近場のつもりが遠すぎた
ーーーーそして残された母娘と譲の母親はというと。
家に真琴がいるとせっかく大人しくなったのにまた興奮するかもしれないから、夕方まで外出してきなさいと母から指令が下った。
ようはたまにはオシャレして出かけてみれば?と言っているのである。
しかし普段から自室でゴロゴロしているのが日常の喪女が、オシャレ着をそんなに多く所持しているはずもなく。
結果、普段着で近所にある公園に行きがてら商店街を冷やかすぐらいしか思いつかなかった。
せめて友人と出かけられたらよかったんだろうが。
いかんせん数少ない友人たちは、いきなりの予定ぶっ込みを許してはくれない。
相思相愛の恋人とデートしていたり、個人の趣味に時間を費やしていたりしているからだ。
ちなみに彼女たちの趣味は、非常にアクティブな全身の体を使ってます系の趣味なので。
休日にまで全力で体を使ってしまえば仕事に影響出まくりな真琴は、よほどのことがない限り付き合えない。
(しかしその趣味のおかげで女友達たちは人格優れたイケメンの金持ち彼氏をゲットしたのだから凄い)
運動は出来なくもないが、近所の風景を眺めながらまったりゆったり散歩を楽しむ方が好きなので。
紅葉に染まりはじめた秋の風景を眺めながら、ひときわ綺麗な景色を楽しむべく公園の先にある遊歩道に足を伸ばしたーーーーはずだったのだが。
広い公園から紅葉が並んで植えられている遊歩道かまでの一本道を歩いていたはずが、どういう訳か。
瞬きをした瞬間から、緑の葉っぱの木々が鬱蒼と生えている森の中に立っていた。
周辺に紅葉した植物はたくさん生えているが、こんな青々《あおあお》とした木々ばかりの森なんて存在しない。
ご近所の元気なお年寄りたちいわく、公園周辺の木々は常緑樹は少ないと言っていた。
つまりここは、公園周辺の土地じゃない。
公園から少し歩けば山に入れるようにはなっているが。
それでも道なんて整備されていないのだから、わざわざ虫が潜んでいる鬱蒼と茂った藪に入ろうなんて面倒な真似を真琴がするはずがない。
何かおかしい。
そう考えてからの真琴の行動は素早かった。
まずは川を探すことにしたのだ。
体力がある内に水を確保して、そこから太陽が出ている間に方角を確かめる。
幸いなことに、健康診断でまったく問題ないとお墨付きをもらった真琴の聴覚で先ほどから水音が聞こえていた。
水場は近い。
伸びまくった枝などを避けながら、水音がする方に歩いていく。
ーーーーーーすると、日頃の行いが良かったのか悪かったのか。
川からはい上がるようにして倒れていた、水も滴るいい男を発見した。
ここで冒頭に戻るという訳である。
真琴はイケメンを引きずりながら近くのほら穴に連れていき、甲斐甲斐しく介抱した。
……………………イケメンが目覚めるまでの決して短くない時間。
枯れ枝を集め、ライターもマッチも虫めがねも無い最悪な状況の中なんとか火をおこすことに成功した時には。
すでに太陽で方角を確かめられない時間になっていた。