誤解
カイト発見隊を結成した2人は、仲良く手を繋いで廊下を歩きはじめた。
まだ小さいティスに合わせて歩きながら、誰かと遭遇することを祈る。
すると前方からメイドたちが数人歩いてくるのが見えたので、真琴が声をかけようとしたら。
ーーーーいきなり駆け寄ってきたメイドの1人に、思いきり突き飛ばされた。
「は?」
突然のことだったので、思わず後ろに倒れそうになったがなんとか踏みとどまる。
体勢を立て直したところで、手を繋いでいたティスが無事か確認しようとしたが……。
確認するまでもなく、メイドたちが抱き上げかなりの距離を取っていた。
「……なんのつもりですか?」
「それはこちらの言いたいことです!あなた、この方を誘拐しておいてよくもっ……!!」
「はぁ?」
どういうことだと首をかしげれば、ティスも真似して首をかしげるのでつい笑ってしまいそうになる。
どうやら誤解が生じているようなのだが、まったくもって理解出来ない。
しかしよくよく見れば、メイドたちに違和感を覚えた。
全員が中年の女性たちばかりなのだ。
真琴の世話をしてくれたメイドたちは、比較的若い世代だったことを覚えている。10代や20代ばかりだ。
今直面している問題に、城の主の意向にそって働く者ばかりだというなら年齢も主に近しい者が多いと考える。例外はあるとしても。
そして最近のティスは、祖父母が住まうカーレ城に入り浸りだと聞いている。
つまり、ティスを抱き上げているメイドたちは真琴の事情を知らないカーレ城のメイドだということだ。
素性の知らない人間が、行方をさがしていた王子と一緒にいたらいち早く助けないといけないと思うだろう。
……これでもし真琴が重要な国賓とかだったら、メイドたちはタダじゃすまなかっただろうが。
身分も権力も無い異世界人相手なら、国王夫妻に仕えるメイドの方がまだ言い分が通る。
それに、このメイドたちのおかげでいいことがわかった。
ティスはファーマ城に帰ってきてから、真琴の存在を聞いたのだ。
つまり、カーレ城の人間にまだ存在を知られていない。
わずらわしい対策を立てずに済んだことを素直に喜んで、真琴はうやうやしく頭を下げた。
「なにか誤解が生じているようですね。私は本日よりこちらのお城で働かせていただくことになりました、マートと申します。そちらの坊ちゃまが空き室でお休みになられていたところを発見し、王太子殿下のところまでお連れするところでした」
嘘も方便。
せめて対策が思いつくまでは、真琴は正体を知られるわけにはいかなかった。