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わたくし、初めての恋バナでしてよ!

 昼休み、教室の隅。

 女子グループが机をくっつけて、お弁当を広げていた。


 そこには、リリアーナの姿もあった。


「りりあちゃ〜ん! 今日はね、ウチらで“恋バナ”するから、覚悟してな!」


「コイバナ……? お魚の話ですの?」


「違う! 恋バナ! “恋愛話”の略!!」


 ほのかの宣言に、周囲の女子たちは「うわきた〜!」「やっぱりお題それ!?」「誰から話す!?」と盛り上がる。


(……こ、これが……庶民女子による“情報戦”……!)


 リリアーナは警戒を強めた。


 異世界の貴族社交では、“恋話”とは裏切りと政略の温床。

 誰が誰を狙っているのか、誰が嘘をついているのかを見抜き、立ち回らねば命取りだった。


「じゃあまずはウチから〜。今気になってるのはねぇ……隣のクラスの先輩♡」


「まじ!? あのバンドマンっぽい人?」


「そうそう! この前、傘貸してくれてさ〜、神だった!」


「やば〜それ告白案件じゃん!」


 リリアーナはそれを聞きながら、ふと思った。


(気になる、という感情。心がふわっとして、顔が熱くなって、言葉がうまく出てこなくなる感覚……)


「……!?」


 自分の中に、それに“似たもの”があることに、気づいてしまった。


(ま、まさか……!?)


「ねえ、りりあちゃんは? 今、好きな人とかいないの〜?」


 ほのかの問いに、リリアーナはピクッと反応する。


「わ、わたくし!? い、いえ、そのような……わたくしにとって“恋”など、軽薄な……っ!」


「ちょっ、動揺してない!? 今、目ぇ泳いだよね!?」


「泳いでませんわ!! わたくしは水上での競技は専門外ですの!!」


「も〜〜〜これはいるってやつだよ〜〜〜!!」


 女子たちが「えっ誰!?」「誰なの!?」「朝倉くんじゃね!?」とざわつき始める。


「ま、まってくださいまし!? そのような、わたくしが、あの不遜な庶民男子などに――」


 (……でも、思い出してみれば……)


 ・スマホの通知で名前を見たときに、胸が跳ねた

 ・スタンプ一個で、心臓が爆発しそうになった

 ・“喋らなくてもおもろい”と言われたとき、なぜか嬉しかった


「――ッ!!」


 全部、朝倉蓮に関わることだった。


「……う、うそですわ。そんな、そんな、ありえませんの……!」


「はい来た! これは完全に恋です!!」


「お認めなさいなりりあ姫! あなた、恋してるのよ!!!」


「ちがいますのちがいますのちがいますのちがいますのぉぉぉぉぉ!!!!!!」


 リリアーナ、机に顔を埋めて絶叫。


「これは陰謀ですわ! 心を惑わす魔術ですわ!! 理性が崩壊してますの!!」


 女子たちの間に爆笑が起こる。


「りりあちゃん、ほんっっっとおもろい!!」


「尊い……語彙が貴族すぎて恋愛脳になってないの好き」


「がんばれ姫、恋の攻略ルート突入〜!!」


 その中で、リリアーナだけが本気で頭を抱えていた。


(な、なぜ……わたくしが……“あの男”などに……!?)


 でも、胸に芽生えてしまった感情は、否定できない。


 恋とは。

 自覚した瞬間、もう後戻りできないものなのである。



 ***



 放課後の西日が、校舎の裏側を金色に染めていた。

 リリアーナは人気のないその場所で、一人、ため息を吐いていた。


「……恋、ですの?」


 小さくこぼれた声は、誰にも届かない。

 胸の奥でざわつく感情。動悸、火照り、目線の彷徨――どれも彼女にとって未知のものだった。


「なぜ……よりによって、あの男……」


 朝倉蓮。皮肉屋で、素っ気なくて、でも時々、核心を突く。

 無遠慮なのに、不思議と目を逸らせない。


「はあ……こんな気持ち、初めてですわ……」


 そのとき、背後から足音。


「……お前、またひとりでうなだれてんの?」


 聞き慣れた、低い声。

 振り向かずとも、誰かはわかる。


「……庶民のくせに、なぜこうも空気も読まず接近してきますの……」


「その物言い、いつもブレないな」


 蓮がリリアーナの隣に立つ。

 無言の時間が数秒流れた。


「……なによ。用がないなら話しかけないでくださいまし」


「いや、用はあるよ」


 リリアーナが振り返る。蓮は、真面目な顔で続けた。


「……お前、最近テンパってんな」


「な……っ!」


 図星だった。

 リリアーナは顔を赤くしながら、ぷいと顔を逸らす。


「テンパってなどおりませんわ! これは、単なる、情報過多による混乱ですの!!」


「それを“テンパる”って言うんだけどな」


「~~~~っ!! う、うるさいですわね!!」


 しばし、沈黙。

 リリアーナがふと目を伏せた。


「……あなたのせい、ですのよ」


「……は?」


「わたくしを混乱させるのは、いつもあなた。スタンプでも、言葉でも、表情でも……。あなたという存在、意味がわかりませんの!」


 感情があふれた。思わず、口に出ていた。


 すると蓮は、ふっと笑って――


「そっか。じゃあ、俺が責任取るわ」


「……え?」


 リリアーナは時が止まったように固まった。


「お前、俺のせいでテンパってるんだろ? なら、俺が面倒見る」


「…………っ」


「だから、困ったら言えよ。“よろしくて?”でもなんでも」


 ――静かな沈黙の中。

 リリアーナの顔が、一気に真っ赤になった。


「な、なな、なななな、なにを言ってますの!?!?!?」


「事実言っただけだけど?」


「無自覚にわたくしの心をえぐるとは、あなた魔性の男子ですの!?」


「その称号、ありがたくもらっとくわ」


 呆れながらも、蓮は軽く手を振って去っていく。

 リリアーナはしばらくその背中を見つめたまま、動けなかった。


(こ、これは……この心の揺れは……やはり、恋……!?)


 その夜。

 ほのかにこの話を報告すると、彼女は机を叩いて叫んだ。


「スタンプで告白するより効くやつじゃんそれぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


 リリアーナはうつ伏せで顔を隠しながら、震える声でつぶやいた。


「わたくし……庶民の恋に、完全に巻き込まれておりますの……!」


 姫様、今日も心の中は大暴走中だったのだ……。

お読みいただきありがとうございます。

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