謝罪
和気あいあいと話をしていると、ティスがモジモジとしながら何か言いたそうにしている。
さすがに長引かせてしまったと反省して、カイトにわかりやすく話を振った。
「そういえば、今日はティスに折り紙を教えてあげたんだよ」
「折り紙……というと、マートの故郷の遊びだよね?動物や花とかを紙1枚で作った時は驚いたよ」
「じいちゃんがゴリラの折り紙作った時に「ばあさんソックリじゃろ!」って笑いながら見せてきた時には……子供ながらにゾッとした」
「お昼ごはんを食べた後だったから、なにかと理由をつけて外に逃げ出せたのも幸いだったよ。……帰ったらしばらくおじいさんの姿を見かけなかったけど」
「ま、生きてはいたんだから問題ないって」
「いや問題だらけだろう」
至極真面目な顔と声色で言ったオルフェウスに、真琴とカイトは揃って首を振った。
祖父の祖母に対するご機嫌取りは3日続いたが、なんとか許してもらえたのだから問題はないのである。
ちなみに不機嫌だった3日の間、真琴やカイトは祖母手製の美味しい食事だったのだが……。
祖父は市販の安いふりかけのみを与えられていた。白米は無しである。
冷蔵庫の中に手出しはならず、保存食も鉄壁の守りだった。
ただ自身の小遣いの範囲でなら外食は許されたので、車で片道1時間の小さな定食屋に行けば食事は出来た。
しかしそれがいつまでも続けられるはずがなく。
3日間、謝りに謝り倒してなんとか許してもらえたのだ。
食を牛耳っているものが勝つのだと学んだ、子供時代の出来事である。
「ティスって器用なんだよ、それに賢い。教えたら1度で大抵の物は折れるんだ」
「わたくしには花を折ってくれたのです」
「私には王冠だ」
「私には犬。ーーーーで、カイトにも渡したいんだって」
「え?」
「………………おじ上、」
椅子から降りて、小走りでカイトの元に向かい視線をさ迷わせながらモジモジしている。
その様子を大人たちは黙って見守るが……意を決したティスが、勢いよく頭を下げた。
「今までごめんなさい!!」
「オルティス……」
「ボク、ずっとひどいことを言いました。おじ上、すごく頑張ってるのに…傷つくことをたくさん言ってごめんなさい」
おわびの品としてティスがカイトに折ったのは、ピカピカとはいかないが金色に近い色のメダルだ。
中心にはこちらの言葉で『あなたはとても頑張っています』と書かれている。
真琴はカイトに「屈んで」と耳打ちした。
それに素直に応じ床に座りこむようにして屈むと、ティスが紐つきメダルを首にかける。
みんなが口々に「よく似合う」や「とてもよくお似合いです」と褒めちぎったので、カイトはもちろんメダルを作ったティスまでわかりやすく照れた。
「受けとってくださって、ありがとうございます」
「……可愛い甥からの贈り物を、受け取らないはずないだろう?」
「カイト、顔ニヤけてる。今にも溶けだしそうだよ」
「ははっ!嬉しくてたまらないようだな。まぁ、当然か」
「今まで、本当に心無い言葉ばかりを言っておりましたから……わたくしも申し訳ないことだと思っておりました」
「本当にごめんなさい」
「きちんと反省し、こうして謝ってくれた。なら君を許すよ」
「ありがとうございます、おじ上!」
こうしてなんとか、叔父と甥の仲直り作戦は成功したのだった。