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イケメンになった俺、中学でフッた女の子が美少女になって隣の席から睨んでくるんだが!?  作者: なぐもん


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24話 隣の狐に化かされた

 志保さんと名乗る人に招かれた俺は、リビングに通されていた。


 それにしても、月城さんって、あんな綺麗なお姉さんがいたんだな……知らなかった。一緒に弁当食べてるときも、アニメやラノベの話ばかりだったから家族の話なんてしてなかったもんな。


「どうぞ〜。ちょっとここに座って待っててね。神崎君、紅茶は飲める? それともコーヒーの方がいい?」


「い、いえ。おかまいなく。すぐに帰りますので」


「まぁまぁ、そんなに慌てないで。私とお話ししましょうよ〜」


 志保さんの間伸びした声と笑顔がふわっとした雰囲気を作る。


「で、紅茶とコーヒーどっちがいい?」


 しかし、いきなり目だけが俺をキリッと睨んできた。


「っ! ええっと、じゃあコーヒーで!」


 びっくりした……睨んだ顔が月城さんにそっくりだ。目力がとても強い! もしかして、怖い人なのかな……?


「は〜い、待っててね? 帰ったらダメよ?」


 志保さんは念を押すように言うと、キッチンにある食器棚からティーカップを二つとって、カウンターキッチンの向こうへ行ってしまった。


 プリントを渡して、すぐ帰るはずだったのにどうしてこんなことに……。クラスメートとは言え、女の子の家だ。緊張して、落ち着かない。つい、周りをキョロキョロと見回してしまう。


 リビングには俺が座っている三人掛けの青いソファに、木目がきれいなリビングテーブル。左右には、一人掛けの椅子がコの字を描くようにテーブルを囲んでいた。


 壁は白を基調にしていて、一面だけが大きな本棚になっている。


 びっしりと詰め込まれたコミックスの背表紙。どれもピンクや水色で、やたらキラキラしてる。タイトルも「恋」だの「初恋」だの「純愛」だのと、甘ったるい単語が並んでいた。


 それにしてもすごい量だな。書店の少女漫画コーナーみたいだ。でも、俺も自分の部屋の本棚は、ラノベかトレーニング系の雑誌ばかりだからそれと変わらないか。


 そんなことを考えていたら、志保さんが紅茶とコーヒーをのせたトレーを持ってきた。


「ふふ。気になる? 少女漫画いっぱいあるから変でしょう?」


「い、いえ。そんなことありません。俺も自分の部屋は好きな本や雑誌がいっぱいありますから」


「あれはね〜、全部私の趣味なのよ。昔から少女漫画が大好きでね。好きすぎて漫画の校閲の仕事をしているの」


 志保さんは少女漫画を見ながらうっとりとした表情を浮かべている。ほんとに好きなんだろうな、少女漫画。


「……好きなことをずっと続けて、それを仕事にできるなんて、尊敬します」


 本当にそう思う。好きなことが仕事になるって、そこまで到達するにはどんなことでも相当な努力が必要だ。成し遂げられる人間は少ない。


「あらあら、ありがとう〜。麗ちゃんから聞いてたけど、神崎君ほんとにいい子ね」


「えっ……月城さ……麗さんが俺のことを?」


「えぇ。『隣の席に素敵な王子さまがいるんだよ』って言ってわよ」


「ぶっ!」


 思わずコーヒーを吹き出しそうになってしまった。


「他にも〜、『神崎君にお弁当を作るんだ』って楽しそうに話してたわよ」


 月城さん……そんな風に思ってくれてたんだ。なんだろう……すごく嬉しいんだけど、こんなことお姉さんの口から聞いてもいいのか?


「今の内緒ね。怒られちゃうから」


 逆にその言葉を聞くと本当なんだと思えてドキっとしてしまう。


「神崎君。麗ちゃんと仲良くしてくれてありがとうね」


 志保さんは唐突にお礼を言ってきた。

 

「あの子、中学のとき、クラスでちょっと浮いてたのよ。多分、いっぱい泣いてたと思うの。でも、神崎くんと出会ってから、少しずつ変わっていったわ」


「……俺、何もしてないですよ。……むしろ、麗さんに嫌な思いをさせてしまったんです」


「ああ。中学のときの告白のこと?」


「ぶっ!」


 またコーヒーを吹き出しそうになった。えっ? そんなことまで話してるの? 


 志保さんはにっこり笑って、紅茶を一口すすった。その仕草があまりに優雅で、なんだか場違いな気分になる。


「俺……麗さんを傷つけました。せっかく“好きです”って言ってくれたのに、拒んでしまって……」


「最初聞いたときは、正直恨んだのよ。この子もう立ち直れないんじゃないかって。でもね……変われたの。強くなれたのよ。あなたのおかげで。今は神崎君やお友達がいる学校に行くのが楽しみで仕方ないみたい」


「俺のおかげ……ですか?」


 志保さんは少しだけ口元に手を当てて、ふっと笑った。


「そうよ。あの子ね、ずっと“誰か”のことを想って頑張ってた。中学のときからずっと。その人に恥ずかしくない自分になりたくて……って」


「誰かのことを……?」


「ふふ。言わなくても分かるでしょ? 神崎君のこと、いつも話してたもの『前よりかっこよくなったけど、中身は優しいままなんだ』って、嬉しそうに」


 さっきまで感じていたコーヒーの香りが、やけに遠く感じた。


 えっ! 中学のときからずっと!? 想ってた? 訳がわからない。そんなはずない。だって俺は……彼女を泣かせた……なのに……彼女は……。


 もしかして――。月城さんが今でも好きな人って、俺……なのか?


 志保さんは何も言わずに、ただ優しく笑った。まるで、「正解よ」と言う代わりに。


 そんな混乱している俺に、さらに爆弾が落ちてこようとしていた。


 二階から足音が聞こえる。ゆっくりと階段を降りてきた足音の主はリビングのドアをあけた。


「熱下がった……よ」


 月城さんだった。眼鏡をかけて、淡いピンクのパジャマ姿。ゆるくまとめた髪がところどころほどけて、頬にかかっている。顔色はまだ少し赤く、眠たげな瞳がこちらを見つめていた。


「こ、こんにちは、月城さん」


 俺の声が裏返る。学校では完璧で、みんなから慕われる美少女の月城さんが、今は少し幼く見えた。無防備で、息を呑むほど――可愛い。


「な、なんで神崎君がいるの……?」

 

「学校のプリント届けてくれたのよ〜」


 月城さんとは打って変わって、志保さんはニコニコと笑顔で答えた。


 月城さんはどうやら状況がわかったようで、今まで見たことないくらい目の端をつりあげ俺を睨んできた。その瞳には大粒の涙も見える。


「うぅっ……うぅっ、……こんな姿見られたくなかったよ…」

 

 そのまま顔を隠すようにして二階へ駆け上がっていってしまった。まずい。非常にまずい。絶対怒った。もう口聞いてもらえないかもな……。


「さて、麗ちゃんも起きてきたことだし、私、ちょっとお買い物してくるから。神崎君、悪いんだけど、一時間くらい、麗ちゃんのこと見ててくれる?」


「えっ!? ちょっ……ちょっと待ってください! この状況でですか!?」


 しかし、志保さんは俺の声がまるで届いていないらしい。階段の下まで行って、二階に向かって叫んだ。


「麗ちゃーん! お母さんちょっと買い物行ってくるわねー! 神崎くん、部屋行ってもらうわねー!」


 志保さんの声が家中に響き、二階からは泣いているのか、怒っているのかよくわからない返事が返ってきた。


 えっ? 今、お母さんって言った?


「志保さんて、麗さんのお母さんなんですか!?」


「ふふ。そうよ。じゃあよろしくね! 今日は新刊の発売日なの! 助かったわ〜」


 そう言って志保さんはそそくさと玄関から出ていってしまった。


 まるで狐に化かされた気分だ。そして、月城さんにどう謝るか考えながら、俺は二階への階段を上がり始めるのであった……。

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>もしかして――。月城さんが今でも好きな人って、俺……なのか? そうだぞ(怒) 早く部屋に行ってイチャコラしろ
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