今後の事
精神を消耗する励ましをいただき、殿方たちが到着するまでお茶をいただきながら2人のなれ初めや告白はどんな感じだったのかを聞かれた。
当たり障りのないことを返答するだけでも、フランティーヌは白磁の頬に赤みがさしてうっとりとしている。
どこの世界だろうと、女性の大半が恋バナが好物なのは変わらないらしい。
事実を知ったらどうなるんだろうと考えていたら、ようやくカイトと王太子がやって来た。
「遅くなってすまない」
「待たせてごめん」
「あら、もうこんなに時間が経っておりましたのね。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいますわ」
「はは…お楽しみいただけたのなら幸いです」
顔面偏差値が高い人物たちに囲まれたことで、ただでさえ慣れない恋バナで精神が消耗していたのがさらに摩耗していくのを感じる。
運ばれてきた料理はとても美味しそうだったが、今はとても味わうどころの話じゃなかった。早く1人になりたい。
ひと通り料理を味わったところで、フランティーヌは王太子妃としての仕事が入っているらしく席を退出していった。
なんでもこれは、王太子が急きょ仕事を割り当てたらしい。
理由は言わずもがな、残った3人で話し合いをするためだ。
場所を移して個室に入り、人払いを完璧に済ませると。
食後のお茶をいただきながら、カイトはひと通りのことは王太子に説明済みだと話した。
「とりあえずはマリオンとの取引成功の為の作戦を立てることと、ソルートの縁談阻止の為に2人が仲睦まじく……かつお互いになくてはならない存在であると全ての者に示すことだ」
「具体的にはどうしろと?」
「あなたには自身の価値を見出してもらいたい」
王族らしい威厳のある態度を見せながら、王太子は真琴にそう告げた。
いわく、カイトがなくてはならない存在だというのは誰もが知っているし理解している。
だけどぽっと出の真琴がどうしてもカイトに必要かと問われれば、それはただのワガママと言われかねない。
作戦を成功させる為には、真琴がなにかしらのことで成功し価値がある人間なのだと認めさせなければならないのだ。
それはとても曖昧なことで、手探りな状態だからどうすればいいのかわからない。
だけど真琴としては、とりあえずマリオンの取引成功の為の作物を使った加工品や料理開発。
そしてカイトと協力して、新しい作物生成の為の条件探しをする以外に今のところ思いつかなかった。
「そういえば根本的なことをお尋ねするのを忘れてました。舞踏会っていつ頃開催されるんですか?」
「1か月後だ」
「舞踏会の1週間前にはマジェスタの一団が来るから、もう1か月もない訳か……なら早く取りかからないと」
「とりあえず、今日はゆっくり休みなよ。昨晩は寝ていないわけだし」
「……念を押して尋ねるが、成人しているとはいえ結婚前の男女がどうこうなった、ということはないな?カイト」
「代わりに私がお答えします。そんな事実はまったくこれっぽっちもひと欠片ほどもございません!」
あくまで衣食住の保証の為の協力関係だ。
カイトを中心とした問題が起こっているのなら、それを解決しない限り保証は無いにも等しい。
念押しされるまでもないのだ。
「……そこまではっきり否定しなくても……」
「誠実さは大事でしょ。お互いの利害の一致で仮初めの婚約者になったんだから、いざ友達の関係に戻ろうって時になにかあったって誤解されたら困る」
そこまで言えば、これでもかというぐらい頭を垂れてそのまま腰かけていた上等なソファに倒れてしまった。
別に気絶したという訳ではなく、王太子いわくどうやらふて腐れているらしい。
なぜふて腐れる?と純粋に疑問に思ったが、さすがにバッサリ切り捨てすぎたのか?という答えに行きついた。
友達とはいえ、人によっては『私たちはそこまで仲良くありません』と言っていたように聞こえたのかもしれない。
兄である王太子が声をかけ続けているが、おざなりの返事ばかりで起きあがる素振りを見せもしない。
困ったように真琴に視線を向けてくるので、ため息を一つつくと立ち上がりカイトの側に向かった。
「そういえば、お礼を言いそびれてたね。ありがとう」
「……何が?」
「ここまで連れてきてくれたこと、お風呂や服の用意をしてくれたこと、食事に私の好きなお肉を多めにしてくれたこと」
「っ、気づいて……」
「昔、一緒に暮らしてた時に私がお肉が好きって言ったの覚えててくれたんだなーって…嬉しかった」
「……マートが『お肉に埋もれたまま食べ尽くしたい』って言ったのが衝撃的すぎて、忘れられなかったんだよね」
「それは今すぐ忘れようか」
「なぜ?」
なぜじゃないわい。