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嫁取物語~婚活20連敗中の俺。竜殺しや救国の英雄なんて称号はいらないから可愛いお嫁さんが欲しい~  作者: 月夜乃 古狸
軍務編

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第71話 狩人の力

「ボーグ卿、どう見る?」

 ブランディス砦の中央にある石造りの司令部に到着したブルゲスト辺境伯は部屋に入るなりボーグ司令官に意見を求めた。

 唐突ではあるけど、領都からここに来るまでに報告を読み込んでいるだろうことと辺境伯閣下の性格からこうなることを予想していたらしい司令官は戸惑うこともなく閣下を椅子に勧めながら口を開く。


「規模からして偵察拠点としてだけでなく、物資の保管や侵攻の足場として整備していると思われます。76分隊が再度偵察を行い、面積や大まかな人員数、ファンル王国からの進入路も把握できています」

 その言葉とともに差し出された地図を見て辺境伯の目がわずかに見開かれる。

 ふふん。

 俺たちの分隊がしっかり調べ上げた詳細な見取り図に驚くが良い。

 とはいえ、さすがに洞窟の内部までは調べることができなかったからどうなってるかはわからないけど。


「……ずいぶんと面倒な場所に拠点を造ったものだな。これでは数に頼んで包囲することもできん」

「ファンル王国との中間線を跨いでいますからね。それに、森の幅は王国側の方が薄いので人員の補充も撤退も向こうが有利となります」

 渋い顔で不満げに言う辺境伯にボーグ司令官も頷いた。


 今回俺たちが見つけたファンル王国の軍事拠点と思われる場所だが、司令官の言葉どおり帝国と王国の中間に敷かれた暫定的な国境のど真ん中にある。

 もちろん地面に線が引かれているわけじゃないのだが、長年の紛争で、どちらともなく両国の中間を緩衝地帯として小競り合いをしつつ、全面衝突に繋がるような明確な相手国領土にまで派兵するのを避けてきた。

 

 となると、中間線を跨いで築かれているこの拠点を相手に気付かれないように包囲するためにはファンル王国の領土に入り込む必要があり、あまり大規模な部隊を投入すれば小競り合いの域を超えて戦争状態に突入しかねないわけだ。

 いくら辺境伯が皇帝陛下から国境の兵権を委ねられているとはいえ、そう簡単に決断できることではないだろう。


「こちら側の森から入るとして、どのくらい投入できる?」

「1個中隊、というところでしょう。深い森の中では連携が取りづらいため、数ばかり増やしても遊兵になるだけです」

「だが、この報告ではファンルの兵員規模は最大で500を超える可能性もあるという。奇襲を掛ければ300の兵でも勝てはするだろうが大半は逃げられてしまうぞ。そうなればまたどこかに拠点を築くだろう。キリがない」


 辺境伯の指摘に、司令官も難しい顔で唸っている。

 実際、深い森というのは遮蔽物も多いから大部隊を展開するのに向かないし、逃げるのも容易だ。ましてや追う方より逃げる方が数が多ければ尚更だろう。

「ふむ。ちょうどこの場には森の専門家が居るな。名高い狩人のレスタール卿なら連中を逃がさず狩りつくすこともできるのではないか?」

 上層部の小難しい話はともかく、俺たちは命令があればその通りに動くだけだからな。なんて考えてたらいきなりこっちに話が振られた。


「いや、赴任したばかりの新兵に作戦立案に口を出せと言われても困るんですが」

「なに、巣ごもりする獲物を追い立てて狩るのは狩人の本分だろうと思っただけだ。無理なら無理で構わんよ」

 この辺境伯閣下(オッサン)、中央の貴族連中ともやり合うだけあって絶妙にプライドを刺激するように煽ってくるな。

「はぁ~……まぁ、方法はありますが。というか、それほど難しくないですけど」

 そう前置きして、俺は自分の考えを辺境伯と司令官に披露するはめになった。



「そろそろ、ですかね」

「多分。準備は良いか?」

 俺たちが森の中の拠点を発見して5日後。辺境伯閣下が砦に来て3日後に作戦が決行されることになったのだけど、俺の指揮する第76分隊を含む第12小隊はファンル王国の拠点の北側の森、の()()()で待機している。

 作戦としては単純で、帝国側の森からブランディス砦の1個中隊が小さな川を越えて襲撃する。

 もちろん陽動ではなく本気の攻撃だ。

 とはいえ、相手だって拠点が発見されることを想定していないはずがない。

 撃退を試みると同時に、それが無理なら撤退する準備をしているのは間違いないだろう。

 それを俺たちを含む3個小隊で待ち構えて殲滅するという計画になっているのだ。


「しかし、本当にファンル王国の兵士はここを通るのですか?」

 疑わしそうにそう言ったのはオーリンドさん。

 実際、撤退する兵士はバラバラに王国に戻ろうとするのだから確実に待ち伏せしている場所を通るのかを気にするのは当然だろう。

 けど、そこは多分大丈夫なはず。

 俺は分隊の人に手伝ってもらいながら撤退経路を誘導するように仕掛けを施しておいたのだ。


 王国の拠点は周囲をぐるりと深い森に囲まれている。

 これはギリギリまで拠点の存在を隠しておけるようにしてるわけだが、反面奇襲に気付くのが遅れる難点もある。

 だからこそ拠点の周囲には厳重な警戒網を敷くのと同時に、事前に複数の撤退経路を確保している。

 だが、撤退経路と言っても、見てわかるような道を作ってしまっては帝国が発見しやすくなるし、だからといって適当に森に入れば方向感覚を失って遭難しかねない。

 なので、王国はいくつかの場所に目立ちにくい目印を付けて場所と方角がわかるように細工をしてあった。

 俺はその目印を探して消したり移動させ、3ヶ所の経路に制限するようにしたわけ。


 レスタール領のある森にも群れを作って生息している獲物がいくつか居るのだけど、そういった動物を追い込んで狩るための手法なのだ。

 動物の場合はわかりやすい目印ではなく、臭いやマーキングでおこなうので探すのも一苦労だが、王国のは所詮人間相手の目印だ。注意して探せばすぐに見つかったし、誘導するのも簡単だった。

 ついでに王国が設置した警戒網の仕掛けや罠も見つけて全部潰してあるので、人の目で監視している場所を把握して、作戦決行と同時に隠密行動に優れた部隊が無力化させているはず。

 王国側の方は帝国側よりかなり警戒は緩く、味方が巻き込まれるのを恐れてか罠の類はまったく設置されていなかったから、いくつかの監視場所を直前に潰すだけで済んだ。


 一応事前に説明してあったはずだけど、改めてオーリンドさんにそのことを話していたのだが、それが終わらないうちに戦闘が始まったらしい。

 拠点の方角からざわめきや警笛の音が聞こえてきた。

 距離があるためよほど注意していないと聞き逃してしまうほど小さな音だが、俺にははっきりと聞き取ることができた。


「始まった。来るぞ!」

 そう声を掛けつつ、周囲で身を隠している他の分隊にも合図を送る。

 それから俺はスルスルと木を降りて距離を取ってから茂みに身を屈めた。その後をオーリンドさんもついてきている。

 先にも言ったが誘導した3ヶ所の撤退経路にはそれぞれ3個分隊からなる小隊が待機して待ち構えている。

 小隊の兵士の半数が樹上から弓で撤退兵を狙い、矢を避けようと木々の間に逃げ込もうとする兵士を残りの歩兵が迎え撃つという手だ。


 しばらくそうして待っていると、拠点の方向から慌ただしい物音が近づいてくる。

 そして、

「ぎゃっ!」

「ぐぁっ!?」

「な!? て、帝国兵か!」

「弓だ! 散……」

 

 弓兵が攻撃を始めれば当然相手もすぐに気付く。

 が、回避しようにも樹上に居る兵の位置はそう簡単にはわからず、戸惑っている間にも後ろから他の兵が撤退してくるためにそれに押されるように前に出るしかない。

 そうこうしているうちにどんどん犠牲者が増えていき、なんとか散らばって逃げようとするも、この周辺は作戦直前に俺たちが下生えなどを刈ってしまっているので立木くらいしか遮蔽物はない。

 俺たちもそれを見越してどこに隠れても狙えるように弓兵を配置しているので、射程から離れるしか逃げる方法はない。


 俺たちの部隊のいる経路に逃げてきた王国兵は200名近い。

 樹上の兵士は弓が得意な者を選抜しているが、いくら優位とはいえ弓だけで全てを倒すのは不可能だ。

 避けたり剣で打ち払う者も居るし、命中しても矢はそうそう致命傷にならない。

 それでも2割ほどは完全に無力化させ、3割近くを負傷させたのだから上等だろう。

 そうして浮き足だった王国兵に、今度は身を隠していた歩兵が長さ3リーグ(約2.4m)の短槍で襲いかかる。


「くそっ! 卑怯者が!」

 コソコソと森の中に拠点を造って侵略準備してた王国兵に文句を言われてもなぁ。

 俺の耳に届く王国兵の怒声にひとりでツッコミを入れる。

 すぐ近くに居るはずのオーリンドさんからは無反応。ちょっと淋しい。


 頭上からの弓での攻撃とそこから逃れた直後の側面攻撃で終始優位に戦闘は展開していたが、それでもこちらは合計50名ほど。

 相手が逃げに徹すれば相当数を取りこぼすことになる。

 さすがにひとりも逃がさずというのは無理な話だけど、同じように人目につかない森の中に拠点を造ることを躊躇する程度には損害を与えなきゃならない。


 ということで、俺も愛用の戟を手に防御態勢をとった王国兵の集団に突っ込んだ。

「な!? ご……」

「ひゅっ」

 自分に向かって振り上げられた大ぶりな戟から身を守ろうと木の陰に隠れた王国兵ふたりを、幹ごとぶった切る。

 ついでに倒れた木が向こう側にいた運の悪い王国兵3人を上から潰す。


「シッ!」

「お、女が! ぐぅぁ!」

 チラリと横を見ると、オーリンドさんが王国兵を切り伏せているのが目に入った。

 すぐに別の兵士が彼女に槍を突き出すが、槍先を剣の腹で逸らすとすかさず間合いを潰し、兵士の腕を切り落とす。

 なるほど。それなりに鍛練を積んでいるのはわかっていたが、予想よりも実戦慣れしている。

 剣筋はまだ荒いが、形ばかりの貴族剣術と違い、相当に自分を追い込んで身につけた技量のようだ。

 その矜持があったからこそ、学院での俺の評判を聞いて軽蔑していたのだろう。


 まぁ、だからといって初っぱなから罵倒されるのは納得できないけど、気持ちは理解できないでもない。

 実際、学院で一番熱心に励んだのが婚活だったのは間違いないし。

 とはいえ、いつまでもそんな目で見られるのも嫌なので少しは良いところを見せるべく戟を振るう。

 今にも帝国兵を背後から斬りつけようとしている王国兵の両腕を叩き切り、足が止まった別の王国兵を甲冑ごと両断。

 さらに矢を射ろうとしている男の弓と腕を切り落として、別の王国兵の方に蹴り飛ばした。


 だがそれでも奇襲を受けたとはいえ、相手も敵国の領地に侵入してきているそれなりの兵士たちだ。

 とにかく損害を減らすことを優先して態勢を立て直し、俺や、武力に優れる兵士を複数の王国兵が槍で牽制しながら王国に向かって少しずつ撤退をしていく。

 さすがに数の差があったので時間が経つにつれこちらの負傷も増えてきているようだが、深追いはしないようにしているためそこまでの被害は出ていない。


「今だ! 抜けるぞ!!」

 足が止まった帝国兵の隙間を王国兵が塊になって突っ切る。

 動き出した集団はそう簡単には止まらない。

 このまま一気に森を抜ければそこまでは帝国兵が追っていけない。

 ……多分そう考えてるんだろうなぁ。

 まぁ、実際、全体ではどうかわからないけど、こっちに流れてきた王国兵は半数以下にまで減らすことができたから、俺たちの部隊としては十分な戦果で、事前の想定どおりに事が運んでホッとしているところだ。

 小隊長も同じ考えだったようで、追おうとした兵士を止め、負傷者の治療と、まだ息のある王国兵の捕縛の命令をしていた。


 後で聞いたところ、他の場所の戦闘も概ね上手くいったようだ。

 まぁそれでもそれなりに犠牲者は出た。

 幸運なことにうちの分隊は軽傷者数名で済んだが、共に戦った他の分隊では戦死者もいる。

 戦争だから仕方がないのかもしれないが、勝ったからといって喜びなんて感情はまったく湧いてこない。

 ただ少なくとも当分は戦いたくないな。

 


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