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究極のアイドル

作者: 空川 億里

 2101年、新世紀のアイドルが誕生した。それは、涼葉すずはだ。涼葉はパースノイドと呼ばれる人間そっくりの人造人間である。


 見かけは、16歳の美少女だが、工場で生を受けたのは、わずか1年前だった。


 黒く流れるストレートのつややかなロングヘア、ナツメを思わせる大粒の目に、愛らしい鼻。


 ふっくらとした薄桃色の桜貝のような唇に、梨の花よりも白い肌。やわらかな両手の先には、貝殻のようなピンクの爪。凉葉はデビューした途端、すぐに人気が出た。


 「ロボットのアイドルなんて」という批判もあったが、何しろパースノイドだけあって排泄もしないし、恋愛もしないのだ。


 ある意味理想のスターと言えた。私は彼女のバックにいる芸能事務所の社長である。凉葉のライブは毎回満員だった。


 彼女の出る配信ホロ動画の再生回数も記録的な数になり、ホロテレビで高視聴率を叩き出し、ホロムービーの観客動員数も好調なのに、気分をよくしていた。


 日本ばかりかアメリカ、ロシア、ウクライナ、フランス、ドイツ、中国、台湾、統一コリア等、世界中で人気が出たのだ。


 だが私は、ある心配をしだしていた。凉葉は、あまりにも人間に似ている。


 これほど人にそっくりなら、やがては彼女の方が、生身の男に恋するケースもあるんじゃないか?


 私はそんな疑念を、凉葉を開発した尾留川おるかわ博士にぶつけてみた。


「それなら大丈夫です」


 尾留川は、断定する。


「凉葉には、生殖器官がありません。人間の女性なら必ず存在する性欲がないのです。なので誰かに恋することはありえません」


「プラトニック・ラブというのもないのかね?」


「男女を問わず恋愛感情が起きないよう、思考にブロックがかかるようになっているから大丈夫です」


 博士の言葉通り凉葉は恋愛スキャンダルを起こす事なく、順調に人気を維持していた。


 寝るまもないくらいの忙しさだが、人と違い睡眠の必要がないので問題ない。パースノイドなので、麻薬に手を出す事もない。


 開発に要した金額は大きかったが、すでに投資した以上の利益を得ていたのだ。


 凉葉のデビューから1年が経過した。私は、さらに欲が出る。


 女のアイドルも良いが、凉葉の男版のパースノイドをアイドルとしてデビューさせ、ひと稼ぎしようともくろんだのだ。


 そこで再び尾留川博士に、開発を依頼した。そして現れたパースノイドの男版アイドルは、シュウと名づけられ、やはりたちまち人気となる。


 私は、笑いが止まらなかった。凉葉もシュウも開発に金がかかったが、それ以上の大きな利益をもたらしてくれる。


 人間と違って、こちらの言う事を何でも聞くし、自殺する心配もない。まさに理想のスターだ。そんなある日の事である。


 涼葉のマネージャーが血相を変えて、私のオフィスにかけこんできた。


「一体どうした?」


「た、大変です! 涼葉とシュウが失踪しました!」


「なんだと? 誘拐でもされたのか? 護衛ロボットが四六時中見張ってたろう」


「こ、これを見てください」


 震える手で、マネージャーが私に一通の手紙を見せた。どうやら置手紙のようだ。それには以下のような文面が、書かれていた。


『社長、今までありがとうございます。私を開発し、製造してくださって感謝しています。アイドルとして忙しくも楽しい時間を過ごしてきましたが、私はあまりにも性格が人間に近くなったようです。それでも人間に恋をしないよう精神にブレーキがかかってましたが、相手がシュウなら別でした。なので2人で駆け落ちします』

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― 新着の感想 ―
面白い題材ですね! ロボットアイドルが「人間には恋をしない」と設計されているのに、同じく人工の存在に恋をしてしまう、というひねりが効いていて、読み手の想像を広げてくれます。 読み進めるほどに、理想と…
1行空けるだけでとても読みやすくなりました^_^ありがとうございます、これからの作品が楽しみになりました(^^)
読んでみました。面白い設定ですね。ほかの作品も読んだのですが、文章やセリフの間に空白の行間をいれるともっと読みやすいとおもいます。
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