そんないやしない君はどこで探せばいい
――君がいてくれたから、ここまでこられた。
と、歌を聴いているとそんな歌詞が流れて来た。
感動的だ、扇情的だ、涙が出そう。
この曲は悲哀的な曲だから、曲の物語はバッドエンド的なものだから。
悲しかったな…切ないな…
そんな人を…君がいてくれたからと言える人を無くしたから。
奇跡は起きず、残された者はのうのうと、亡くした人を悲痛に思いながらも…囚われながらも食っちゃ寝な日々を過ごす。
何ともリアルで心をえぐりに来る歌だ。
凄いな本当に…ただ一曲、一曲だけの時間でここまでの物語表現した。
しかも曲としても凄く素晴らしいくって、聞き入れたよ。
何とか我慢して、涙を零れないようにする。
本当に…凄い人っているものだね。
才能…だけじゃないだろうな…きっと。
きっと自分なんかじゃ想像もうできないような努力やら経験やらを積んで来たんだろうな…
はあ…
溜息をつき、ビールを口に運ぶ。
不味いな…
結構度数は高いらしく、二、三口目に既に頭がクラクラして来た。
如何せん初めて飲むんだ仕方がない。
もともとアルコールに興味ないし、炭酸だって飲めない…あのしゅわしゅわとした感覚がどうしても苦手だよな…
周りにの人はみんな美味い美味いって言うけどな…
も一口飲んでみて、やっぱ不味いは…て感想しか出ない。
このビールも周りの人たちはみんな美味い美味いって…言うんだろうな。
ふう…
軽く息を吐き出す。
ああ…そうそう、そう言えば幼馴染の娘は産まれたんだっけ?
祝福のメッセージ送らないとな。
もう大分疎遠になった気もするけど…昔は仲良かったしな。
祝福くらい贈ろう。
しかし今時にスマホのメッセージ機能を使って送信するとはな…
まあ…でも仕方ないか、だってSNSに彼を登録していないし。
携帯番号だって、親から彼今日結婚したって聞かされる時に親経由で手に入ったものだし。
僕の親と彼の親は今だに付き合いは続いているからな。
結局、結婚の祝福メッセージを送った後はそれきりで。
今はまたしても親経由で彼の娘が何日か前に産まれたと聞いたから、一応また祝福のメッセージを贈ろうと思う。
ちょっと遅れた祝福だけど、まあ…
メッセージを送りまた一口ビールを飲もうとして、やめた。
不味いからもう飲まん。
ちょっと勿体無いけど捨てるか…
人を真似するんじゃなかった。
みんな落ち込んでいる時にはアルコールを飲んで、酔って忘れろ!なんて言うから真似して何の興味もないビールを飲んだのに…
不味い、しゅわしゅわしたあの感覚はやっぱ苦手、あと頭がクラクラだけ…!
気分が悪くなってるだけじゃないか…
この酔ってる感覚、頭が上手く回らない感覚。
自分の精神が参っている時と同じものじゃないか…酔って得られるものは何も無いじゃないか…
もう子供の頃に一緒に馬鹿をやって遊んだアイツは娘も出来たのか…
イマイチ実感は無いけど、時間は進んだんだな…
ただ自分にはあんまりにも変化が無かっただけ。
交友関係に変化は無い、そもそも友達はとうに作っていなかった。
環境に変化は無い、今も親と一緒に暮らし適当に毎日を過ごす。
趣味に変化は無い、今も一人で漫画や小説を読み漁ってはゲームを遊び、歌を聞いたりアニメを見る。
これでも楽しかったんだ、今更楽な一人時間を捨て、他の人に積極的に関わるなんて出来ない。
だから。
この先も変化は無い、夢と情熱と自信は何処かに忘れた。
願望だけはあるよ…死のうていう願望。
何でだろうな?
偶に凄く泣きたくなる…
世界の終りを想像したら凄く楽になる。
別に他の人の不幸は願っていないのに…
何でだろうな…
何かに追い詰められずつと感じるのは?
いつも時間がないと焦るのは?
子供達が楽しく遊ぶ声、近所の喧嘩声、祭りの賑やかな声、夜中の静けさ。
全てが自分をかき乱す。
――僕が生きようと思ったのは、あなたに出会ったから。
と、聞き流してる他の歌にこんな歌詞が流れた。
僕も、あなたに会えたなら何かが変わるのかな?
昨日も今日も明日も同じ日にはならずに済むのかな?
でもそんなあなたはいったい何処にいるんだ?
そんな都合のいいあなたは果たして本当に存在するのかな?
そもそもそんなに素敵なあなたはこんなダメダメな自分に目が留まるのかな?
歌だけじゃない。
多くの物語に大切な人が居るからこの世界を生きる価値があるっていう答えを出している。
でも会えないよ、僕には見つからない。
そんなあなたはいったい何処にあるの?会いたいよ、見つけたい、見つかりたい。
…本当に凄い人達っているものだな。
ただ一曲、一曲分の時間で僕の気持ちがここまでセンチメンタルになった。
はあ…いつの間にか癖になっていた溜息を吐く。
この人もきっと才能だけじゃないだろうな…きっとこの人も自分なんかじゃ想像も出来ないような努力と経験を積んだのだろうな…!
羨望、憧れ、嫉妬、卑屈、諦め、逃避。
感情がぐちゃぐちゃ、そもそも羨む資格すらない。
何の努力もしていないのだから。
でも年の近い人の才能、その努力の成果があまりにも眩しいから…辛い。
若い人たちの才能と努力と成功はもっと辛い…死にたくなる。
何考えてんだろうな…自分は、そんな人たちと比ぶべくもないじゃないか…
あんなに多くのファン…人々に愛される彼らを意識して比べるとか、うぬぼれにもほどがある~
はははは~おかしいの~馬鹿かよ。
はあ…
ね、あなたは何処にいるんだろう?
あなたならこんな自分でも愛してくれるのだろうか?
何処を探せばいるんだろう?いっそ死んでみたらあの世で会えたりして…
ああ…でもそう言えば親より早く死ぬと地獄に落ちるんだけ?
じゃそんな素敵な人にはきっと会えないのかな?
――君が死のうというのなら、僕は笑って一緒に死んでやるよ。
先の曲が終り、また別の曲が流れて来た。
ああ、聞いたことがある奴だ。
そして凄く好きな奴だ、涙が出たくらいにね。
そう言ってくれる人が欲しいな、まあ、無理けど。
そもそも自分はそんな風に思われる程の価値はないから。
他人と関わるのを面倒がる癖に、自分を大事に思ってくれる人が欲しいとか、虫のいい話だ。
反吐が出るよ、こんな自分。
分かってる、分かっていたんだ。
そもそも一番ダメなのは…こんな風に全て分かっている気になっている癖に結局は何もしない事だ。
分かっているんだ。
ホントは空っぽじゃない事に、諦めてもいいように、楽になってもいいように…何処に忘れたふりをしたことくらい…!
今でも物語を書いている。
少年だった頃から物語が好きで、自分もいつかを書いてみたいと思ってる。
結局いつまで経ってものままで…!
そんな中途半端な気持ちで物語を書いては自信が無く、面白くないだろうな…って誰も言ってないくせに自分がそう言っては未完なままでゴミ箱行き。
そのくせ作者気取りで、物語を読むときは創作者目線で見る…!
ネットでコメントする事もせず、自分一人であれこれ勝手な感想を胸の内で語る。
誰とも違う所を見てる、違う着眼点を持っていると優越感に浸る。
何がしたいんだ!!!
もうただの独りよがりの妄想勘違い野郎だろう!気持ち悪いよ!!!
…っ…なのに、書くのを辞めようと思ったら凄く気分が悪い。
全然受け入れらない自分が居る、耐えられない自分が居る。
終わりにしよう、どーせ無理、せめて勘違い野郎で居るのは辞めよう。
諦めるのは慣れてる、なのに…書くのを辞める、そう決めた瞬間今までにない喪失感が湧く。
湧いてしまうんだ…!
中途半端でも、書くのを辞めたら僕は生きれない…!
どうしようもないくらい、僕にはそれが必要だ。
僕にとって書く事が何なのか、自分でもよく分からなくなっている。
でも必要なものだ。
だから、今日も書いてみる事にした。
調子の悪い頭をお構いなしにパソコンの電源を入れる。
フォルダを開けてドキュメントを開いた。
真白のページに文字を写。
きっと今回も中途半端に終わるだろう…
また途中でゴミ箱行きじゃない?
でも、書いてみた。
言えない事、言いたかった事、どう言えばいいか分からない事、夢に見た事、本当に感じた事、何処かの誰かの事。
祈りも呪も祝福も願いも欲望も絶望も希望も――探し物も。
ここではない何処かの話しを一杯書こうと思う。
途中でゴミ箱行きだろうけど。
でも、書いてみた。
何かを探すように書いた。
何かを得たいから書いた。
そもそも書き終えた所でなんにもなりやしないだろうけど。
それでも書いた。
ああ、こんなものは果たして物語にカウント出来るのか?
変なテンションで、変に爆発した思いをひたすら写だけなのに。
きっと見る者が居ればめっちゃ批判するだろう。
見る者が居ればな。
どうせゴミ箱行きだ。
ああ、嫌になる、変な予防線張ってる。
だから書く。
何かが見つかるように。
何かが埋めれるように。
思いを馳せる。
自分に無いもの、ここに無いもの、諦めたもの、探したかったもの。
例えば…君の事。
素敵な君、都合のいい君、一緒に死んでくれる君、死ぬ考えを辞めさせてくれる君、見つけたい君、見つけてくれる君。
でも、今回もゴミ箱行きだろうな。
それでも、意味があると言い張るように書く。
見る者がいない、ゴミ箱行き、評価されない、エゴの剝き出し、物語として失格。
それでも意味があると言い張るように書く。
何の意味があるかが答えられなくとも書く。
何の意味も無くとも書く。
フィクションでも、君の事を書く。
フィクションでも、あなたを探す。
――――ああ、楽しかった。
寂しい気持ちで君を、心躍るようにあなたを。
異世界から前世まで、四季から不変な空まで。
書き探す。
――ああ、虚しいかった。
でも、じゃ――
そんないやしない君はどこで探せばいい?
一番身近で、恩も恨みもある両親は違う。
あの頃一緒に楽しく遊んだ幼馴染たちも違う。
子供の頃に好きと思ったあの子も君じゃない。
欲しい言葉を言ってくれた初めての恋人だって君じゃないんだ。
だから書き探す。
馬鹿馬鹿しい、くだらない、意味不明。
自分が悪いだろう。
でも譲れない。
何がは知らん、でも譲れない。
だから書き探す。
君の事も、あなた以外の事も、全部。
………………………………
さて…ゴミ箱行きか。
…………………………………………………なんで迷ったんだろ?
ああ、なんか投稿サイト開いたぞ?
…………………………………………………
…………………………………………………
…………………………………………………
…………………………………………………
投稿した。
まじで?
あああ…これが酔った勢いって奴か…?
マジか。
はは、なんだ…案外役に立ったんじゃん、ビールも。
後の事はもう知らん、批判上等だクソ!
暫く経ったら多分酔って無くても吐きそうだろうけど…
――――あ~あ、ホントに楽しかった。
というか、まあ…酔いはもうとっくに覚めた気もする…けど…うん。
…別の何かに酔ってるだけな気もしなくもないけど…うん。
ビールのせいにしよう、そうしよう。