くなったよ」
「よかったぁ〜。昨日、麗がいなかったから、翼めっちゃ元気なかったんだよ」
「えっ……そうなの?」
思わず聞き返してしまう。神崎君、心配してくれてたんだ……。
「うん。授業中も休み時間もぼーっとしててさ。ため息ばっかで全然面白くないの」
「おい、高瀬! 変なこと言うのやめろ。聞こえてるぞ」
教室の奥で、自分の席に座っていた神崎君が珍しく声を張り上げた。教室が一瞬、静まり返ってみんな彼を注視している。
最近の彼は以前と違って、自信があるように見える。入学したときは少し下を向いていることが多かったのに、立花君や愛を中心に、クラスでもとても目立つようになった。
神崎君は立ち上がって私たちのところへ一歩ずつ近づいてくる。一歩進む度に、心臓がドクンと鼓動を打って私の心がざわついていく。
――学校で見る神崎君は、いつもより背が高く見えて、声も少し低くて、目が合った瞬間、息が止まりそうになる。
まるでラノベに出てくるクールでかっこいい公爵様や王子様みたいで……かっこいい。
だめ、落ち着け私。これは昨日のことを思い出してるだけだ。
でも――ほんとに、かっこいいんだよ神崎君……。
「翼〜。ごめんってー。そんな怒んなくてもいいじゃん」
愛が神崎君の背中をバシバシ叩いて謝っている。なんか……スキンシップ激しくない? ちょっとずるくない?
「恥ずかしいことを大声で言うなよ」
愛にそう言うと、神崎君が今度は私を見つめてくる。呼吸が止まるからやめて欲しい……。
……や、やっぱりやめないで……。
「月城さん、元気になって良かったね」
彼はそう言うとさっきまでのクールな瞳を柔らかくして、にこやかな笑顔で私の理性を吹っ飛ばしていく。
「お、推しです」
「えっ?」
な、なにを言っているんだ私……。は、恥ずかしい。推しって、アイドルじゃないんだから……。
私はこれ以上おかしなことを言わないように自分の口を必死に手で押さえた。
「ううん。違うの! な、なんでもないよ。元気! すっごい元気だよ!」
「良かった。ほんとに……」
彼はそう言って自分の席に戻ろうとする。でも――。
「か、神崎君!」
「どうしたの?」
こ、これ言わないとダメなんだよね……。うまくいくのかな……。
「き、今日、神崎君のお家に遊びに行ってもいいですか!?」
「えぇ!?」
そう。母の作戦とは――。
「“お家に遊びに行きたい”って言えば、場所がわかるでしょ」
――うん、お母さん。やっぱりこの作戦、恥ずかしいよ。
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