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辿り着いたらボブさん家でした 2024/10/23 16:38

  辿り着いたらボブさん家でした


                              作:にゃる


天の川銀河かに座の近くにある恒星オオシャコ。

その恒星の第三惑星が、ヤドカーリ星である。

青い星であるヤドカーリ星はその殆どが海で出来ており、陸地はシロガイとアカニシと呼ばれている二大陸と大きな島が七島。あとは、数多くの小さな島が点在している。

夜に空を見上げると、衛星のステタが淡い光を放っている。

月と同様にステタにも満ち欠けがあり、ヤドカーリ星の潮の満ち引きにも影響を与えている。

衛星ステタの地表は、大小のクレーターが無数にあり砂と岩石に覆われていた。

日中の温度は優に170℃を超えたが、夜は逆にマイナス180℃になった。

また、クレーター同士が道路によって繋がれており、上から見るとまるで星座の表示のように見えた。

大きなクレーター内には廃棄された宇宙船が山のように積み上げられており、小さなクレーターには巨大なタンクが建造されていた。

そして、各タンクからは、数本のパイプが地下と繋がっていた。

それらのクレーターから伸びている道路の最終点は、地下のプラントへと繋がっていた。

プラントは地下にあるのだ。

そのプラントの入り口付近にある崖のような岩のトンネル内からは、メタリックの鈍い光が放たれている。

日中の直射日光や夜の冷気を遮るため、トンネルをくり抜きそこに社屋が収められているのだ。

その社屋の向こうには、5棟の頑丈なバンカーを持つスペースポートがある。


カーン カーン カーン ゴゴゴォ・・・

クレーター内では廃棄されたスペースシップを切断する音が絶え間なく響き渡り、大きく切断された部位はクレーンによってトレーラーに積み込まれていった。

そして、荷を積み終えたトレーラーがもうもうと砂塵を舞い上げて走って来、地下へと続くトンネル内へと消えていった。

切断されたスペースシップが持ち込まれた地下では、そこから計器や部品、廃オイルなどから再生可能な物質を取り出すリサイクルがなされていた。

なかにはスペースシップ内に放置された、未知のダーク物質や危険な化学物質が残っているため、危険と隣り合わせな場合もあった。

その地下プラントでは、多くのロボットたちが働いていた。

そして、彼らを監視するために武装したゲートカ星人が所々に配置されていた。

カーン カーン ガリガリガリ・・

スクラップの担当部署では、解体する前に使える計器や部品を取り出す作業をしている数体のロボットたちがいる。

一見するとロボットに見えるのは、ヒューマノイド型のスペーススーツを着用して働いているからである。

それは部位によっては特殊金属などの他、伸縮性がありゴアテックスやケプラーより数段優れた生地や、様々な複合素材で作られており非常に丈夫になっている。

そのスペーススーツの中に入っているのはヤドカーリ星人なのだ。

本体自体は、ぷにょぷにょの白っぽい楕円の形状をしている軟体生物で、小さいながらも目や鼻、口などが付いている。

また本体中央の奥からは、ぼやけた赤い光が瞬いでいるのが見えた。

もちろん、知能も高いのだ。

また、本体の下からは沢山の触手が生えている。

それらの触手は付いている部位によってブロックに分けられ、それぞれブロックごとに役割が与えられているので効率よく動かすことが出来た。

因みに見分けは付きにくいが、男性女性の性別がある。

男性は全体が白く、触手は女性の触手より長く太く逞しい。

女性は細身で、全体的に色が若干ピンクがかっており”しおらしい”感じがした。

何故、彼らが体に合わないヒューマノイド型のスペーススーツを装着しているのか?と疑問に思われるが、彼らの体に合わせたスペーススーツだと、沢山の触手分のスーツのパーツが必要だし、そんなスペーススーツを着用しての作業は非常に難しいからである。

そして、ヒューマノイドのスペーススーツの外殻が頑丈な上、内部にはマッスルスーツ機能が内蔵され動きを補助してくれるので入っている方が楽なのである。

また、プラントの外に出る時は、簡単に生命維持装置を付けられる優れものなのである。

ただ、彼らはヤドカーリ星から売られてきた者や、やむを得ない事情で半ば強制的に連れて来られた者たちが大半であった。

しかしヤドカーリ人の中には、衛星ステタに駐留するだけで利益を得られる一部の特権階級の者たちもいた。

危険な作業、労働環境などは決して良くはないが、プラント奥のエリアには宿舎の他、ショッピングモールや娯楽施設などがあり、少なくとも生活は確保出来ていた。

なのでステタの地下では、家族を含めて約五千人ぐらいのヤドカーリ人が居住しているのだ。


ブチッ!!

引き千切れる嫌な音がした瞬間、解体した廃品を吊るしていたワイヤーが切れた!

「危ない!!」と誰かの叫び声を遮るように、大きな音を立て荷崩れを起こしてしまったのだ。

その下では、数名の作業員が仕事をしていた。

瓦礫の中から助けを呼ぶ声が聞こえてきた。

他の作業員たちは、仕事を止め急いで救助に駆けつけた。

或る者たちは持てる瓦礫を動かし、また或る者は、大きな瓦礫を取り除くため重機を取りに駆けて行った。

そこにゲートカ人の数名のガードが駆けつけたが、彼らは救助には参加せず、あろうことか瓦礫を取り除こうとしている者を追い払った。

ガード「お前たちは、自分の持ち場に戻れ!!」

作業員たちからは「まだ、生存者が居る。今すぐ救助しないと!!」

ガード「後で処理班が来るから、さっさと持ち場に戻れ!!」

作業員から非難の声が殺到しガードたちに迫ってきた。

現場のガードたちは、押し寄せて来る作業員たちを押し戻したが、作業員の数は増えるばかりだった。

劣悪な作業環境の鬱積した不満、ゲートカ人との積年の対立・・・

それらの事がこの事故の対応をきっかけに、ヤドカーリ人作業員たちの感情が一気に爆発したのだ。

そこに応援に駆け付けた20名のガードを見た作業員たちは更にエキサイトしたのだ。

ガードたちは、収集がつかなくなり反乱に発展するのを恐れ、作業員に向け銃を放ったのだ。

銃声と怒号から、作業員たちの叫び声や絶叫に代わり、人々は蜘蛛の子を散らすように辺りの物陰に拡散していった。


解体を担当している作業員の中に、体が小さい方のD515と大きい方のD516が居た。

そのD515がD516に「向こうの現場が騒がしいな・・・」

D516「ワイヤーが切れて作業員が下敷きになったらしい。その対応で作業員たちとガードがやり合ってるそうだよ。」

D515「巻き込まれるのは嫌だな・・・」

D516「僕たちも行った方が良いのだろうけど、僕たちには目的があるからね・・・」

D515「うん。そうだ。ところで、昨日のニュース見たかい?」

D516「ニュースは、ゲートカが情報操作してるから見ないよ・・・」

D515「まぁな・・・それはそうと、昨日この星で、またヤドカーリ人が攫われたらしいぞ。」

D516「えっ!また?」「最近、多くなってきているよね・・」

D515「それに聞くところによると、ヤドカーリ星でも攫われる人が増加しているとか・・」

D516「めちゃ物騒になってきてるよね・・ゲートカのガード達は捜査してるのかな?」

D515「他の作業員たちとその話題になって、ガードたちが真犯人じゃねえの?って言ってた奴もいたね。」

D516「それはあり得るかも・・」

D515「ところで話は変わるけど、明日は久々の休み!!また例の場所に行くかい?」

D516「もちろん行くよ!彼らにも会いたいし、そしてポッドもあと少しで修理出来る。なかなか休みが取れないからなぁ、是非とも行きたいよ!」


二人の言ってる例の場所とは・・

見つけたのは、ほんの偶然だった。

今から2か月ほど前、作業をしながら「明日、休みだからどうする?」などと二人で話していると、ヤドカーリ人の作業員たちを管理している役人の息子ナスと、その取り巻き連中のニスとハスがやって来て、ナスが「君たち、真面目に働いてますか?」と、ねっちりとした口調で話しかけてきた。

「おいおい、見りゃ分かるだろ!」などと、口答えをすると厄介なので「もちろんです!真面目に作業していますよ!」と答えた。

ナス「ところで、お前たちも明日休みだろ?俺たちと遊びに行かないか?」

ニス「ナスさんと遊びに行けるなんて、お前たち幸せ者だぜっ!」

D515(休みにこんな奴と遊びたくないけど・・後々の事を考えると・・大人の対応でもしとくか・・・)

D515「いいですけど、どこに行きますか?」

ナス「モールのバーチャルシアターはどうだ?新作が何本か入ったそうだ。」

そのバーチャルシアターとは、VRカプセルの中に入り主人公になりきってアクションやファンタジー作品などを疑似体験が出来る施設である。

作品にもより、結末は数パターンが用意され客の選択によって迎えるエンディングが違うのがこれまた面白いのだ。

D515「新作が入ったのですね。」

ナス「ファンタジー系や、アクション系、あと恋愛系にも入ったらしいぜ。」

D515「いいですね。じゃあ明日。」

二人を誘いにきたヤドカーリ人たちが帰ると、D516が「息子のナス。僕、アイツ苦手なんだよね・・」

D515「ナスだろ?俺も同じく苦手。でもさ、大人の対応をしとかなきゃ後々仕事や生活に差し障るだろ?まぁ、個別のカプセルだし、それぞれ好きなものを選べるから大丈夫だよ・・ところでさ、例の話の続きなんだけどさぁ・・・」


その翌日、待ち合わせ場所のモール内のバーチャルシアター前。

この日は、他のみんなも休みなのか大勢がモール内を行き交っていた。

大型のディスプレーに表示されている数ある作品を見て、D516「僕は、ファンタジー作品で選ぼうと思ってるけどなぁ・・」

「いやいや、俺は少しエッチ系なのがいいんじゃねえかなと・・」とニタッっと笑っているニス。

モス「いやいや、俺は断然アイドルものが良い!!」

D515「やっぱ、俺はアクション系で選ぼう。」

ニス「そういやナスさんが、恋愛ものに嵌ってるとか聞きましたけど・・」

D515「えっ、恋愛!?」

そこに遅れて来たナスが「俺、この新作の作品をやってみたかったんだ。お前たちも一緒にこれをやれよ!!」と強引に決めてしまった。

D516「えっ!?なんで?」

突然のことにD516たちはフリーズしてしまった。


ナスが選んだ作品は『どきどき学園』という学園恋愛もので、主人公になり学園のヒロインと恋愛に発展するのか?同級生止まりなのか?はたまた、違う女子生徒と恋愛するのか?という類の作品だった。

それは、詐欺か?詐欺か?詐欺か?と言いたくなるような作品であった。

ヒロインや他の女生徒とは、すれ違いや行き違いが多く恋愛に発展するにはかなり難易度が高いのだ。

仮に恋愛に発展した途端、何故か緊急イベントが強引に開催され、ゲット出来た女子を他の男子生徒に搔っ攫われていく無慈悲な展開に陥ってしまう。

「えっ!何でよ!!」と呆然自失になる者が大半。

ここでエンディングを迎えても良いのだが、ここで課金すると搔っ攫っていった男子生徒の醜聞がどこからともなく広がっていくのだ・・・

そして、戻ってきた彼女のウルっとした目は、今までの恋愛とは違う何かを求める視線へと変化しているのだった。

そして課金の金額が増えれば増える程、学園でのモテ度が変化してくるドキドキするぐらいの危ない設定の作品。

しかし無課金でも、なかなか極レアなケースも用意されており、他の男子生徒とBLな関係に発展してしまう・・・そんなドキドキするエンディングも用意されていた。


そんな極レアのエンディングを迎えて卒倒しかけているD515が「アワワワ・・俺、鳥肌が立ったよ・・・」と涙目で呟いた。

同じく極レアに発展したニスは「俺は、震えたよ・・・」

他の男子生徒に奪われたモスは「最後の最後で・・・クッ、泣いたよ。」

その言葉の意味を良い方に取り違えたナスは満足げに頷いた。

ニス「ところでナスさんは、みんなよりも終わるのが遅かったですけど、ヒロインをゲットできましたか?」

ニヤッと笑ったナスが「あぁ・・ヒロインには、タイトル通りドキドキさせられっぱなしだったぜっ!!」

愛想笑いをしながらモスが「さすが、ナスさんっすねっ!!」

D516(ナスは幾ら取られたんだろう?僕は無課金でもヒロインをゲット出来たけど・・)と心の中で呟いた。

みんなが満足したと勘違いしているナスが「そうだ。お前たち、このモールでナンパでもしないか?」「俺が居ると『キャー素敵!!』とたくさんの女子達が寄ってくるんだぜっ!」と得意げに喋ってた。

その言葉とは裏腹に道行く女子たちは、声がけしてくるナスを怪訝な目で見て避けて行った。

特に親子連れなどは子供に「見てはいけません!」と言って離れて行った。

そんな中を、二人連れの女子などはD516を遠くからチラ見していたのだ。

それを見てハッと気付いたD515が「俺らはこの後、班長に用事を頼まれているので、帰らなきゃいけないっす!すみません・・・」

ご機嫌なナスは「俺が、お前たちの班長に自分でやれよ!って言ってやろうか?」

D516の腕を引っ張りながら「いやいや、それで職場の雰囲気が悪くなったり、作業効率が落ちたらダメなので・・失礼しま~す。」D515たちは、その場を取り繕って這々の体で逃げ出してきたのだった。

D515「いや~ナスも作品もヤバかったぁ。とりあえず、宿舎に帰ろうっか。」

D516「うん。時間も早いし、より道して帰ろうよ。」そう言って二人は普段は通らない脇の坑道に入って行った。

薄暗い照明の中D516が「なんか、探検ぽっくていいよね。」

と、二人がぶらぶらと歩いていると、左側に入り口が崩れかかった古い坑道を見つけたのだ。

現在、この衛星では解体・リサイクル業をしているが、昔はいろんな種類の鉱物が採れて坑道がアリの巣のように張り巡らされているのだ。

しかし年月が経ち、鉱物が掘り尽くされ遂には枯渇してしまったのだ。

また、岩盤が緩いところでは落盤事故も多発し、古く使われていない坑道の入り口は厳重に封鎖されていたのだった。

二人が見つけた入り口には、封をしている金属製の板が打ち付けられていた。

しかし、その板にはところどころに錆びが入り朽ちかけていた。

また、その板を壁に打ち付けてあるビスが、いくつか抜け落ちていたのだった。

そして、隅が反り上がり無理をしたら通れるかな?ぐらいの隙間となっていた。


D515「入ってみるか?」

D516「崩れないかな・・」

D515「例の人攫いが潜伏しているかもよ・・」

D516「えっ!怖いよ!止めようよ!!」

D515「大丈夫だよ。人が通った形跡がないしそれより、この奥が気にならないか?」

D516「気にならないって言ったら嘘になるよね。」

と、二人は恐る恐るその隙間を広げて古い坑道の中に入ってみた。

中は真っ暗でカビ臭や焦げた臭い、化学薬品っぽい臭いがした。二人が仕事用に持ち歩いているペンライトを点けた。

すると暗がりの中に長い間眠っていた空間が浮かび上がった。

目の前には所々が錆びて朽ち果てた太いパイプが通っている。排水用なのだろうか?パイプの口径は二人よりも大きい。

その奥には焼け焦げて廃棄された大きなタンク。そこに連結する焦げてへしゃげた幾本かのパイプ。上部には放置されたクレーン。昔のプラント跡だろう。

しかも目の前の太いパイプは、中から爆発でもしたかのような大きな穴が開いている。

二人は、裂け目からパイプの中に入ってみて左の方に歩を進めた。

パイプの底は、昔流れていたであろう廃液がカパカパに干からび、それが残骸となり無数に転がっていた。数メーター歩いていくと残骸が湿り気を帯び、右に曲がり更に歩くと化学臭のする廃液が底に残っていた。

廃液を踏まないように進んでいくと上部からのパイプと交差する場所に到着した。

そこは、上から落ちてくる砂と底の液体が混ざって泥濘のようになり、そして中央部が盛り上がっている。

そこに球体が突き刺さっていた。

それは、上部のパイプから落ちてきた古い避難用ポッドであった。

二人はポッドの周りを回ってみた。外殻は、避難用ということもあり頑丈な上、この泥濘がクッション材となり落下の衝撃が緩和されたのか壊れてはいなかった。

D516がコックピットを開け中に入ってみた。

ポッドの反重力部は壊れていないが制御盤は衝撃で壊れていた。他をチェックすると壊れた箇所が数ヶ所あった。「部品交換してエネルギーの電池を入れたら動くかも・・」

D515「それが出来たら、ここから脱出出来るかもね。」

二人の目が輝いた。

と、何か視線を感じたので目を上げると、暗がりに幾つかのの青色、紫色の光がボォっと光っていた。

それは、数十匹のスライムが二人の周りを取り囲んでいたのだ。

スライムたちは、シンクロするようにぷよぷよ動いていた。そのうちの一匹が突然赤くなり、ポッドの外に立っていたD515の頭上に飛び乗ってきた。

D515「うわっ!助けて~」

いつもは勝気なD515が、慌てふためいて悲鳴を上げた。

それを見ていたD516が(助けなきゃ・・水をかける?火で焼く?若しくは電撃?・・・何かないか?)と周りを探していると、頭の中に言葉が流れてきた。

(ルイ。その子らは違う!我々の同胞だ)(ヤドカーリ人だ!)

D515の頭部にベチャと張り付いていたスライムが、丸くなって元の青色になり頭から”ピョン”と飛び降りた。

(いや、すまなかった)

(ごめんなさい)

(同胞だったんだ)

ざわざわと他の者たちから次々と言葉が流れてきた。

恐る恐るD515が「スライムが、ヤドカーリ人!?どういう事ですか?」と尋ねると、

長らしきスライムが(ビックリしただろう。話を聞いてくれるか?因みにわしは長をしているヨダという者だ。)

ヨダの話によると、ここは以前のプラントの一部で爆発事故を起こしゲートカ星人らによって閉鎖されたのだった。

スライムたちも元はヤドカーリ人でここで働いていた。

しかし、事故で大怪我をした者たちやその現場にいた者たちは、口封じのためにゲートカ星人たちによってここに閉じ込められてしまったのだった。

水も食料も無く大勢が倒れていったが、中にはあまりの渇きに何かの廃液を飲んだ者たちがいた。

またそこでも大勢が亡くなったのだが、奇跡的に生き残った者たちもいた。

だが、安全な廃液など無い。

当然、彼らは苦しみだし皮膚は爛れて剝け、触手が捥げてしまった。

それから数日後、生き残った者たちは突然変異を起こしたのだ。

なんと、スライムに変化したのだった。

スライムになってからは、亡くなった仲間の体や小さな生物・害虫などを捕食し養分として得ることが出来るようになった。

また、宇宙空間だろうが生命維持装置付きのスーツが無くとも生きていけるように変化していた。

そして、体質やそれぞれが食べた物にもよるのだろうが、火を出せる者、酸を出す者、毒を出す者などに変化していった。

(さっき飛びかかったルイは酸を出すぞ)ヨダはいたずらっ子のようにニャっと笑った。

D515はビクっとなって「えっ・・!?まじヤバじゃん・・」

そして中には、ここが嫌で隙間から外に出た者たちもいた。

だが、出て行った殆どの者たちが『駆除』という形で抹殺された。

ただ、一人だけ生き延びている者がいると風の噂で聞いたのじゃが・・・

D516「外にピンク色のスライムさんは居ます。」

(おぉ、生きてたか・・)

D515には、ヨダがウルっとなったように見えた。

更にヨダの話は続いた。

ある時、脱走しようとしたヤドカーリ人5名がゲートカ星人たちに捕まり、上からここへ突き落とされてしまった。

3名は打ちどころが悪く即死だったが、2人はまだ生きていた。

そこへ上からC4爆薬を仕込まれたポッドが落とされたが、運良く起爆装置が作動しなかった。

ゲートカのガードたちは、派手な花火が打ち上がると思って喜んでいたのだが不発に終わったので、上部からは「くそっ、起爆しねえじゃないかっ!」とディスりながら石や予備の起爆装置などが投げ込まれた。

だが、不幸なことに1名がポッドの下敷きになり亡くなってしまった。それが、ルイの兄弟ロイだった。

そこで生き残ったのが、さっきD515に飛びかかってきたルイであった。

それらの話を聞き終えた二人は、あまりの衝撃に言葉が出てこなかった。

ヨダ(それはそうと、おぬしらの名前を聞いてなかったわい)

D515「あっ、申し遅れました。俺は515で大きい方は516です。」

ヨダ(いやいやシリアルナンバーでは無く本名じゃ)

D515「俺たちはヤドカーリでは孤児でした。名前はあったのだろうけど、忘れたというか二人とも知らないのです。」

ヨダ(そうか・・そりゃ可哀そうにのぉ・・)


時は現在に戻り、休みの当日、二人はショップで飲料水・食品などを買い込み人目を警戒しながら例の場所へと急いだ。

目的地に着き、二人はそこで荷物を下してポッドのコックピットのドアを開けた。

D516が中に入り壊れた部品を取り替え電池を入れると「フゥ~これで完成!ポッドは動くはずだ!」

外でポッドを掃除していたD515が、D516の言葉を聞いて「やったー!やったー!」と歓声を上げていると、どこからともなく十数匹のスライムが集まってきた。

D515が中にいるD516に声をかけると、工具を持ったD516が表に出てきた。

二人が「お久しぶりです。」と挨拶をすると、頭に複数の声が響いた。

(久しぶりじゃな)

(こんにちは)

(元気か?)

D515が「スクラップの持ち込みが多くて、なかなか休ませてくれないんです。」

(昔からそうじゃ)

(昔はもっと過酷じゃった・・)

D516「そうだ515。ごはん・ごはん・・」

D515「新鮮な物が無くて申し訳ないけど・・」

二人は持ってきた宇宙食やマナが入ったボトル、飲料をスライムたちに分けた。

(ここの物に比べたら全然違う)

(懐かしい味じゃ)

(美味い!)

二人「みんなに喜んでもらえて嬉しいや。」

D516「ポッドの完成祝いだね!!」

D515「俺たちも食べようか。」

そうして二人の休日は穏やかに過ぎて行った・・・


「ふぅ、もうこんな時間か・・・」

その言葉を発したのは、工場の最深部の薄暗い研究室で頭部が赤い光を放っている異形の姿をしたものだった。

ぱっと見は、ドラム缶の上に覗き窓が付いたバケツを付けている容姿。

そのドラム缶からは、金属製の4本のマニピュレーターが伸びている。

そして、足元には4つのタイヤを装着している。

博士「ルカ、これが大切なメモリーだ。失わないように頼む!」

ルカと呼ばれた若い声の主が「はい!女王さまに謁見するまでは大切に保管しておきますね。」と答えた。

その姿は、白くてフワフワの”アルパカ”のぬいぐるみで、目がクリっとなっている。

見た目は、父親とは似ても似つかない姿だ。

博士「まっ、非科学的な話だが昔からの言い伝えでは、ヤドカーリ星が危機に陥った時、異星の”バーサーカー”が救いにやって来ると・・・」

ルカが嬉しそうに「助けに来てくださるといいのですが・・・ねっ、お父様!」

助手が「博士、そろそろお休みのお時間です。明日はヤドカーリで講演会の日です。専用シャトルは朝早くに出ますのでお早めにお休みください。」

「私も朝が早いので、これで失礼致します。」そう言って助手は部屋を後にした。

ルカ「そうですよお父様、もうお休みになってください。」

博士「ルカ、分かったよ。」そう言った時、侵入用センサーがけたたましく鳴り響た。

そして、上層部から複数の足音が迫ってきたのだ。

父親は急いでドアをロックし、「ルカ、このメモリーを持って逃げてくれ!女王様に渡して欲しい・・」とルカにメモリーを託し、机の下のボタンを押して隠し扉を開けたのだ。

ルカ「お父様も一緒でなきゃイヤ!」

博士「私の体はガタがきているし階段が無理だ・・ルカ、早く逃げてくれ。頼む・・・」と、強引に娘を扉の奥に押し込んで隠し扉を閉めた。

扉の向こうからは、「お父様!お父様・・・」と籠った泣き声が聞えていた。


バキッ!!!

鈍い音を立ててドアが蹴破られ、二足歩行で突入してきた爬虫類系のゲートカ星人3名が銃を持って乱入してきたのだ。

そして、入ってくるなり「Drカッパ!メモリーはどこだっ!」

と、ドスの利いた声で顔に傷のあるゲートカ星人が博士を突き飛ばした。

その勢いで博士は、机に思いっきり体をぶつけてしまった。

「イッッ・・・わしは知らん・・知らん!」

リーダー格が「ガルム、ギルム。探しだせっ!」と、他の2名と部屋のありとあらゆるストッカーを開けて中身をばらまき、室内を物色したがメモリーは見つからなかった。

ギルムと呼ばれた小柄なゲートカ星人が、部屋にあるパソコンでデーターを探したが、完全に消されてしまっていた。

もう一方のゲートカ星人ガルムが「そういやぁゴリ隊長。奴の娘が見当たりませんが・・」

隊長が、ハッと気づき博士に言った。

ゴリ「貴様!娘はどこだっ!メモリーを持って逃がしたなっ!」「言え!どこに逃がした!」

博士はとぼけて、「さぁ、今日わしは娘には会っておらん・・・」

と、博士が言い終わらないうちに、ゴリ隊長は持っていた銃のストックで思いっきり博士のボディをぶっ叩いた。

バコッ!!

嫌な音を立てて、博士の一部分がベッコリと凹んでしまった。

ゴリ「分かってるんだぞ。それ位の破壊じゃ貴様はほぼノーダメージだろ。正直に言うんだ。そうすれば殺しはしない。」

だが、博士は頑なに拒否した。

ギルム「隊長!時間が・・・」

業を煮やした隊長が「もう時間がない。博士、あんたはバカだよ・・・」

と、博士の頭部の赤く光っている部分目がけてトリガーを引いた。

「ヒッ・・」

と、壁の奥から微かな引きつる声が漏れた。

壁の近くにいたギルムが「隊長、この壁の奥に誰か居ますぜっ。」

ゴリ「どけっ!」

隊長が、勢いをつけて体当たりをした。

メリッ!!

隠し扉の一部が壊れ、その割れ目からは遠ざかっていく音が聞えた。

ゴリ「チッ、逃がすな!」

ガルム「シャトルの駐機場にも仲間を配置させていますから・・・」

ゴリ「メモリーを途中、どこかに隠されたら困るからなっ。」

そう言うと、ゴリは渾身の力で扉を破壊し後を追いかけた。


ルカ「お父様、お父様・・」泣きながらも必死に走った。

(ここを曲がればシャトルが・・・)

目的地のシャトル乗り場には、3名の武装したゲートカ星人がニヤニヤしながら待ち構えていたのだった。

それを見たルカの顔が引き攣った。

そして、後ずさりしかけたルカの背後から、ゴリ「観念するんだな。俺たちと一緒に来るんだっ!!」と、ルカを羽交い絞めにしようとした。

機敏なルカは、”スルッ”とゴリの腕を躱し左右に”ピョンピョン”と跳ねて逃げたのだ。

ゴリ「クワァ~!手こずらせるんじゃねぇー!!」

その機敏なルカの着地点を予測してガルムが飛び交っかったが、寸前のところで捉えられず壁に激突してしまった。

しかし、ガルムの背後で構えていたギルムが、更に飛びかかりルカを抑えつけてしまったのだ。

その弾みでルカが持っていたメモリーが跳ね飛んでしまった。

ゴリが「チッ、手間をかけさせやがって・・」と悪態をつきながらメモリーを拾った。

ゴリ「よし!引き上げるぞっ!」


翌日の解体現場。

そこには、解体前に使える計器を取り出す作業をしているD516たちの姿があった。

そのD516が”宇宙海賊のスペースシップ”のと或る計器を見て思わず「おっ!」と驚嘆の声を漏らしてしまった。

D516は慌てて周りをキョロキョロと見渡し確認した後、他の者に聞こえない位の小声で「これはこれは・・・お宝じゃん!」呟いた。

そして、それを慎重に取り出して、そっと自身のスーツの下腹部に隠し入れたのだ。

それを黙って見ていたD515がスルスルと傍に寄って来て「何か見つけた?」

D516の目が一度キラっと赤く光った。

「おい、お前ら!さっさと作業をしろ!ポンコツどもめっ!」と、運搬ロボットを引き連れ、取り出された計器を回収しにきたヤドカーリの役人である管理人が毒づいた。

「傷をつけるなよ!部品は高く売れるんだからなっ!!」

(じゃ、自分ですりゃいいのに・・)

「何か言ったか?さっさとやれ!!」

「はい・はい・・」

睨みを利かせて管理人が出て行った。

D516「あの偉そうなヤツ。ナスの親父じゃない?」

D515「そうだよ。思い出したくもないけど、この前のVRシアターは散々だったよ・・・」

D516「偉そうにしてるけど、僕たちの方が技術持ってるしね。」

D515が「うん。それより、腹減ったなぁ・・・」


(はーい。みんなお昼ごはんですよー)

と、運搬ロボットの上に乗ったピンク色のスライムの思考がみんなの頭の中にに流れ込んできた。

「あっ、スライム姉さんだぁー」

「めちゃお腹空いたよー」

と、作業していたDたちがぞろぞろと集まってきた。

運搬ロボットの上部が観音開きになり、中にマナが詰まった沢山のボトルが入っていた。

Dたちはそれぞれの腹部を開け、空になったボトルを取り出しマナが詰まったボトルと交換した。

D515とD516は、ボトルを受け取ると目立たない隅っこの方にスーと移動した。

D516「ふぅ、マナを食べるとエネルギーが漲ってくるな。」

D515「水分もとって、おやつも食べよう~」

D516「お腹が膨れると眠くなってくるな・・」

満腹になり現場には満たされたオーラが漂ってきた。

(はーい。空いたボトルはここに入れてね。また、午後も頑張ってねっ)

「ボトル入れ替えの時に見つからなくて良かったな。」ホッとした様子のD515が作業に戻り呟いた。

D516「フゥ~。下腹部はセンサー対策で防護を施しているけど、腹部から目視されたらヤバいところだった・・」と、汗を拭った。

D516「ポッドの操縦は覚えた?」

D515「作業が終わってからU-Tubeで操縦動画を観てる。なんとかなるんじゃねぇかな。故郷に帰りたいなっ」

D516「ねぇ~」


同日の正午。ヤドカーリ星の王都ウミホタルの王宮では・・・

王女の部屋の扉が「ドーン!」と勢いよく開き、甲冑を身に着けた騎士がズカズカと入ってきた。

その後を追いかけて少し青白い色の執事が、チョロチョロと入ってきた。

その執事は、触手が数本失われているのでびっこを引いていた。

執事「姫さま・・リリサ姫さま!もっとお淑やかに・・・」

「じぃ!分かっておる。午前の剣の修練で、腹が減って腹が減って・・・早く食事にあり付きたいのじゃ・・・」と、リリサ姫は勢いよく甲冑を脱ぎ捨てていった。

脱ぎ捨てた甲冑を片付けながら執事が「姫さま。お食事の用意を致しますので、先ずはシャワーで汗を流してきてください。」

リリサ姫は素直に「分かった・・・」と言ってシャワー室に入っていった。

数分後「あぁ、さっぱりした!」と言って出てきた姫に、執事が「只今、女王様もお食事をお摂りになっておられますので、ご一緒されてはどうですか?」

リリサ姫「母上ともお話がしたいから直ぐに参ろう!」と、二人は王宮内の食堂へと向かった。

食堂には2名のメイド以外に、女王が一人で静かに食事を摂っていた。

リリサ姫が食堂に入り軽く会釈をして席に着くと、程なくして食事が運ばれてきた。お腹が空いていたリリサ姫は勢いよく食べ始めた。

それを見ていた女王が「リリサ、あなたは、また剣のお稽古をしていたの?」

リリサ姫「ええ、母上さま。そうですわ。」

女王「お男勝りなのも良いけれど、もう少しお淑やかになさい。そして、女性らしい習い事をしなさい。」

リリサ姫「お言葉ですが母上さま。剣は心身ともに鍛えられ、また戦略や戦法なども学ぶことが出来ます。少しでも母上さまのお役に立てるようにと思っています。」

女王「あなたが、そう言ってくれるのは有難いのですが、母親としては娘の将来も凄く気になります。だから・・・」

女王の言葉を遮るようにリリサ姫が「母上さま。また、お見合いのお話ですか?」

女王「ええ、そうですよ。北のフラシ大公の子息や、ギンチャク公爵の子息。他には、伯爵のウミウシ将軍の子息など・・・が、リリサにどうですか?って」

リリサ姫「フラシ大公のご子息は、食べてばかりのずんぐりむっくりで嫌なのです。

また、ギンチャク公爵のご子息は、腹黒いというか”ねちっこい”性格で嫌です。ウミウシ将軍のご子息に至っては”脳筋”ですので・・・」

女王「あなたは、ホント難しい子ね・・・早く、結婚して私を安心させてください。」

リリサ姫「でも、結婚しないとは言っていませんよ。私よりも強いとか、優しくて誠実な方とか・・・良い殿方が見つかれば。」

と、食堂のドアがノックされ伝令が慌ただしく入ってきた。

伝令「失礼致します!女王さま。昨夜、衛星ステタでDr.カッパが、何者かによって殺害されました。そして、ご息女のルカ嬢が誘拐されたと、ステタより緊急通信が入って参りました。お食事中のところすみませんでした・・・では、失礼致します。」そう言って、伝令は敬礼をして部屋を後にした。

「えっ!Drが・・・」伝令の報告に、女王は驚きフリーズしてしまったのだった。

片やリリサ姫は、座っていた椅子を後方に弾き飛ばして立ち上がった。

触手は食事のナイフが固く握られ、怒りのあまりかプルプルと震えていた。

(ルカちゃん・・・私が、必ず助けるからねっ!)と、心の中で固く決心したのであった。


作業現場では、地表での日も落ちた頃、交代を告げ知らせるチャイムが鳴り響いた。

D516「やれやれ、やっと今日の作業が終わったよ・・」

D515「交代の時間だ~」

作業を終えたDたちが、それぞれの持ち場からぞろぞろと出てきた。

「宿舎に戻ってこのスーツを脱いでシャワーがしたいよぉ・・」

一方、宿舎側からは交代の作業員たちが次々と出てきて、それぞれの持ち場に散って行った。

「まっ、その前にゲートを通過しなきゃな。」

宿舎は工場の裏にあり、工場から出て宿舎に向かう間にゲートが存在する。

ゲートカ星人の詰所が中央にあり左右にゲートが存在する。1つのゲートでは2体のゲートカ星人が検査をしている。そして、ゲートのセンサーに反応した者は詰所に連れて行かれて暴行まがいの精密検査を受けさせられる。

交代時間なのでゲート付近は検査待ちの者たちで溢れかえっている。

ただ、今日は何故か別にガードのゲートカ星人3名が増員されていた。

詰所の上には大型のモニターが設置されており、ゲートカ星人たちに都合の良いニュースのみが流れている。

だから当然、殆どの者は見もしないし、さっさと宿舎に帰りたいのだ。


D515とD516がゲートを潜ろうとした時に、突然モニターから臨時ニュース発表を告げる大音量のけたたましいメロディーが流れた。

列の流れは止まり、皆は食い入るようにモニターを見上げた。

「臨時ニュースです。昨夜、研究室でDrカッパが殺害されました。現場に到着した警備隊は防犯カメラを解析して2名の容疑者を特定しました。」

そして、博士を襲っている防犯カメラの暗くて粗い映像が流れた。

博士を襲っている者の場面になるとなぜか妙にブレるのである。

そんな粗い動画から何故か警備隊は、いとも簡単に犯人を割り出してしまったのだ。

アナウンサーは続けて「画像解析の結果、以前から問題のあるD004とD005が容疑者として浮かび警備隊に捕らえられました。現場は荒らされており強盗殺人事件として捜査しています。更に現場にいた博士の娘さんの行方は分かっておらず、他にも犯人がいるものと推測し行方を追っています。」

辺りからはどよめきが湧きあがった。

誰かが「D004達って、反ゲートカの地下活動をしてた奴らじゃないか・・」

「罪を被せたのじゃねぇか?」

「どうせ、またでっち上げだろ・・・」

あちらこちらで皆がガヤガヤと騒ぎ始めた。

増援のゲートカ星人3名が上に向け威嚇のために空砲を連射した。

その激音に皆は一瞬静かになった。が、まだざわめきが治まりきらない中、D515がゲートを通り抜けD516が潜ったその時、ブザーが鳴り響いた。

「ヤバい!!」

先行していたD515が引き返してD516の手を取り、とにかく逃げなきゃとダッシュした。

ハッと我に返った検査官は、二人を捕えようと飛びついたが届かずに落下した。

「止まれ!止まらんと撃つぞっ!!」

ガードが、突進してくる二人に向かって銃を構えた。

その時、ガードの後ろにいて既に通過していたヤドカーリの一人が、足元のさらさらの砂をガードの頭上に投げた。

「ぶはっ。目が・・見えん!!」

二人は、砂塵で目潰しされたガード目がけて突進し、そのスピードの勢いのままガードにラリアットを食らわしたのだ。

その勢いにガードは、後ろにふっ飛んで頭をぶつけ「グホッ!」と奇声を上げ気絶してしまった。

それを見た他のガード達が「止まれ!」「止まれ!」と叫びながら銃を撃ってきたのだ。

ガードたちがいきなり銃を乱射し始めたので、ゲートを通過していた作業員たちは悲鳴を上げてその場に伏せた。

ガードたちは、逃げるD515たち目がけて銃を撃っているが倒れない。

「当たっているのに何故だ?」ガードたちは不審に思った・・・

威嚇のために入れてた空砲のままだったのだ。

チュン・チュン・チュン・・・

後ろから発射された弾が、通り過ぎる時に出る嫌な風切り音がするが、わき目も振らずがむしゃらに走った。

前方から騒ぎを聞きつけたナスたちがやってきた。

ナスが逃げて来るD515たちを見つけ「止まれ!止まれ!止まれ!」と捕えようと向かって来た。

D515「バカ!こっちに来るな!」

モス「あいつら、ナスさんに世話になってるのに・・」

ニス「捕まえりゃナスさんのポイントが上がるぜっ。」

と、ニスがD516に掴みかかろうとしたが、体のでかいD516に吹っ飛ばされた。

ナスは、D516を引っ張っていたD515を捕えようとした時、流れ弾がナスの左肩に当たったのだ。

「ギャーーー!!!」

と、もの凄い叫び声を上げ、ナスは左肩を抑えてその場にしゃがみ込んでしまった。

「ナスさん!」

ニスとモスは、追うのを止めナスに駆け寄った。

見てみると、左肩のスペーススーツを弾が少し掠っただけだった。

とりあえず、その場からD515たち二人は逃げ切ることが出来たのだった。

ナスたちをすり抜けたD515が「あそこへ行こう!」

D516は頷き「OK」の合図をした。

二人が宿舎の横をすり抜けて、入口が崩れかかった古い坑道に入った頃には息も絶え絶えだった。

そして、錆びの入った金属板の隙間から旧プラントに入り、D516が「何故、ゲートのセンサーが代わったんだろうか?」

D515「抜き打ち検査だったんだろう・・」

二人は、太いパイプの裂け目から中に入って安心したのかソロソロと進んで行った。

三分の一ほどまで達した時、後方で微かに”メリッメリッ”っと金属板を無理やりにこじ開ける音がした。

二人のどちらからともなく「追っ手だっ!!」

「急ごう!」二人は先を急いだ。

後を追ってきた3名のゲートカのガード達は、こじ開けた金属板の前で「ここは旧プラントじゃないか・・・この人数での捜索はキツいぞっ。」

「応援を呼ぼう!」と、インカムで応援を要請したのだ。

ほどなくして3名が所属するチームが到着した。

そして、合流した12名が旧工場に足を踏み入れたのだ。

中に入ると、チームリーダーが口に一本の指を当て静かにするよう指示した。

そして、耳を澄ますと目の前の太いパイプの裂け目からパキパキと移動する音が聞えてきた。

リーダーは、全員にナイトビジョンを装着するように命じた。

そして、リーダーが増援要請をしてきた3名を指さし、後を追うようハンドサインを出した。

そして、残りの者には待機するよう指示を出した。


カンカンカン・・とD515たちの後方から複数の足音が近づいてきていた。

二人は、上部からのパイプと交差する地点に到着した。

そこにはスライムたちも集まっていた。

D516「ごめんなさい。追われてここに来ました。もうすぐ、ここに追っ手がやって来ます。」

D515「ご迷惑をかけてしまい申し訳ないです・・・」

(早くポッドでお逃げなさい)ヨダが優しく言った。

D516がポッドを開け何か操作をして、2セットの生命維持装置を取り出した。

それを見たD515が「???」「えっ!?何で、維持装置を外したの?」

その時、逃げて来たパイプの奥に追っ手の影が見えた。

と、同時にD516がポッドのドアをバタンと閉めた。

そして、プログラムされたポッドは、追っ手に向かって勢いよく飛び出していったのだ。

ガード「あの野郎どもっ!」と毒づいて追ってきた3名の目に、前からグングンと迫って来るポッドが見えた。

パイプは太いとはいえパイプとポッドの隙間は極わずか。

「ぎぇええ・・」と叫びUターンしたが、後ろから迫ってくるもの凄い勢いのポッドに3名は弾き飛ばされてしまった。

弾き飛ばされた一名は、パイプの上部に当たって落下し、ポッドと下部のパイプの間に挟まってズルズルと引きずられたが、ポッドの推進力が強すぎ遂には引きずり込まれ圧死してしまった。

1名が引きずられたので、一時ポッドのスピードは少し落ちていた。

遠くに飛ばされた2名は辛くも立ち上がったが、またスピードが増してきたポッドに再び弾き飛ばされてしまったのだった。

そして、後方の直角に曲がっていたパイプの内壁に激突したのだった。

1名は壁に激突し即死だったが、その足元に潜り込むように倒れた1名は、幸運にも体を思いっきり打ち付け、気を失っていたが生きてはいた。

ただ骨折しており、おまけにパイプとポッドに足を挟まれて動けなかった。

数分後、意識を取り戻したガードが、痛みを堪えてワイヤレスで助けを呼んだ。

その救助要請を受けたゲートカのリーダーが、割れ目近くで見張らせていた2名に助けに行くように指示を出した。

2名がパイプに入り、激突した現場の近くまでやって来た。

ポッドからは煙が出ており、辺りには焦げた臭いが充満し、時折バチバチとブルーの電気が空中に向かい爆ぜていた。

2名が下で唸っている1名を引き出そうとした時、”ボフッ”っと、くぐもった音がした瞬間、大きな火花が飛び散った。

途端、閃光が走りポットは轟音と共に爆発したのだ。

炎が一気に燃え上がり、救助に来た者までもを巻き込んで、絶叫諸共全てが炎の中に飲み込まれていったのだった。

爆発音を聞いたスライムのルイは歓喜の雄叫びを上げた。

(ざまあみろ!!)


D515が恨めし気に「どうして逃げなかったんだい?」

D516「僕たちはそれで良いけど、残されたスライムさんたちはどうなる?」

D515「・・・」

D516「だろ?僕たちがここから逃げれば、追っ手は僕たちに関心が向くからスライムさんたちに意識は回らないでしょう。」

D515「何か善後策はある?」

D516「ここから上がって、スペースポートのバンカーに停めてある客のスペースシップに潜り込もうと思う。」

D515「万が一、潜り込めてもそのあと見つかるかもしれないし、おまけに安全かどうだか・・・」

D516「無人の小型機もあるかもね。とにかく、やってみなきゃ。」

D515「賭けだな・・でも、今は516の案に乗るよ!」

と、二人は握手をしてお互いのスーツに生命維持装置を取り付けた。

ヨダ(上に行くには、このパイプから出て他のパイプの上を登って行かなきゃダメだ。わしが案内してやる。だが、ちょっと待て・・・これを持っていけ。)

そう言ってヨダがD516に粘土状の物と金属片を、D515には道具が入っている巾着袋をそれぞれに渡した。

「ありがとうございます。」と、D515は袋を腰に結わえた。

「エッ!?これは何ですか?」不思議そうにD516はヨダに尋ねた。

ヨダ(これは、前に話したポッドに付いていた爆薬だ。金属片は後から落ちてきた起爆装置だ。)

D515「それって、ヤバいヤツじゃん!!」

ヨダ(だからD516君にじゃ。何かの役に立つじゃろう・・・じゃあ、行こうか。)

と、ヨダたちは二人をパイプが外れているところへと連れて行った。

ヨダ(これから他の者たちは、散開して追っ手を足止めしてやってくれ。)

(分かった!)

(了解した!)

(了!)

そう言ってスライムたちは思い思いの方へと消えて行った。

ヨダ(よし!ここから登っていくぞ。)

そこは、鉄柱に点検用の梯子が付けられていた。

ヨダは他のスライムよりは年を取っているが、ヨダは、ぴょんぴょんと軽快に梯子を登っていく。

二人も負けじと後に続いたが、慣れないせいで進み方はゆっくりだった。が、追っ手から逃れたい一心で黙々と梯子を登っていった。

ヨダ(もっとスピードを上げるんじゃ。すぐに追いつかれるぞ。)

D515が「ふぁ~い。」と情けない返事をした。

登っている途中、鉄柱のすぐ脇に休むには頃合いの円柱状のタンクがあった。

D515「ヨダさん。そこのタンクの上で一休みしましょう。」

ヨダ(そこは、ダメじゃ!!)

ヨダは、キツい口調で窘めた。

「ダメですか・・生命維持装置が重くって・・」

ヨダ(ダメじゃ。ダメじゃ・・)

と泣き言を言っているD515をD516は下から押し上げてくれて「上に足場があるからそこに捕まって。」

二人は、ようやく足場に到着した。節々が張ってパンパンだった。

ヨダ(この足場を辿って行くと上層に上れる階段があるはずじゃ)


片や爆発音を聞いたゲートカのリーダーは怒りを抑えられなかった。

部下を殺された事は勿論、”下等生物”と下に見ていた奴らにやられている不甲斐ない自分たちにも腹が立っていた。

リーダーは音声封印を解除し「副リーダーは、3名を連れてここから行け。我々3名は左から迂回する。どこかに上への通路があるはずだっ。」

一斉に「ラジャー!!」

副リーダー「我々は、2名1組でペアーを組んでお互いをサポートする。各自、銃の安全装置を確認してから背負え。登るのは、ヤツらより我々の方が有利だっ。」

「ラジャー!」

そうして、正面からは2組のペアーが左からは3名が包囲網を狭めていった。

正面からのチームで先行している1組は若いペアーだった。

若さを活かして2名はグングンと進んでいった。

後ろから副リーダーが「お前たち。速過ぎるぞっ。距離が開くと援護が出来んぞっ。」

彼らはヤドカーリ人を見下していた上、若いが故に手柄も欲しかった。

故に、副リーダーの言葉を軽く捉えてしまったのだった。

若いペアーが登ってきたパイプの上に交差しているパイプがあった。

その裏にはルイが張り付いて待ち構えていたのだ。

2名は上部のルイに気付かずに通り過ぎようとした時、上からルイの霧状の酸が降ってきた。

「ギャーーー。痛い!痛い!熱い!!」

酸の霧が襲い掛かり、あまりの痛さに2名は前足で顔や頭を抑えた。

そして、その痛みで狂ったようになり、若いペアーは足を踏み外し「ギャーーー」と断末魔を残して地面に落ちていった。

それを見ていたルイは音を立てず”スッ”と暗闇に消えて行った。


左から迂回して上への通路を見つけたリーダーを含む3名は、右の離れたところから叫び声と落下して潰れる鈍い音を聞いた。

リーダーが止まれの合図を出し「誰かやられたか・・・」

「インカムで確認しますか?」

リーダー「いや。いい。それよりも待ち伏せも警戒して進むぞっ。」

「ラジャー!」

経験のあるリーダーが先頭を務め、しんがりには中堅を置き、真ん中は若手にして慎重に進んでいった。

ポタ・ポタ・・・

しんがりを務めていた者の頭上に粘液が落ちてきた。

「何だ?」と思い見上げると、上にへばり付いている黄色いスライムのジュレがいた。

そのジュレからは、粘液がこぼれてきた。

そして、ジュレが中堅の顔を目がけて落ちてきたのだ。

突然、鼻・口を覆われたので息が出来ず声も出せない。

凄い粘着のジュレを取ろうと思いっきり引っ張ると、僅かに口の横が空いたので「フゴッ!!」と声にはならない息を吐いた。

その音に気付いた前を歩いていた若手が振り返ると、今にも仲間の頭部全体を飲み込もうとしているスライムが見えた。

「スライムに食われる!!」

若手は、中堅がスライムに食われてしまうとパニックになってしまった。

そして、持っていた銃をスライムに向け引き金を引いた。

スライムは、核にさえ当たらなければ大丈夫だが、ジュレは素早く身を捩らせて中堅の顔から剥がれた。

弾丸は、中堅の頭を打ち抜き後部の金属に当たり火花が散った。

それに気が付いたリーダーは、慌てて銃撃した者を羽交い絞めにしたが時は既に遅かった。


D515とD516の二人は、足場を渡っている時に下方から絶叫に続き銃声がするのを聞いた。

”ビクっ”となった二人は「追っ手!?急がなきゃ・・」

と足場を渡っている時、下から「あそこにいるぞ!撃て!!」

と、怒鳴り声と共に銃弾が下から唸りを上げて飛んできた。

弾が、足元のグレーチングや手すりに当たり火花が散った。

D515「ヒッ!危ない!逃げろ!」

二人は、慌てて物陰に向けダッシュした。

「痛つっ・・・」D516が唸った。「う・う・撃たれた・・・」

D515「何!どこを撃たれた?大丈夫か?」

半ベソをかきながらD516は「足を撃たれた・・・」

見ると、D516の右足の太もも近辺に穴が開いていた。

D515「痛むか?」

D516「ヒリヒリして痛いよ・・・たぶん、足の触手と触手の間だからかすり傷だと思うけど・・」

D515「次は階段だけど歩けるか?」

D516「なんとか歩けるよ。」

D515「後で見てやるから今は我慢してくれ。」

D516「分かった・・」


副リーダー「なんか、手ごたえがあった感じだな・・行くか!」

副リーダーと部下は、再び銃を担げるとスピードを上げて登り出した。

足場の左側から「撃つな!俺だ!」とリーダーと部下が姿を見せた。

足場の下から副リーダーが「隊長。先程、撃った時に手ごたえがありました。ヤツらの一名は傷を負っています。ここからは、合流して後を追いましょう。」

リーダー「了解した!上で待ってる。」

副リーダーは後から来る部下を待つため、登って来たパイプの奥にある円柱状のタンクの上に”ポーン”と飛び移った。

追いついてきた副リーダーの部下も、タンクから足場に上がるために副リーダーが乗っているタンクに飛び移った。

その途端にタンクの上部から「メリメリメリ・・・・・」と鈍い音が立ちタンクの天井が裂けてしまったのだ。

突然床が無くなり、乗っていた副リーダーと部下は、「ギエェ・・・」と叫び声を残してタンク内に落ちてしまった。

リーダー「おーい。大丈夫かっ!?」

上の足場にいるリーダーのところからは、タンクの奥が暗過ぎて確認出来なかった。

タンクの中からはゴポゴポと空気が吹き上がる音と、もがく音だけが聞こえていた。

リーダーは足場に部下を残し、柱にロープを掛け助けようと降りていった。

天井が落ちたタンクの淵に降り立ったリーダーが、再び「おーい。大丈夫か?」と声をかけた。

その声に反応しタンク内から「ゴボゴボ・・・助けてぇ~」と苦し気な声が聞こえてきた。

リーダー「待ってろ。今すぐロープを下してやるからな。」

副リーダーたちが藻掻き暴れた事が起爆剤となり、中に入っていた液体による腐食で脆くなっていた下部が臨界を迎え一気に液体が漏れ出し、遂にタンクの底が破裂し崩れ落ちたのだ。

そして副リーダー達の絶叫が、崩れ落ちる音と共に下方へと消えていった。

宙ぶらりんのリーダーは、「はぁ~」と首を横に振りロープを登っていった。

戻ったリーダーは「追うぞっ!!」と、自身と部下を鼓舞するかのように大声を出し気合を入れ直した。


D515たちとヨダは、合流してきたスライムのルイと黄色いスライムのジュレを伴って上へと続く螺旋階段を登っていった。

階段の最上部まで来ると、そこから隔壁の扉がある足場に行くには、壁に打ち付けられた梯子を登るだけだった。

D515[足は大丈夫か?登れる?」

D516「右足で踏ん張ると痛いけど大丈夫だよ。」

D515「そうか。お前が先に行けよ。今度は、俺が下から押してやるよ。」

D516「ありがとう・・・」

そうしてヨダを先頭に、ジュレを頭に乗せたD516が、しんがりはルイを頭に乗せたD515が続いた。

D516は手で梯子の支柱を掴み、足を庇いながら登っていった。

片やD515は、「暗いから分からないけど、下を見たら怖いだろうな・・・」と言いながら手で踏ざんを掴んで登っていった。


もう少しで隔壁という時に、下からゲートカのリーダーと部下が「待てぇ~!!」と、もの凄い勢いで梯子を登ってきた。

そして、「捕まえた!」リーダーが最後尾のD515の右足を掴みニヤッと笑った。

掴まれた勢いでD515の左足は滑り、踏ざんから外れてしまい宙ぶらりん状態になってしまった。

慌てたD515は、すぐさま左足を掛け直し、右足を振りほどこうと足を懸命に左右に揺さぶった。

揺さぶられたリーダーは「絶対、捕まえてやるぞっ!」と、より一層戦闘本能が噴出してきたのだった。

そしてリーダーは、歯を食いしばりD515を剥がそうと更に体重をかけてきた。

そのパワーに思わずD515は、踏ざんから滑り落ち1段下がってしまったのだ。

「危ねぇー落ちるところだった・・・」とD515は落ちる恐怖にドキドキした。

と同時に、落とされまいとアドレナリン全開の状態で奮闘している。

ルイ(あまり足を振り回されると、私の酸が君にまで掛かってしまう・・・)

D515「分かるけど、今は無理だ・・・」

D515「516。俺を放って先に行け!!」

D516が降りてきて「両手で僕の右足を持て!思いっ切り引き上げるから!」

D515「無理だ516。怪我しているその足じゃ・・・」

D516「とにかく、落ちないようにしっかり握って!!」

D515「クソ・クソ・・・」

と、振りほどこうと藻掻いているD515の後ろを、黒い影が”スッー”と上から凄い勢いで落ちていったのだ。

それはD516が、両手両足で支柱を伝い滑らせ、ゲートカのリーダー目がけて体落としを食らわしたのだった。

D516の体当たりを顔面にモロに食らったリーダーは、手を放してしまい下からよじ登ってきている部下の頭上に落ちてしまった。

部下もその激突には耐えられず、巻き込まれながら落ちていった。

ハッとしたD515は「516・・・」と下を見ると、数段下に頭部と梯子をジュレによって貼り付けられ、梯子にしがみ付いているD516の姿があった。

D515「フゥ~助かった・・・」と、梯子を下りて行ってD516の手を取り上へと引き上げた。

「何であんな無茶するんだよ!落ちたらどうするんだっ!」とD516に言った。

D516「じゃ、515が逆の立場だったらどうする?僕を放っとくかい?」

「・・・」D515は言葉が出なかった。

D516「僕たち生まれは違うけど、兄弟だと思ってるんだよ!」

D515「兄弟って・・ありがとぅ・・」と聞こえないぐらいの声で呟いた。

ヨダ(互いを思いやる心が奇跡を起こしたんじゃな~)

そして一行は、隔壁扉の前に到達した。

ヨダ(よく頑張ったな。そうじゃ、そうじゃ、D516君の傷の手当じゃ・・・ジュレ診てやっってくれないか。)

ジュレが、D516のところにやってきて(見せてください。)と、自身の体の一部を触手のように伸ばして穴の開いたスーツに入れた。

傷口を触られたD516が「痛つっ・・・」と、あまりの痛さに涙を流した。

ジュレ(すみません・・・私の出す粘液で患部をコーティングします。少し沁みますがね。)

ジュレの粘液が傷口に塗られると患部周辺が熱を持ってきたが、徐々に痛みは薄れていった。

D516「ヒリヒリした痛みはなくなってきました。ありがとうございます。」

ジュレ(粘液には殺菌効果もあるので化膿はしないよ。それと、凝固が強い粘液でスーツの穴を塞いであげる。)

そう言ってジュレは、コーキング系の粘液を出して穴を埋めた。

D516「ジュレさん。ありがとうございます!」

D515「ヨダさん、みなさん、ありがとうございました。」

D516「みなさんが助けてくれなかったら僕たちはここまで来ることが出来ませんでした。」

そう言って、二人はスライムたちに深々とお辞儀をした。

ヨダ(ほほほ・・だが、わしらが出来るのはここまでじゃ。だが、ルイはお主たちと一緒に行きたいと言っているが・・・どうじゃ?)

二人は「大歓迎です!よろしくお願いします。」

ヨダ(ルイは、以前脱出を試みているから抜け道を知っているそうじゃ。)

D516「それは心強い!!」

ルイ(みんな。今までありがとう!それから、D515のお二人さん。これからよろしく!)

そう言って、ルイはピョンとD515のヘルメットに飛び乗った。

ヨダ(今日は、追われていたからのぉ・・もう今は深夜じゃ。外は寒いぞっ。明け方まで待つか?)

D515「スペーススーツを着ているから大丈夫です。」

D516「今だと、ゲートカたちも寝ている時間ですから。」

ヨダ(そうか、分かった。お主ら達者でなっ!)

そうして二人はルイと隔壁に入り、まだ暗い地上へと出ていった。


その日の半日前・・・

昼過ぎに社屋の最上階の一室で、クレーターから出てくるトレーラーを見ながら2体のゲートカ星人が話をしていた。

「ボス、売り上げが前年度より+20%も伸びています。廃品回収、リサイクル品、再生金属類などの販売共に順調に利益は上がってきています。ただ・・・」

小柄で腹がポッコリと出ている幹部のウロタが、愛想笑いを浮かべながらボスのシキーダに報告した。

「ただ・・・」

頭部にちょろっと生えた髪の毛をセンター分けにし、ネズミの尻尾のような髭を生やし、ワンポイントの蝶ネクタイ姿の長身のシキーダーが、ウロタをギロッと睨みつけて言った。

ビクっとしながらウロタが「シップの部品を盗んでいる輩がいます・・」

シキーダの目がスッと細まった。

「チッ、けしからん野郎だっ!!」

「作業員らの宿舎を抜き打ち検査しますか?」

シキーダーは首を横に振り「センサーを今までのタイプのものでなく別のタイプのものに取り替えなさい。」

「別のタイプにですか?」

「今までのセンサーですり抜けてきたのですからね・・」

「了解致しました。」

「害獣狩りですよ・・フフフ」

いつもは冷笑的なシキーダーがニンマリと笑って「実は、今日は気分が良いんですよ。注文していた最上級のスターシップが納品されたのですから・・」

ウロタ「あっ、あのシップ、めちゃカッコいいですね。外はボスのエンブレムもペインティングされています。最高の船です!!」最上級の笑顔で、ここぞとばかりに”よいしょ”をしてご機嫌を取ろうとした。

「ところで、シップに”例の荷物”は積み込んだか?」

「今は、最終チェック中です。エネルギーをフルにするには時間がかかります。例の荷物を積み込むのは夜になります。人目を避けたいですし、なにしろ生ものですから・・ヒヒヒ・・」

と、いやらしい笑い方をしながらウロタは続けた。

「時間的に明日の朝になります。それからボスが、シップのコンピューターに生体登録すると完了になります。」

「明日かぁ・・焦らすのぉ・・」

いつもはクールなシキーダーの口元は緩みぱなしだった。


隔壁から出たD515たち二人とルイは、そこから岩場を慎重に降りて行った。

暗闇であまり見えないが、前方のクレーターの上部から積み上げられたスペースシップのシルエットが見えた。

また斜め右の前方には、クレーターから少し頭の出たタンクの影が見えた。

前方の大きな道を隔てると、社屋が収まっている大きな岩場がある。

ルイを頭に乗せたD516たちは暗闇の中、道を横切り大きな岩場の裏にあるスペースポートに向かって進んで行った。

スペースポートのまわりのフェンスには、所々に赤外線の防犯カメラや感知センサーが取り付けられている。

それで三人は、センサーに引っ掛からないようにフェンスから距離を取らなければならなかった。

そのため荒地を迂回しながらバンカーの奥に向かって歩を進めていったのだ。

ルイが歩きながら話始めた。(以前にポッドを奪って脱出を謀ろうと、スペースポートに侵入しようとした事は前に言ったよね。)

D516「はい。伺いました。」

ルイ(我々五名は1つしかないジェットパックを持って、フェンスを飛び越え侵入しようと、人気のないスペースポート奥に向かって歩いていたんだ。)

D515「ジェットパック1つで五名はキツいんじゃない?」

ルイ(そうなんだよ。実験的に飛んでみるとステタは重力が弱いから、一人を抱えてフェンスを飛び越えられる高さは出たけど、その間に見つかる危険性や燃料的にもキツいので一か八かの賭けだったんだ。)

D516「一人1つのジェットパックがあればね・・・」

ルイ(それで我々が奥に向かって歩いていると、先行していた一名が、スペースポートの一番奥にある4番目のバンカーを通り過ぎたところで急に消えたんだ・・・)

D515「エッ!?消えたって、対侵入のビーム兵器か何かで?」

ルイ(はっはは・・・違う。違う。穴に落っこちたんだよ。)

D515「穴!?」

ルイ(そう。穴だ。先人たちが鉱物を求めて探索した坑道が、この下に縦横無尽に走っているんだ。その縦穴に落ちたんだ。)

D516「あっ、落とし穴に落ちた感じかな。」

ルイ(そう。で、我々も下りていくと、坑道が蜘蛛の巣のように走っているのが確認出来たんだ。皆で「ここから侵入しよう。」って計画変更になって我々はスペースポートに向かっている道を進んで行ったんだ。)

D516「飛び越えるより見つかりにくいし、燃料問題も解決出来ますしねっ。」

ルイ(災い転じてって事だよ。)

D516「穴からスペースポートに出る時はどうだったのですか?」

ルイ(30mほど進んだ辺りに、掘っている途中で放棄された縦穴があったんだ。その続きを掘っていくしかなかったんだ。)

D515「何日も掛かったの?」

ルイ(交代しながら3日掛かった。でも、3日で済んで良かったよ。道具や水も食料も最低限しか持って行かなかったので大変だったけど、先人が掘り進んでくれていたので助かったんだ。)

D516「ところで、ルイさん。その縦穴の存在は、ゲートカ人に知られているんじゃないのでしょうか?」

ルイ(いや。我々は、ポッドを動かす時に捕まってしまったが、侵入経路を喋っていないし、入口の縦穴は岩で塞いでいる。また、バンカー内の出口も同様にしているから見つかっていないと思うけど・・・)

D515は、祈るように「どうか、見つかっていませんように・・・」

D516は、冷静に「とりあえずは、行ってみないとね。」

そうこうしているうちに三人は目的地付近に着いた。

ルイはD515のヘルメットから地面に降り、目印を求めて辺りを隈なく探し始めた。

ルイ(あった!あった!ここだ。この4つの異なる石で囲ったところだ。)

ルイが指し示した所には、4つの石に囲まれ穴を塞いでいる大きな石が据えられていた。

二人でその大きな石の一方を持ち上げると、数メートル下へと続く穴が出現したのだ。

ルイ(おや!?バンカーが5棟?)

ルイは知らなかったが、スペースポート内には5棟目の新しいバンカーが建てられていたのだった。

それを見たルイは愕然として「我々の時にバンカーは4棟しかなかったのに・・・」と絶句してしまった。

「最近、シキーダーがプライベート用に建てたらしいっす。何か拙い事でも?」D515は呑気に答えた。

ルイ(出口が塞がれている可能性が・・・)

D515「エッ!?それってヤバいんじゃねぇ?」

あまりのことに、そこにいた三人は固まってしまった。

D515「で、で、でも、シキーダーって、超ドケチって聞くからバンカーの床はケチってるかも・・・」

「それは、希望的観測だね・・・ウム・・・」いつもは冷静なD516までも押し黙ってしまったのだ。

D515「でも、ここに居ても仕方ないし、明るくなるとヤツらに見つかる危険性があるから、一旦下に降りてみないか?」

ショックを隠せない三人は、その後は無言で下りて行った。

D515(ヤバい!どうしよう?穴から出られなくなる。みんなも落ち込んでいるし・・・ここで俺までも落ち込んでしまったら自滅してしまうじゃないか!)

そこでD515は、努めて明るく振る舞う事を決意した。

D515「おい、D516。いざとなったら、以前のルイさんたちみたいに穴を掘ろうじゃないか!」と、”タガネ”と”ハンマー”を見せた。

D516「それ、どうしたの?」

D515「やだなぁ。別れ際に長老が持たせてくれたじゃないか。」

「あっ!」D516の顔が輝いた。「いけるかも!」

D515「何?何?何?」

「これこれ、C4・C4!!」と、D516は長老に貰った爆薬を取り出した。

「これってヤバいヤツじゃん!」嬉しそうにD515は言った。

そうして三人は、出口の縦穴目指して急いだ。

目的の縦穴に到達して上ってみると、ほぼ丸い穴の上にコンクリートの床が乗っかっていた。

「この時間、ヤツらは居ないと思う。朝にならないうちに早くやってしまおう。」そう言ってD515は、コンクリート目がけタガネとハンマーを振るった。

そして、窪みが出来ると「D516。あとは頼んだ。」と、下りてきた。

入れ替わりにD516が上り、D515の掘った窪みに貰ったC4を押し込み、そこに持ってきた信管を全て差し込んだ。

少し身軽になったD516は、穴の上から滑り落ちるように下りて来、二人と共に安全な位置まで後退して起爆装置を取り出した。

「良いかい?では、いくよ!」そう言ってD516は、起爆装置のスイッチをポチッと押した。

「プシュ~~~」と、気の抜けた音がしたのだ。

D516「あれっ!?爆発しない・・・」

D515「エッ!?まさかの不発?」

ルイ(我々を突き落としたゲートカ人たちも「くそっ!不発だっ!」と怒ってましたから・・・)

D516「おかしいなぁ・・・その話を聞いたから信管を全て差し込んだのに・・・」

D515「もう一度上って見てみる?」

そう言って三人が縦穴向いて歩き出した時、諦めきれないD516が「おっかしいなぁ・・・」と、もう一度起爆装置のスイッチを勢いよくカチッと押した。

その時、、、

「ドーン!!ボフッ!!」

と、爆発音と共にコンクリート片や塊が降り注ぎ、埃がモウモウと坑道内に瞬く間に広がった。

ルイ(何が起こった!?)

D515「耳がキーンとなって聞こえねぇ~」

縦穴の下にはコンクリート片が散乱していた。

D516が縦穴の下から見上げると、ポッカリと穴が開き爆発で床を貫通しているのが見えた。

D516「やったぁ!!これで出られる!」

D515「バンカーに誰も居ない事を祈るのみ・・・」

ルイ(人が居る気配は感じられないなぁ・・・)

D515「じゃあ、行こうかっ!」

喜びもそこそこに、三人は上に向かって上っていった。

D515が恐る恐る穴から顔を出すと、バンカー内の照明が落とされ、暗がりの中誘導灯だけが光を放っている。

幸いなことに、バンカーには誰も居なかったのだ。

上がった三人の目に、誘導灯の僅かな光に照らされた機体が朧げに見えた。

その機体の大きさは準中型サイズで、形状はシロイルカにマンタを被せたようなデザインのデルタ型のスペースシップだった。

機体は濃色に塗られており、翼部に金色と赤色と黒色で描かれたドラゴンが、赤色と黄色の炎を吐いている派手なペイントが見えた。

三人が機体の傍まで行きルイが気配を探っても、機体の中にも何かが動き回るような様子はなかった。

ルイ(爆発音が漏れている可能性があります。急ぎましょう!)

機体後部は貨物搭載口になっており、中央付近の左側にに搭乗用のドアがあった。

ドアについているハンドルを回すと、カチっと音がしてロックが外れドアがゆっくりと手前に動いた。

三人は急いで中に入りドアを閉めた。

すると、「シュー」と少し大きな音がしてエアーが入り、数秒後に内扉が自動で開いた。

入ってみると、中央に通路があり左右にドアが見て取れた。

構わず三人は通路を進んで行くと、コックピットのドアが自動で開き照明が灯った。

そして、計器に自動的に電源が入った途端、船のコンピューターが突然喋り出したのだ。

急に喋り始めたので、三人はビクッとして身構えた。

船内に「この度は、エクセレント社の最高級スターシップをご購入いただきありがとうございました。マスターのパートナーとして末永くお使いいただけますようお願い致します。」

続けて、「あっ、申し遅れました・・私はコンピューターの『パフ』でございます。完璧・パーフェクトから名付けられました。今後はパフとお呼びください。機内のエアーは調整済みですのでスペーススーツをお脱ぎくださっても大丈夫です。」

「了解です・・・」そうして二人は重いスーツを脱いだ。

パフ「次にマスターの生体登録をお願いいたします。前に緑色に光っている部分にマスターの身体を当ててください。どの部分でも登録可能です。」

パフ「それと、このシップに船名を付けていただきたいです。後でも構いません。」

D515「船名ね・・・パフで良いんじゃないの?」

パフ「私は、高性能のコンピューターです。船名は、また別に付けて頂きたいのですが・・・」

と、その時!!

ファン!ファン!ファン!

大音量で一帯に警戒アラートが鳴り響いたのだ!

ルイ(お二人とも急いでくだい!)

D515「さっきの爆発音が聞こえたんだっ!」

D516「急ごう!!」

焦りながらも二人はそれぞれ生体登録を済ませ、

パフは焦ることなく「最後にお二人のお名前の登録をお願い致します。」

「D515!」

「D516!」

「D515様とD516様ですね。お名前は後でも変更可能でございます。これで登録は終了でございます。」と、パフは優雅な口調で喋った。

「次に操縦や操作方法についてですが、オートとマニュアルが・・・」

と、パフが優雅に説明していると、バンカー内に煌々と照明が灯ったのだ。

船の外部を映し出すモニターに、ゴリ隊長率いる武装した十数名のゲートカのガードが、ドアからバンカーにドカドカと流れ込んでくる姿が映し出されていた。

彼らは、正面に隊長・ギルム・ガルムを残し他の者はシップの周りを取り囲むように散開した。

そして、リーダのゴリ隊長が地声で「船内にいる者に告げる!!直ちにそこから出てきなさい!!その船はシキーダー様の所有の船である!!」

D515は慌てて「パフ!急いで全てのドアをロックして!!」

「了解!!」と音声と共に船体にロック音が響いた。

外のガードたちは「あいつら出てくるどころかロックしやがった!」

「ハチの巣にしてやろうか!」と、ギルムが威嚇するため上に向けて銃を放った。

「バカもん!シキーダー様のスターシップに当たったらどうするんだっ!!」ゴリ隊長の怒鳴り声がバンカー内に響いた。

「ロック解除が出来るヤツが来るまで待て!」


と、船外では包囲網が敷かれる中D516は「ヤバいなぁ・・どうにかして扉を開けたい!!」

D515は「パフ、この船にミサイルとかレーザーって装備されている?扉をぶっ飛ばせるような・・」

「残念ながら、当船はそういった武装はなされておりません。最新鋭のステルス(カメレオン)機能の他、防御用のチャフ・フレアとスモークぐらいです。あとは、安全のため装甲は頑丈に作られています。当船は、優雅な宇宙クルーズを楽しんでいただけるよう設計されております。」

D516「船外用マニュピレーターとか?」

パフ「ございません。」

D515「どうしよう・・」

そうこうしているうちに報告を受けたシキーダーとウロタが、ロック解除が出来る者を伴ってローバーでやってきた。

D515「ヤバいよ!ヤバいよ!」

うろたえる二人にパフは「マスター。開閉だけで良いのでしたら開閉部をハッキングして開けることは出来ますが・・・」

D515「なぁにぃ!!出来るの!?」

D516「早く!やって!」

パフ「了解致しました。」


カシャーン!ガリガリ、ゴゴゴォゴゴゴォ・・・

モーターが唸り出しバンカーの大きな扉が左右に開いた。


D515「おぉ、開いた!開いた!」

パフ「私は、高性能ですから!フッフフ・・・」

D516「パフ。この船を前に進ませるにはどこを操作したらいい?」

パフ「マスターが指示してくだされば私が動かします。」

D516「とりあえずバンカーの外に出て、それから宇宙に向かって飛んで。」

パフ「了解致しました。」

と、パフの返事が終わらないうちに、機体がフッと浮き上がり低速で前進を始めた。

包囲していたガードたちが「わ、わっ、動いたぞっ。」と色めき立った。

ガードA「ヤバい!ヤツらが逃げるぞー。」

ガードB「ワイヤーをかけましょう!!」

ゴリ隊長「ダメだ!ダメだ!傷が付く!誰か、網を持って来い!」

血相を変えたシキーダーが「何としてでもヤツらを止めろ!!だが、傷を付けるな!!止めた者には報奨金をたんまりとやるからなっ!!」

その言葉に数名のガードたちが、スターシップ目がけて飛びかかっていったのだ。

内二名はスターシップに届かず落下したが、三名は辛うじて乗ることに成功したのだ。

だが、対ビーム兵器用に塗布されている特殊塗料のせいで、乗っているガードたちはまるでツルツル滑る氷上で思うように動けない状態だった。

そして、パフが飛び立とうと少し機首を上げると、乗っかっているガードたちが次々と滑り落ちていったのだ。

誰も動き出したスターシップを止めることが出来ず、D515たち三人を乗せたスターシップは悠々と宇宙に向けて優雅に舞い上がっていった。


上空に上がるとパフが「目的地をセットしてください。」

D516「惑星ヤドカーリ、王都があるシロガイでお願い。王都のはずれで下してくれたらありがたいのだけど・・・」

パフ「了解致しました。では、目的地に向け出発致します。」

「やったぁ~」二人から安堵の言葉が漏れた。


「チビルを上げろ!!ヤツらを追うんだっ!!」駐機場でシキーダーが怒り狂いながら叫んでいた。

「クソッ!レーザーでフラップを故障させるとか航行不能にしろっ!!損害は最小限にしろっ。これは、絶対命令だっ!!」

その数分後、軽宇宙戦闘機『チビル』が2機、轟音を立て緊急発進した。

チビルの見た目は巻き貝型の軽戦闘機で、武装は上部に二門の機銃と下部に一門のレーザーを装備している。

更に前部分はドリルとなっており、標的艦に突き刺さるとドリルが回転して食い込んでいき、すっぽりと食い込むとドリル部分が花が咲いたように開きそこから標的の船内に侵入していけるのだ。


「やれやれ・・」D515たち二人は、なんとか宇宙に上がってこれたので船内探索でもしようかと話し合ってたその時、船内にアラートが鳴り響いた。

パフ「こちらに向かって2機が急速に接近中!!」

D515「2機!戦闘機・・・?」

D516が後部モニターに切り替えると、キラっと光る2つの機影が見えた。

D516「パフ!逃げて!!」

パフ「了解致しました。ベルトをお締めください。目的地設定を解除して回避行動に移ります。」

と、言い終わるや否や急激にスピードを上げ、少し距離が出てから右旋回した。

チビルのパイロットAが「チッ、気づかれた。ケツに食らい付くぞっ。」


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