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お義姉様




城内に案内されてまず通されたのは、立派な浴室だった。

陽の光がさんさんと差し込み、真っ白な石で作られただろう広々とした円形の風呂の側にメイドたちが数名待機している。

言わずもがな、真琴のお世話をする為に集まったんだろう。

ものすごくいい笑顔で一礼していた。




抵抗むなしく全身をくまなく丁寧ていねいに洗われたかと思えば、肌をいためない温度のお湯にたっぷり浸かり。

爽やかな新緑の香りのような香油をふんだんに塗られ、手慣れた感じでマッサージを受けた。極楽だった。




全身くまなくピッカピカになったところで、用意された衣服に袖を通す。

……話はすでに通っているようで、きちんとサイズの合った上等な男物の服一式を差し出される。

シャツにベストにズボンというシンプルな物だ。

下手にキラキラした服だったらどうしようと考えていただけに、着飾らない感じの服で大変助かった。男物だけど。




「大変よくお似合いです」


「袖や裾などにご不便はございませんか?」


「ちょうどいいです、ありがとう」


「お支度が整いしだい、お連れするように承っております。どうぞこちらへ」




メイドの中でも筆頭らしき女の人が、うやうやしく一礼した後に真琴をカイトの元に案内する。

おそらく身支度もそこそこに、王太子と話し合いをしているんだろう。

真琴のこと、これからの計画のこと、もろもろのことだ。




城内食堂に辿り着くと、待っていたのはカイトではなく王太子妃のフランティーヌだった。

すでに上座に着席しており、優しげに微笑みながら真琴に挨拶する。




それに応えて挨拶を返しながら、指定された席に座ろうとするのだが……。

高貴な人と間近で同じ卓に座るという経験なんて無い今の状況に、真琴は柄にもなく焦っていた。




せめてカイトが間に入ってくれれば話は違っただろうが、周囲の様子から察するにまだ来ないと思われる。

無難にできる限りの笑顔を見せながら、お行儀よく座っていると……。




「そんなに緊張なさらないで。あなたとわたくしは姉弟になるのですから」


「はい……はい?」


「オルカイト様から簡単ではありますが、説明を受けました。あなたが長年待ちわびていた、幼い頃に出会った特別な人なのだと」





異世界での生活を共有し、魔法を授けてくれたとあれば確かに真琴は特別な人だろう。

条件が揃えばカイトが使える魔法がさらに増えるかもしれないし、しがらみが無いので色々と結婚相手うんぬんでも利用しやすい。

確かに『特別』な人だと言えた。




そんな真琴の心中を知らず、フランティーヌは頬を紅潮させ、うっとりした表情で真琴を見つめた。




「特殊な環境下に置かれてお育ちになったせいで、どんなご令嬢とも親しく付き合わなかったカイト様が……あなたには積極的かつ特別扱い。驚きました」




そりゃ並の美しさじゃなかっただろう美少女(男)が、望んでもいない不本意な姿でご令嬢と交流するのは苦痛以外の何物でもないだろう。

……もしやカイトは友達すらいないなんてことがありえるのかもしれない。

友達のさらなる闇の深まりに、人知れず冷や汗が流れた。




「あんなに嬉しそうに語るカイト様を見たのは、初めてのことでした。やっと会えた、嬉しい、マートに不自由はさせられないから頑張らないと!と、オルフェウス様に嬉々として話しておられましたわ」


「カイトがそんなことを…」


「……障害は多いと思います。立ちはだかる壁は高く、簡単に登ることは出来ない。けれど、そんなものなどものともしないとお考えのカイト様を始めとした、わたくしたちもおります」




光指す豪奢な食堂でフランティーヌは神々しいまでに美しい笑みを浮かべたまま、まっすぐにマートを見てこう言った。




「たとえ一般的ではない殿方同士の恋でも、必ずやお力になりますわ!!」




素直に喜べないわ。





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