理想の夫婦
夕食もかなり豪華だった。
さすがに連続で肉ばかりの食事は胸焼けすると事前に伝えていたおかげで、肉料理はほどほどに野菜たっぷり料理が所狭しとテーブルの上に並ぶ。
新鮮な野菜ばかりを使っているので、味わいが段違いである。
あまりの美味しさに葉っぱ1枚も残さずに食べきったのを、特に王太子一家がニコニコ顔になって見ていたのには純粋に驚いた。
自国の特産品を美味しそうに平らげたのを見れば、気分が良いし単純に嬉しく思うだろう。
それに真琴は恩人でもあるので、一家の好感度はまさにうなぎ登りに上がっていくのだった。
「マート様、食後のお茶を召し上がりませんか?」
「はい、ぜひともいただきたいです。カイトも飲むだろ?」
「いや私は……」
「急を要する仕事は無いはずだが?」
「明日からマートにできる限り付き添いますので、今のうちに片付けられる仕事は終わらせておこうと…」
「……仕事を任せられる人材が少ないのは、嫌というほど理解している。だがまったくいないわけではない、そういった者たちに仕事を振り分けるのも上に立つ者の務めだぞ」
話を聞く限り、カイトは仕事を抱えこんでしまうタイプのようだ。
少年時代から忙しく働くことが当然の毎日だったんだろう。
さんざん人手不足と嘆いていたし、自分が仕事を片付ける方が速いし安心だったんだろうから誰か他の人材に任せるというのは難しいのかもしれない。
カイトは少しばかり考えこんだ後に、側に控えていた侍従を呼び寄せひそかに耳打ちした。
ある程度話し終えると、侍従は頭を深々と下げてそれから部屋を退室する。
これからの仕事の進行について、部下と話し合うのだろう。
おそらくはその呼び出しを指示したのだ。
カイトのことなので、今夜中には仕事の配分の指示は出し終えるだろう。
ということで、とりあえず。
両親のお膳立てで部屋に残ることになったカイトのことを、ずっとチラチラ見続けているティスに助け舟を出すことにした。
「このお茶美味しいですね。ほのかな甘みがあって……だけどくどくない」
「お気に召されたのならよかった。これはフォーグ国という国から仕入れた特産品ですのよ」
「フォーグ?」
「霧が多くて肌寒い土地なのだそうです。ですがその気候ゆえに美味しい茶葉が育つのだとか」
「ディート兄上が初めて取引を成功させた国でしたね」
ディートとは第2王子、オルディートのことである。
普段から婚約者のリリアナと一緒に、国から国を渡り歩いて取引を成功させているおかげで。
こうして嗜好品も楽しめる毎日を送れているのだと、カイトは今はいない兄に感謝を述べながらお茶を飲んだ。
「日頃から苦労をかけ通しだった婚約者に、気に入った茶をいつでも飲んでもらえるようにと取引を成功させたと言っていたな……」
「それは凄いですね」
最愛の婚約者の為に、彼女が気に入った茶葉を流通させることに成功するなんてものすごい偉業と言ってもいい。
なにせ王子個人ではなく、国と国が関わった取引だったそうだ。
取引が成功して初めて手に入れた最高品質の茶葉を、綺麗に包装して2人きりの時に贈ったらしい。
オルフェウスの時にも思ったことだが、ファムズの王族はみんな伴侶に対してとても思いやりが深く愛情深い上に一途だ。
相手が幸福である為の努力を惜しまない。
それはとても素晴らしいことだと、真琴は人知れず感動した。
故郷のドロドロした浮気問題や離婚問題などの様々なことを思い返せば、ファムズの夫婦のあり様は奇跡とすら思ってしまう。
カイトも晴れて自由に伴侶を捜せるようになれば、きっと兄たちに負けない愛妻家になるだろう。
その時は友として盛大に祝おうと、にこやかに微笑みながら決意するのだった。