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固有能力『変身』を使いヒーロー活動をしていた私はどうやらファンタジーな異世界でも最強のようです  作者: 遠野紫


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43 レイナの賭け

「貴様だけは……絶対に許さん!!」


「かかってきなよ。この魔法を避けられたらの話だけど」


 そう言うと魔人王は両手に魔力を込め、まるで雨のようにレイナに向けて大量の魔法を浴びせ始めた。


「くっ……先ほどよりも遥かに密度と速度が……!」


 その魔法は先程までの魔人王のそれとは比べようもない程に数も速さも数段階上昇していた。

 魔人王程では無いにしろ、生まれつきとてつもない魔力量と魔法の才を誇っていたダニエルが吸収されてしまったのだ。

 それほどの強化に繋がってもおかしくは無かった。


「ほらほら、早く攻撃してこないと負けちゃうよ~」


 魔法の対処に苦戦し攻めあぐねていたレイナを魔人王が煽る。

 彼女の言葉の通り、このまま魔法を受け続ければレイナは体力切れを起こしてしまうだろう。

 そしてそれは魔法を避けることが出来なくなることと同義で有り、彼女の敗北を意味することになる。


 それでも彼女には一つだけ、魔人王に勝つための方法があった。


「賭けに出るしかないか……!」

 

 その瞬間、レイナはこれまでとは違って魔法を避けることなく一直線に魔人王の元へと突き進むのだった。


「えっ!?」


 その行動があまりに予想外過ぎたのか、魔人王は驚いて攻撃を止めてしまう。

 しかしすぐに我に返ると、向かって来る彼女に対して再び魔法を放つのだった。


「怒り過ぎて頭までざこざこになっちゃったの? 馬鹿正直に真正面から来たらこうなるに決まってるじゃん!」


 大量の魔法によりレイナの姿が見えなくなる。

 これだけの魔法を無防備に受ければ流石に無事では済まないだろうと、魔人王はそう思っていた。


 ……その結果、彼女は慢心してしまう。


「っ!?」


 レイナを完全に倒したと思い込んでいた彼女は、突如魔法の中から飛び出してきたレイナに対応出来無かったのだ。

 

 もちろんレイナにとってもこの行動は賭けであった。

 強力な魔法を無防備に受けてしまった彼女は全身にこれでもかと言う程の傷を負っており、もう少し魔人王の魔法の威力が強大であればその命は無かっただろう。

 だがそれだけリスクのある賭けだからこそ、魔人王の意表を突くことが出来たのだった。


「ようやくここまで近づけたぞ!」


「うぐっ……! ぁ゛ぁ゛っ!?」


 魔人王へと肉薄することに成功したレイナはその鋭い牙で魔人王の右腕に噛みついた。


 最強の魔術師として五大魔将になった彼女だが、その体はただの人間とそう大差はない。

 そのため高度な魔法で肉体を超絶強化しているのだが……どうやらレイナの力はそれ以上に強かったようで、彼女の右腕はブチブチと音を立てながら少しずつ千切れていくのだった。


「い゛た゛い゛っ……!! や゛め゛て゛! いや゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!!」


 大男でも耐えられぬであろうその痛みに年端も行かぬ少女である彼女が耐えられるはずもなく、魔人王はただただ泣き叫ぶ。


「は゛な゛し゛て゛!! は゛な゛し゛て゛よ゛ぉ゛ぉ゛!!」


 そんな魔人王は攻撃をやめさせるためにレイナの顔をベシベシと殴り始めた。

 しかし非力な彼女がいくらレイナの顔を殴った所で攻撃を止められるはずが無かった。


「う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!?」


 抵抗は一切意味をなさず、とうとう彼女の右腕は完全に千切られてしまうのだった。


「酷い゛ぃ゛! こんなのあんまりだよ゛ぉ゛ぉ゛!」


 千切れた腕の断面を抑えながら魔人王はそう叫ぶ。

 だがそれがレイナをさらに怒らせた。


「酷いだと……!? 貴様のせいでブルーローズ家は……兄上はあんなことになってしまったのだ!」


「そんなこと、私には関係ないもん……。私は、ひぐっ……よわよわな人間を……えぐっ、なぶり殺しにしてきただけなのにぃ……」


 出血多量によって薄れる意識の中、痛覚すらも無くなりつつある魔人王は一切悪びれる様子も無くそう言うのだった。

 幼少期から五大魔将として生きてきた彼女にとってはそれが当たり前のことであったのだ。

 

 それが的確にレイナの地雷を踏んでいく。


「……この分だと貴様がこれまでに行った所業はきっとこの程度ではないのだろう。それなのに自分だけはそんな目に遭わないと、本気でそう思っていたのか?」 


「当然でしょ……ぐすっ、なんで私がこんな目に遭わないといけないのよ……」

 

「……そうか。貴様にはどれだけ言っても無駄なようだ。では……これで終わらせるとしよう」


 これ以上話した所で意味は無いと思ったレイナは魔人王の首を噛み千切るために一際大きく口を開けた。


 ……その時である。


「おっと、そこまでだ」


 魔人王が現れた時と同じように、闘技場内に謎の声が響いたのだった。

本作をお読みいただき誠にありがとうございます。

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