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嫁入り話



「その取引中止を言い渡された国とは、畜産物を取引していたそうだよ。肉や乳製品が主な品だったかな、山岳地帯で作られるチーズなんかはとても絶品らしい」


「おー、聞いただけでも美味しそう!」


「その国もソルートの無理難題の被害者らしくてね、ずっと手を切りたいと思っていたところに革命的な出来事が起こったんだ」




海に囲まれた海洋国家、マリオンという大国があってそこでは海に関連する産物はいくらでも用意出来ると昔から有名だった。

しかし、海産物は痛みやすく持ち運びには適していない。

せいぜい近隣諸国と取引することしか出来なかったのが、近年になって魔法大国と名高いマジェスタと取引に成功した。

そして『シリウスゲート』というものを使用出来るようにしたそうだ。




「魔法があるんだね」


「一般的ではないけどね。でもマジェスタでは日常に魔法が組み込まれているんだ。そのシリウスゲートも、ここ数年の間でようやく実用化できるようになったらしくて。どんなに距離が離れていても、ゲートの魔法陣が描かれている場所なら一瞬で移動出来るんだそうだよ」


「凄い!……あ、ということは」


「そう。山岳地帯の国マウテはソルートとの取引を止めて、マリオンに乗り換えたんだ。そのシリウスゲートのおかげでね」




魔法使いに陣を描いてもらう為に国に派遣してもらう人件費や、定期メンテナンス代が高いと言えば高いが。

それさえあればどこへでも行けるし、どんな品物も破損無しに一瞬で運べるのだ。



割に合わない報酬を支払わなくてもよくて、媚びへつらう必要がない対等なビジネスを結べるのだから悪しき取引は打ち切るに限る。

そのおかげで畜産系のおはちがファムズに回ってきたのだから、よかったのやら悪かったのやら。




「畜産物の取引を向こうが持ちかけてきた時に、さんざん自分たちがどれだけ昔から良くしてやったかという話から始まって…恩を返せだの親戚のよしみで融通しろだの言いたい放題で」


「……その親戚、ってところで王妃様いたたまれなかっただろうね」


「だいぶ追いつめられていたよ。だからこその今回の奇行なんだろうけど……」


「奇行?」


「…………マリオンの王に、私を嫁がせると言ったんだ」




ん?





「ん?」


「塩などの調味料や、海産物の取引を結ぶ為に…ソルートとの繋がりをこれ以上深めない為に。私を、マリオンの王の后にする為に嫁がせたいと言ってきたんだよ」


「私の理解力が追いつかないから待ってほしい。……この世界って、男同士の結婚って認められてるの?」


「一般的ではないね。だけど庶民の間なら跡継ぎでないことと、家に迷惑がかからず身内が認めるなら許されたはず」


「なら王族なら端から無理って話じゃないか?しかも相手は跡継ぎを作らないといけない立場の王様でしょうが」


「マジェスタの魔法薬を使えば、私を花嫁として送ることが出来るんだ」


「性別変えられる魔法薬とか?」




冗談のつもりで言ったのだが、神妙な顔で頷くカイトを見て嫌な現実があったものだと真琴はうなだれた。

わざわざ性別を変えてまで嫁がせる?しかも親が率先して?

親からうとまれているのかとも思ったが、その考えを見抜いたようにクスリと笑いながらカイトは「私を愛してるからこその行動なんだ」と言った。




「愛してるから、地獄のようなソルートとの関係を我が子に結ばせたくない。すでに血の繋がりがあるんだから意味はないだろうけど、これ以上の深い関わりを持たせたくないんだって…あの人は泣きながら言ったんだ」





どこか遠くを見ているようなカイトを、真琴はジッと見つめる。

まるで飴玉のように滑らかな蜂蜜色の瞳が、焚き火の灯りでゆらゆらと照らされ…眩く光って見えた。

その瞳の中には、焦りと迷いが宿っている。




王家の一員として、性別を変えてでも役に立たなければならないという考えと。

そんなことをしてまで政略結婚にこぎつけても、男であった事実は隠せないのだからそれこそ国際問題になる。

相手がバカにされたと思って、戦争に発展することもあるかもしれない。

結婚は置いておいて、どうにか他のことで取引出来ないか話し合いは出来ないのかと真琴はカイトに聞いてみた。




「父上も最初こそ真っ当な取引をしようと考えていたんだ、ファムズは名の通った農産大国になったからね。だけど、誰に相談することなく母上が結婚の打診をしたためた手紙をマリオンの王に送ろうとしたんだ」


「どういうことなの」


「ソルートからの連絡があって情緒不安定になったところへ、アサナシアがすでにこちらに向かってきている情報を聞いてしまったことによる強行だった…」




この世の絶望を全て煮詰めたような顔をして、カイトは深い深いため息をこぼしうなだれたまま己の不運を心底嘆くのだった。


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