女神の殺人事件簿~冤罪で殺人犯として逮捕された「美しすぎる女神を妻に持つ木こり」の夫を救うため女神は真犯人に迫る~
前回までのあらすじ:かつて、森でその日暮らしをする独り身の木こりがいた。木こりはふとしたことで、頭に斧が刺さったままの女神を妻に迎えた。斧の輝きと女神の美貌、二人は国中を巡り、行く先々で見物料を稼ぎながら面白おかしく生きていくのであった。
「この町は、なんだか活気があるな」木こりは、妻を振り返った。
妻の女神は、世界でも並ぶ者のない美しさだ。頭に斧が刺さったままなのが、玉にキズだが。
「あんた、きっと何か大きな出来事があったのよ!」
木こりは地元の新聞を購入し、ニュースを確認した。
そこには、最近起きた殺人事件の記事が載っていた。
「おお、この町で殺人事件が起きた。
湖のほとりで女性の死体が上がったそうだが、犯人はまだ捕まってないらしい。
お前女神だから、なんか捜査をお手伝いできるかもしれんな」
二人は殺人現場に急ぐ。
「うふふ、なんかドキドキしちゃう。あんた、手を離さないでね」二人はいつでもラブラブだ。
一方、殺人現場では――
湖のほとり、浮き上がってきた女の遺体を前に、捜査陣が現場検証に余念がなかった。
「凶器は頭に刺さった斧か……」警部は被害者の状況を確認している。
「警部、一般人の方が捜査に協力したいと……」
「素人なんか役に立たん!どうせ、興味本位のやじ馬だろう。追い返せ!」
「それが、なんでも神通力をお持ちで、犯人を見つけられるそうで……」
「おい、アンタ、勝手に現場に入って来られちゃ困るんだよ!」
現場に入って来る奴がいる。警部は振り返った。
そこには、女神と仲良く手をつないだ木こり。
女神の頭に深々と斧が刺さっている。
警部はそれを見て、犯人を確信した。
「うぬ、犯人はお前だな。大胆な奴だ、こいつを逮捕しろ!」
木こりは女神を協力させようと現場に連れてきたのに、犯人呼ばわりされてびっくりする。
「えっ、何のことやら、私は捜査に協力しようと……うわっ!」
木こりは、刑事たちに取り押さえられ、ガチャリ、と手錠をかけられます。
「あんた~」女神の妻は夫にすがりつきます。
「警部さん、この夫は無実です!」
「だまれ、妻の証言など信用できん!」
優しそうな女神の表情が見る見る憤怒の形相に変わった。
「ううむ、わからずやの警察め。こうなったら、わらわの力でお前らを灰にしてやる!」
「待て、そんなことをしてはいかん!」木こりはあわてて女神を止めます。
「いいか、お前の力で真犯人を捕まえろ。そうすれば俺は釈放される」
木こりは警察へ連行されていきました。
「警部!今回はスピード逮捕ですね」
「今回もワシの推理が冴えわたったからな」
こうして女神はひとり湖畔に残されました。
「わああああああん。どうして……どうして、こんなことに」
一人取り残された女神は湖のほとりで涙にくれます。
夫と離れるのは初めてのことで、不安でなりません。女神の目には大粒の涙があふれました。
「ああ、色々なことが起こって頭の中がくるくるして、何も考えられないわ。
悲しくて、悲しくて、とてもやりきれない。
こんな事なら、いっそ、この湖に身を投げてしまおうか……」
湖に向かって女神は泣き崩れます。
すでに、夜も更けてきました。
そのとき、殺人現場に戻った犯人が、背後に近づいてきました。
「フン……今度も楽勝だな」
男は息を殺し、次の獲物に近づきました。この女は、俺の気配に気づいていない。前に俺が惨殺した女と同じように、この獲物も振り向いた瞬間、斧を振り下ろせば一撃だ。
斧を片手に湖で泣いている女に後ろから声をかる。
「お嬢さん」
そう呟くと、男は口元を歪め、斧を高々と振り上げた。
「はいっ?」
獲物と思われた女がくるりと振り返った。
「え……?」
一瞬、何が起きたのかわからなかった。だが、男の目に飛び込んできたのは、驚くべき光景だった。
女の額には、すでに斧が深々と突き刺さっていたのだ。
「は、はぁっ!?」
月光が斧の刃を鈍く輝かせ、女の顔には涙が溢れていた。彼女は怨念を宿したような眼差しで男をじっと見あげると、かすかに震える声で囁く。
「……どうして……どうして……?」
その声は湿った夜気に染み入り、男の背筋を凍らせた。
「な、な……なんで……お前、俺に復讐するために待ち伏せていたのか……!?」
男はよろけながら後ずさった。彼の脳裏には、以前に自分が斧を振り下ろした瞬間の光景がありありと蘇った。あのとき、確かに息絶えたはずの女が、今、目の前で立ち上がった。
しかも、その額には自分の斧が――!
「やめてくれ……許してくれ!」
必死に叫ぶ男に、女はさらに一歩、また一歩と近づいてきた。その足音が枯葉を踏みしめる音に混じり、男の心臓を締め付ける。
「戻して……(夫と私の)大事な時間を……!」
怨嗟の声が次第に大きくなる。男の視界が揺れ、恐怖で膝が震えた。
男は頭を抱えて叫びながら、その場から全速力で逃げ出した。背後から、まだ彼女の囁く声が聞こえる。
「どうして……どうして……」
「きゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
発狂したような声を上げて、犯人は町の方へ飛ぶように走っていった。
警察に勢いよく駆け込む。
「警部さん、俺が犯人です。早く逮捕してください。
お願いします。俺が殺した女の幽霊が、追いかけてきます。助けてください」
「お前、何言ってんだ?」
こうして見事、殺人事件を解決した木こりの夫婦。二人の名声はいやが上にも高まった。
二人は手をつなぎ、次の町へ向かう。奇妙だが愛にあふれた夫婦の物語は、これからも続くだろう。
前作に興味ある方は、
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