ふしぎな口紅
「あーあ、またきつく怒っちゃた!」
おかあさんは、ぽつりとつぶやきました。
としくんが、おもちゃを片づけないので、こっぴどく怒ったのでした。
「もっとやさしく注意したいのに、つい怒っちゃうのよね~」
おかあさんは、としくんがピアノ教室に行ってる間にお店で買い物をしながら、しょげかえっていました。
「おやおや、元気ないわね。この口紅をあげるわ」
どこからか、めがねのおばあちゃんがやってきて、口紅をくれました。
「えっ、口紅? いただいていいのかしら?」
おかあさんが、とまどっているうちに、めがねのおばあちゃんは、いなくなっていました。
おかあさんは、ピアノ教室が終わったとしくんといっしょに家に帰ると、さっそく口紅をぬってみました。
淡いピンク色です。
ふわ〜っと、いい香りもします。
鏡をみたおかあさんは、
「あら、素敵!」
と言うと、うきうきしてきました。
としくんが、またおもちゃを散らかしても、にこにこしています。
そして、
「遊んだら、このおもちゃ箱に片づけようね」
と、やさしく言いました。
「わかった」
としくんは、きちんとおもちゃを片づけました。
「イライラしなくなったわ。この口紅のおかげかしら」
そして、おかあさんは、つぶやきました。
「めがねのおばあちゃんに、また会いたいなぁ。お礼を言わなくっちゃ」