再会
「そういえば、まだお互い自己紹介してなかったね。私は芦原真琴だよ」
「私は…オルカイトです。カイトと呼んでください」
「カイトね、私も真琴と呼んでよ」
「マコト、マコト………………マート?」
その名を呟いた瞬間。
カイトは目を見開き、真琴に穴が開くんじゃないかと思うほど強く見つめた。
なるべく視線をそらして、あからさまに見ないようにしていたにも関わらず。
真琴の名前を聞いた途端に、ものすごく驚いた顔でずいっと近づいてきたのだ。
なんだなんだと動揺しながらもカイトから離れようとしたら、顎を掴まれこれでもかと見つめられる。
さすがにイケメンのご尊顔が至近距離にあったら、耐性の無い真琴では恥ずかしさを通りこしてーーーー吐く。
羞恥と緊張が臨海突破して思いきりぶちまけてしまう。
それだけは避けねばと、渾身の力を振り絞って真琴の顔をものすごく強く掴んでいた両手をなんとか引きはがす。
…目の端に見えた掴まれた手首には、うっすらと指の跡が付いていた。
「マートだよね」
「マート?あー……そういえば、子供の頃にそう呼ぶ友達いたな。なんとなくだけど覚えてる」
「いつ頃のこと?」
「私が8歳の頃、ぐらいかな」
マコトではなく『マート』という呼び名は、小さい頃に少しだけ一緒に過ごした友達が付けたあだ名だ。
地元の友達は呼ばない特別な呼び名、カイトに呼ばれるまですっかり忘れていた。
「マート!!!!」
「うぉぉぉいっ!!」
押し倒される勢いでカイトに抱きしめられた。
会いたかった、会いたかった!!と耳元で叫びながら首から肩にかけてグリグリと頭を押しつけるものだから、くすぐったいやらなんやらで変な悲鳴が上がる。
そんな真琴の状態もおかまいなしに、マート、マートとカイトが呼び続ける。
いい加減にしろという意味も込めて、腹やら胸やらを殴るがさすがにびくともしない。
手が届く背中や腹をつねろうとしたが、そもそも余分な肉が無いのでつまめなかった。
「な、にいきなり抱きついているんだっ…離せ変質者!!」
「……ずっと、会いたかったっ…」
「会いたかったぁ?え、何。私たち会ったことあるの?」
男の長い黒髪が真琴の全てを覆いつくすように垂れ落ちたこの状況に、既視感を覚えた。
この豊かな黒髪も、飴玉のように綺麗な蜂蜜色の瞳も……見覚えがあるのだ。
それこそさっき真琴自身が言った子供の頃、ほんの少しの間だけ一緒に過ごした友達と同じ……。
だけど決定的に違うのは、その友達はヒラヒラのドレスが似合う絶世の『美少女』だったということ。
男の子たちにモテにモテまくって、しまいにはプロポーズされまくって真琴が全て叩きのめして事なきを得たという『あの』伝説の美少女オルちゃんだというのか。
「男の子たちのリーダーをしてたダイキチ?だったかな…その子と一騎討ちの戦いを繰り広げて、圧倒的差を見せつけて勝利したあの戦い。……今でもハッキリ覚えているよ」
「間違いないオルちゃんだ。うん、わかったからそれ以上私の黒歴史を掘り起こすのはやめようか?」
「ダイキチが私の腕を無理やり掴んで言うことをきかせようとして…それを見たマートが颯爽と現れて、いきなり飛び蹴りを食らわしたんだよね」
「口を開くな頼むからもう黙ってくれ」
「不意打ちなんて最低だと言ったダイキチに、マートは『嫌がる女の子に無理やり言うこときかせようとするやつの方が最低だ、恥を知れ!!』って怒ってくれた」
「生意気盛りだったんです……すみません…」
子供の頃の無鉄砲で怖いもの知らずの行動と言動をまざまざと思い出させられて、真琴はあまりの恥ずかしさに勢いでカイトから距離を取った後にそれは見事な土下座を披露したのだった。